白髪メッシュから黒毛

薄墨桜の帰り高齢の女性と臨席になった。窓を開けて何やらハンカチで摘んだチリを捨てられた。
「窓開けていいですか？」から私が降りるまで、ついつい話し込んでしまった。ゴミではなくて帽子に付いて来たてんとう虫で、緑の多い停車駅を待って放ったんだそうだ。見知らぬ人と話すのは最近、高齢者ばかり。知っている人以外は警戒して、寄せ付けないこれからの人は、どんな老齢期を迎えるのだろう？青春１８切符の30年来の愛好者だ言われ、スタンプが幾つも押された明日で期限の切れる１８切符を見せてもらった。

「お元気ですね。」と聞くと病歴の話が始まった。
口のガンで病後間がないとか。数度のガン治療入院中、転んで大腿骨にボルトが埋め込まれている話。松葉杖の時でも青春１８切符を使った話。次から次。

家を処分してケア・ハウスに荷を入れて、まず念願の富士登山。１ヶ月の鈍行の旅をしてから入所。松葉杖でのＪＲ利用は身障者利用の便、不便を身を持って体験出来て良かった。駅の身障者用トイレには荷物置きがないので提言。と、身の不運を嘆かない人らしかった。

ガン治療の辛さは寄り添って目の当たりにしたので、すごく共感できた。また何より、つるっぱげ経験が私にはある。ガン治療もまたハゲル。生え方が円形脱毛と同じなのに驚いた。

はじめは白髪の薄毛から、だんだんと密集して生えてきた。白髪でもいい、生えればと念じた。やがて白髪メッシュのベリーショート。カツラを脱いだ。今では、白髪は消えほとんど黒に、ポツポツ白髪。前の席の同僚が、「白髪が一本見える。抜きたい。」と、先日言った。

「大切な１本だから、抜けないの」

アクセス解析を見ると、ほとんど書かない「円形脱毛」検索が毎日あるので、ちょっと現状など。円形は誰に聞いても話しても、命に関わらない病気だから、なかなか辛さが分かってもらえない。私も必死でネット検索をした覚えがある。見た目に普通のアスペルガーにも似ている。また、いつ再発不安のガンにも似ている。しかし、たかがハゲ。つい誰か彼に話したところで世界だ。

”青春１８切符のおばぁちゃん”は孤独を楽しむ達人のようだ。行く電車に手を振った。車窓から会釈の後、ためらいがちに手が振られ通り過ぎた。きっとまた会わないかもしれないけど、また会おう～