細田暁の日々の思い

土木工学の研究者・大学教員のブログです。

経験

2016-02-21 13:31:47 | 人生論

経験の必要ない仕事、など無いのかもしれませんが、仕事により経験の重要性は異なるものと思います。

私の関わる土木の仕事は、経験工学と言われる場合もあることから、経験の重要性が大きい分野であると思います。

日々の仕事に真剣に取り組み、全うな経験を重ねていくことが、仕事力の向上につながる、という意味では土木を職業としていることは幸せなことである、と私は思っています。なかなか成熟に至らないので、少なくとも努力のしがいはある分野です。 

一つの例として、コンクリート標準示方書、があります。私が育った研究室や職場では、岡村甫先生にしても、石橋忠良博士にしても、コンクリート標準示方書の第一人者であった方々に教わってきました。非常に重要な技術規準ですから、それらの先生方のように、示方書の改訂に貢献できるといいな、と学生時代や卒業直後は思っていました。

しかし、示方書というものは、そもそも学生が読んで面白いものではありません。学生の間に通読することはよほど問題意識を持っている人か、強制的に読ませられないと、できることではありません。また、読んだとしても、問題点や課題を見出すことは、よほどの人でないとできないと思います。

私自身は、私が組織してリーダー役も務めた有志勉強会の示方書勉強会(現在は活動休止中)での勉強がまずは基礎になりました。この勉強会を組織するには、JR東日本で実務経験をさせていただいたことが問題意識の根底にありました。

次に、30代半ばで勉強させていただいた、PC工学会の高強度PC鋼材を活用するための設計施工指針の原案作成WGの主査を務めさせていただいた経験が後々から見れば大きかったように思います。ゼロから指針を作っていく過程をすべて見させていただいたのは大きな経験となりました。

その後、2012年版の示方書の改訂(施工編と維持管理編)に関わることになり、これも大きな経験をさせていただくことになりました。 

2009年からは山口県のひび割れ抑制システムに関与させていただき、2012年からは東北地方整備局の品質確保・耐久性確保に関わっています。山口県の品質確保ガイドや、東北地方整備局の品質確保の手引き等に、実践的に関わらせていただき、多大な勉強を積んでいます。

現在は、示方書の維持管理編と施工編の連係すべき箇所についての改訂WGの主査を務めさせていただいておりますが、いろいろと改訂のアイディアを議論しているところです。

示方書を読んでいても面白いし、改善すべき点もいろいろと見当たります。また、そのような議論を周囲とクリエイティブにできることも楽しいです。

私の着眼点や改善案のレベルはまだまだ低いと思われ、もっと経験を重ね、創造的な仕事ができるよう精進したいと思います。

博士課程修了後の15年程度の経験ですが、若いころは全く見えなかったものが、見えるようになってくる、というのもこの分野での経験の意味です。

私自身がもっと社会に貢献できるように研鑽を積むことは当然ですが、技術や規準類がどんどんと細分化し、量も増えていく中で、若手が経験を効率的に積み、実践での戦力となるように育っていく環境を整備していくことも極めて重要と思います。350委員会にはそのような土壌が潜在的にあるものと私は思っており、若手・中堅に徹底して活用してもらえればと常に願っています。