いつか英国日記

英国を中心とした靴、鞄、時計、その他ファッションに関するブログ

究極のタイ ひとつのカタチ 

2010-08-29 04:23:20 | タイ
今回ご紹介するタイ
パーソナルテーラーで
試行錯誤を重ね、メンバーの為に作られた
ビスポークのタイです。

ある意味、究極のタイのひとつのカタチだと思います。

それは
ひとつにはその素材。

そして、もうひつとは
その柄と作りです。

こんなカタチでタイまで作ってしまう
パーソナルテーラーを私は他には知りません。

まずはこのタイの素材です。
小石丸という蚕がはきだした絹糸で織ったシルクで
作られています。

小石丸、ご存知でしょうか?

小石丸、蚕の中では最も細い糸をはき
艶があって張力が強く
けば立たないという素晴らしい蚕です。
しかし、あまりにも小さく繭糸量が少ない為
重さで取引される絹糸の世界では
まったく採算が合わず、別名針金糸とも言われている
粒も大きく、絹糸も太い
いろんな品種を掛け合わせた(交雑種)のシルクに押され
市場では一時姿を消してしまいます。
それゆえ小石丸は"幻の絹"と呼ばれています。

(現在では一般生糸の20倍の価格と言われています)

小石丸は元々は宮中の御養蚕所において行われる
皇后御親蚕に用いられる品種です。
宮中でも一時飼育の中止が検討されましたが
当時皇太子妃であった皇后美智子様が
残すことを強く主張され
その後、それが元となって日本全国でも
再び飼育されるに至っています。

さてそんな貴重な絹糸で織られたこのシルク生地
非常に密に織られています。
一般的に絹は密に織れば織るほど
光沢がなくなり
そして重くゴワゴワした感触になるのですが
その絹糸の素晴らしさから、密に織っても光沢があり
そして軽くふんわりと柔らかい生地となっています。



このシルクの感覚
写真では充分にお伝え出来ませんが
凄い品質だと思います。

そして重要なポイントのもうひとつ
それはこの柄である
スピタルスフィールドです。


拡大写真

スピタルスフィールド
最もクラシックでスタンダードな柄です。
このタイ1本あれば
全てのスーツがエレガントに着こなせる
基本中の基本のタイ
裏を返せば、必ずこれだけは
ワードロープに揃える事がマストになるタイでもあります。

しかし、今では
このスピタルスフィールド
もどきはあっても本物が実はほとんど存在しません。
ブラックとエクリュの非常に精緻に織られた市松模様。
そして表面に何も加工をせず
織り上げられた自然の風合い。
これを実現する為に
シルク生地屋さんの非常に情熱的な職人さんと
パーソナルテーラーのモデリストであるH氏が
何度も試行錯誤を重ね、ようやく実現に至っています。

そして最後にこれをタイと言うカタチに
仕立てるのが、又、大変に凝っています。

タイの作りは柔らかく
古式の作りとなっています。
そして何よりもこのタイの拘りがわかる芯地。
なんと小石丸の生地をそのまま
芯地として複数枚、使っています。



これにはタイを仕立てる職人さんも
あまりの贅沢さに躊躇したようです。

ブレイド(大剣)は
ちゃんとたるみ糸も作り込まれ
閂(かんぬき)止めは
ボリュームのある花閂
そして糸は赤という拘りです。

そしてこちらはスモールチップ(小剣)。



そしてとても重要な中継ぎ。



非常にしっかりした補強がなされています。

採算と手間を考えれば
メーカーもセレクトショップも
どこも実現不可能なこのタイ
非常に貴重なタイだと思います。

恐らくパーソナルテーラーでも
メンバーと、H氏自身の為に作られた
採算度外視の拘りのタイかと思います(笑。


拡大写真

正に一生使え、そして愛せるタイです。



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18 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
極めつけ? (musselwhite)
2010-08-29 06:49:05
こんにちは。
昨日三井アウトレットパークのポール・チュアートでネクタイを買った私にとって驚きの逸品です。
写真を拝見した時、どの様な時にどの様なものに合わせられるか考えてしまいましたが思いつきませんでした(笑)…と云うより私のワードローブと次元の異なる逸品なんだと思いました。
下世話な質問で申し訳ありませんが、どのくらいの価格なのでしょうか?
差し支えなければ…m(_ _)m
返信する
何でも合わせられます (らみい)
2010-08-29 07:13:10
musselwhiteさん こんにちは。

恐らく、どんなスーツに合わせても
しっくりくるタイです。
このタイを締めると不思議と
装いがエレガントな雰囲気になりますよ。

第一次大戦以前の紳士には
身につけることが許されるタイは
1)出自を表す所謂クラブタイ
2)カントリーにおけるウールタイ
そして、この
3)スピタルスフィールドタイの
3種類しかありませんでした。

つまり、逆に言えば
どんなスーツに合わせても
それなりの雰囲気で纏まります。

ちなみにメンバー用にビスポークされたタイで
一般に手に入る物でもなく、又、採算度外視タイ(笑
ですので価格はあまり参考にならないと思いますが
マリネッラのセッティビエゲより安かったと
記憶しています。

