杏子の映画生活

新作映画からTV放送まで、記憶の引き出しへようこそ☆ネタバレ注意。趣旨に合ったTB可、コメント不可。

余命10年

2022年08月10日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)

2022年3月4日公開 125分 G

数万人に一人という不治の病で余命が10年であることを知った二十歳の茉莉(小松菜奈)。彼女は生きることに執着しないよう、恋だけはしないと心に決めて生きていた。 そんなとき、同窓会で再会したのは、かつて同級生だった和人(坂口健太郎)。 別々の人生を歩んでいた二人は、この出会いをきっかけに急接近することに——。 もう会ってはいけないと思いながら、自らが病に侵されていることを隠して、どこにでもいる男女のように和人と楽しい時を重ねてしまう茉莉。 ——「これ以上カズくんといたら、死ぬのが怖くなる」。 思い出の数が増えるたびに失われていく残された時間。二人が最後に選んだ道とは……?(公式HPより)

 

小坂流加(茉莉と同じ病を抱えていて、本作の文庫版発行直前に病状が悪化して原発性肺高血圧症で逝去しています。)の同名恋愛小説を藤井道人監督で映画化。「RADWIMPS」が主題歌「うるうびと」を含む劇伴音楽を担当しています。春夏秋冬折々の季節に重ねるように、かけがえのない一瞬一瞬を鮮明に映し出した映像は、「大切な人たちとの日々」がいかにかけがえのない素晴らしいものかを伝えてくれます。

茉莉(まつり)は、数万人に一人という難病の肺動脈性肺高血圧症を20歳の時に発症しました。当時、この病気には有効な治療法があまりなく、余命は長くて10年と言われていたようですが、現在はプロスタサイクリンの持続静注療法や他の薬剤の開発が進んでいて、治療成績が大幅に向上しているそうです。動いたときに息切れがする、疲れやすい、胸痛や動悸がするといった症状があり、支持療法(在宅酸素療法、抗凝固療法、利尿剤、強心薬など)と肺血管拡張薬での治療が行われています。

2011年。闘病仲間の礼子はビデオカメラを託し「最後まで生きてね」と言って亡くなります。葬儀に参列した茉莉は、肩を震わせて泣く礼子の夫を見ます。葬儀の帰り道、桜の木をビデオで撮影しながら、茉莉は愛する人を悲しませたくないと自分は恋をしないと思ったのかな。

2年後。茉莉は主治医の平田先生(田中哲司)から余命と共に励ましの言葉をかけられて退院します。 退院祝いに集まった学生時代の友人たちと盛り上がりながらも、病気が全快したと思っている友人たちとの距離を感じ複雑な気持ちになる茉莉は、帰り道で友人の沙苗(奈緒)から「小説書かないの?」と聞かれます。

当時住んでいた静岡県三島市の中学校の同窓会の案内が届き、父(松重豊)に送ってもらって参加した茉莉は、「普通の生活」を送る同級生たちの話に複雑な思いを抱きます。返却された卒業時に書いたタイムカプセルには「元気ですか? 恋人はいますか? 小説は書いていますか? 元気に生きていくてださい。」と書かれていました。

東京組はタケル(山田裕貴)と茉莉と和人の3人だけでした。 東京に戻った茉莉は、スーツを着て面接に臨みますが、病気が原因で就職は難航します。タケルから和人が自室の窓から飛び降りて自殺を図ったと聞き、タケルと病院に行った茉莉は、理由を聞いて「真部くんのことよく知らないけど、それってずるい」と言って背を向けます。(父の会社を継がないと決め、両親とも仲違いして東京に出てきた彼にとって、自分のタイムカプセルの「「父さんの会社でバリバリ働いていますか? 元気で生きていてください。」の内容は心に刺さったのでしょうね。)