恐らくデパートで作ったら
とんでもない価格がつくのでしょうね(笑
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Unknown (紳士見習い)
2010-08-29 10:31:51
なるほど、これがH氏の仰る本物のスピタルスフィールドタイですか。
たしかにどんな色のスーツにも合いそうですね

しかし生地といい、作りといい贅沢ですね~。
しかもこれでマリネッラのセッティビエゲより安いとは信じられません。

百貨店やセレクトショップならあれこれ理屈をつけて倍くらいの値段をつけてきそうですね(笑
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スピタルスフィールド (らみい)
2010-08-29 19:29:30
紳士見習いさん
こんにちは。

スピタルスフィールド
スーツでも、ブレザーでも
あるいは、
シアサッカージャケットでも
合わせる事が出来ます。

ある意味、万能なタイですね。

デパートならきっと
うやうやしいガラスケースに
飾られて、価格は二倍というところですね。
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蚕の思い出 (dunsford)
2010-08-29 20:02:56
らみい様
究極のシルクを生み出す蚕ですか、初めて知りました。
私の実家は30年くらい前(私が10代前半)までは養蚕をしておりました。
養蚕は、えさになる桑の刈り取り、えさやり、温度管理、繭床の管理などとにかく手間がかかる仕事です。両親・祖父母総出の仕事で終盤には過労で体調を崩すこともしばしばでした。
実家の近所でも今では養蚕を手がけている農家は一軒もなくなりました。
これを今の人件費の高い日本でやろうとしたら一体いくらになるんでしょうか?
また、普通のスピタルスフィールド柄のタイって手に入りませんよね、私もほとんど目にすることがありません。万能タイ(ネギみたい?)とはこの柄のタイのことだと思うのですが・・・
デパートなら二倍の価格でも無理でしょうし、こういう普通の柄のタイで勝負することも到底無理だと思います。
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Unknown (ともヒろ)
2010-08-29 22:07:46
いつもどんな惹かれる物が紹介されるのかと楽しくブログを読ませてもらってます。

ところで、押し付けがましいお願いなのですが、オシャレ初級者向けに用語の解説等の記事を書いては貰えないでしょうか?
物の良さが分かる様になる為には、自身で経験するのが一番なのは承知しているのですが、これから歳を重ねる上で予め知識として蓄えておきたいとも思うのです。

もしお時間がありましたら、そんな記事を書いてもらえればと思います。
返信する
Unknown (通りすがり)
2010-08-29 22:10:13
凄いタイですね。
自分も絹を使う商売していますが、今流通している小石丸は外来種と交配させた、新小石丸というもので、色、艶、張りなどが原種と大きく違います。日本種の蚕はストレス、環境、餌の良し悪しや育て方で大きく品質が変わってしまうんですよね。量も取れませんし。奥が深いです。
現在、小石丸という名前を出して売っているものはほぼ全てがこの新小石丸です。本物の小石丸を扱ってタイを作っている所は自分の知る限りですがほんと一件くらいです。

らみぃさんのタイはスペシャルオーダーのもののようですし、もしかしたら本物の小石丸を使った物なのかもしれませんね。幻の絹ってのは言い過ぎですが(確かに幻の絹ですがそれ以上に幻で綺麗な糸を出す日本種はいます!)

これは本当に一生物のタイですね。大事になさってください。
自分も欲しぃ~(泣
返信する
もしかすると… (ゴン太)
2010-08-29 23:02:18
そういえば、小石丸のクラバットが販売されたようですね…次にはどのような品が出て来るのかドキドキしますね。そういえば、日本の幻の絹は天蚕糸かはくぎんくらいでしょうか?
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養蚕 (らみい)
2010-08-29 23:24:59
dunsfordさん こんにちは
実家が養蚕とはやはり
服飾と縁があるのですね~。

こういった手がかかる仕事は
世の中の流れとともに
どんどん、なくなっています。
まあ、仕方がないのかもしれません、、、

スピタルスフィールドも
小石丸も手に入れるのが
困難になってしまった現代
何か寂しいですね。

そしてこういった商品は
デパートはまあやらないでしょうね。
一部の好事家向けのになってしまいますから。
でも本当はどこへ行っても
同じ品揃えより
好事家向けの品物が揃っていたら
それはそれで魅力的ですが
デパートの規模では無理ですね、、、




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機会があれば (らみい)
2010-08-29 23:34:47
ともヒろさん
ブログでは一般の方や
興味を持ち始めたばかりの方も
多いとも思い、出来るだけ平易な言葉で
解説も交えながら書いているつもりです。

しかし、時として難しい表現や
初めて見た人には
分かりずらい内容も
多分あったと思います。

先日ご紹介した「スーツの百科事典」
そして
洋書の「GENTLEMES」も
服飾の基本を知るのにオススメの書物です。

そして落合正勝先生の本も
大変参考になりますよ。

一度時間があれば、ご覧になってみて下さい。

私も機会があれば
そういった内容でこちらのブログに書いてみようと
思います。
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