退院祝いでタケルの行きつけの焼き鳥屋「げん」に集まった3人。病院で茉莉と彼女の母(原日出子)を見かけた和人は、茉莉が怒ったわけを誤解して謝罪します。その帰り道、桜並木の下でビデオを回しながら「これからどうするんですか?」と聞く茉莉に、和人は「とりあえずバイトして家賃を払います」と答え、「私もがんばるので、もう死にたいなんて思わないで下さい」の会話が。この時突風が吹いて桜の花びらが舞い上がります。このシーンはラストでも形を変えて登場しました。

和人は「げん」でアルバイトを、茉莉は沙苗の紹介でコラムの仕事を始めます。沙苗とタケルが付き合いだして、4人で遊ぶようになります。花見や海、クリスマスなど季節のイベントを楽しむなかで、和人は茉莉と距離を縮めようとしますが、微妙な空気のまま時間が過ぎていきます。

2016年、姉の桔梗(黒木華)が結婚します。披露宴の最中に体調が悪くなってトイレに駆け込んだ茉莉は、親戚のおばさんたちの会話に傷つきます。肺移植手術を提案した桔梗に、思わず「生きることを諦めたんじゃない。治療法が無いってわかっていてもう戦えない!放っておいて」と言ってしまいます。「(自分と家族と)どっちが可哀そうなんだろうね」と言う彼女の言葉が突き刺さります。

友人の美弥から、夫の心臓に傷害のある友人を気持ちがわかり合えるだろうから紹介したいと言われてその場は笑顔で応じながら、帰りにやけ食いしてトイレで吐きながら泣く茉莉。何というか・・・善意からのお節介は時として残酷に相手を傷つけるものですね。

「げん」の主人(リリー・フランキー)に背中を押され、茉莉の最寄り駅で彼女を探していた和人は、「茉莉ちゃんが好きだ。俺が茉莉ちゃんの事守るから一緒にいて下さい」と告白して、付き合い始めた二人。2017年は普通のカップルと同じように幸せな時間が過ぎていきます。  そして茉莉は自分の経験を基にした小説を書き始めます。

1泊でスノーボードに行き、和人からプロポーズされた茉莉は冗談めかして断ります。 その夜結ばれますが、翌朝一人で宿を出た彼女を追いかけてきた和人に、茉莉は自分の病気を告白し別れを告げます。 帰宅した茉莉は母に「もっと生きたい。死にたくない」と涙を流します。

2019年。小説を書き上げ沙苗に託した茉莉。痩せて酸素マスクや心電図を着けながらも、沙苗と校閲を続ける茉莉は、姉に「最後まで私の命を諦めないでくれてありがとう。お姉ちゃんがお姉ちゃんで良かった」と感謝を伝えます。泣けるシーンです。

友人たちや和人との思い出が詰まったビデオカメラのシーンを見ながら次々そのデータを消去していく茉莉でしたが、最初に夜桜の下で和人にカメラを向けたときの映像は消せませんでした。彼女は、和人との幸せな未来の夢を見ます。

和人は独立して自分の店を持ちました。開店祝いにタケルと駆けつけた沙苗から渡された袋の中には茉莉が書き上げた小説『余命10年』の原稿が入っていました。自転車を飛ばして病院に到着すると、意識のない茉莉に、自分の店をオープンしたこと、店の名前が「まつり」であることを伝えます。原作では二人は別れた後生きて会うことはなかったようですが、映画では意識は無いとはいえ、和人が自分の人生を歩みだしたことを報告しています。

茉莉の葬儀の日、彼女のビデオカメラで、あの日一緒に歩いた桜並木を撮ろうとした和人の前で、あの時と同じように突風が吹きます。その先に和人は何を見たのでしょうか。

二人は結ばれ、子供を遺して逝くという選択肢もあり得るんじゃないかと思いますが、原作は違いましたね。それだけの強い覚悟が主人公にあったということでしょうか。でもやっぱり愛を自ら遠ざけるのは辛過ぎるかなあ。

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