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おやじのつぶやき

おやじの日々の暮らしぶりや世の中の見聞きしたことへの思い

「歌舞伎鑑賞教室」その3。「仮名手本忠臣蔵・祇園一力茶屋の場」―歌舞伎座―。

2020-05-11 21:26:27 | お芝居
今回は2019年2月 歌舞伎座での公演。

            

仮名手本忠臣蔵七段目 祇園一力茶屋の場

 ここは賑やかな遊里・京都祇園の一力茶屋。大星由良之助が敵討ちのことなど忘れたかのように連日酒を呑み、遊興の限りを尽くしている。お軽の兄・寺岡平右衛門(てらおかへいえもん)は、敵討ち参加を願いに訪ねて来たものの、相手にもされない。一方、元は塩冶家の家老だった斧九太夫(おのくだゆう)はいまでは師直側に寝返り、由良之助の本心を探るため、由良之助に届けられた密書の盗み読もうと床下に隠れている。
 そうと知らず由良之助が密書を読み始めると、いまでは遊女となったお軽が二階から覗きみる。それに気付いた由良之助はお軽を手元に呼び、密書を読んだと聞くと、身請けして自由の身にしてやると言って、身代金を払いに奥へ入る。
 お軽が喜んでいると兄・平右衛門に出会う。平右衛門は、由良之助がお軽を身請けする真意は、口封じに殺すためだと気付く。そして妹に、どうせ殺されるなら兄の手にかかって死んでくれ、敵討ちに参加するために兄に手柄を立てさせてくれと頼む。
  お軽が命を差し出そうとしたその時、兄妹の一途な心を見届けた由良之助が止めて、平右衛門に敵討ちへの参加を許す。そしてお軽に刀をもたせ、手をそえて床下に潜んでいた九太夫を刺殺させる。お軽に裏切り者を討たせて、亡き勘平の代わりに功を立てさせたのであった。
(この項、「歌舞伎演目案内」HPより)

舞台は、女中達と目隠し鬼に興ずる由良之助の登場から。

 そこへ、由良之助方の侍3人が乗り込んできます。足軽の寺岡平右衛門がお供として。
 3人は、「討ち入りのご決意を」と詰め寄りますが、笑ってはぐらかす由良之助。刀を抜いて迫る3人に、寺岡平右衛門が待ったをかけ、討ち入りの連判状を差し出します。


 が、由良之助は酔ったまま横になってしまい、平右衛門が持参した連判状を払いのけます。


 平右衛門が下がると、花道から由良之助の息子の大星力弥が息を切って駆け込んできます。
 「力弥か。急用か」
 「ただ今、御台の顔世様から、密書が届きました。委細はお文に」


 座敷に戻った由良之助に「由良之助どの」との声。共に塩谷判官のもとで家老をしていた斧九太夫。
 ふたたび酔いの姿に戻る由良之助。
 二人は酒を酌み交わしはじめます。
 酒の肴に、と差し出されたのは、蛸。九太夫は、「明日は主君塩谷判官の命日。その前日に、貴殿はその肴を食うか」
 由良之助は蛸を食べてしまいます。そして、由良之助は立ち上がり、座敷を出ていきます。

 物陰からその有様を見ていた鷺坂伴内(塩谷判官の仇、高師直の手下)。力弥が持参した書状が気になる九太夫は駕籠に乗ったふりをし、伴内を去らせ、座敷の軒下に忍び込みます。




          
 夫勘平のために身売りされてきたお軽が二階で酔い覚ましと風に当たる風情で登場します。
 由良之助は灯籠の灯りを照らし、先ほどの書状を読み始めると、お軽は手鏡を取り出し、盗み見をします。一方、やはり縁の下に隠れている九太夫も落ちてくる書状を盗み見します。

 由良之助がはっとしてお軽を見上げると、お軽もあわてて鏡を隠す。
 由良之助は座敷から縁の下へ降り立つと、下から二階の窓を見上げ、お軽は窓から由良之助を見下ろします。
 書状を見たお軽をそのままにしておくわけにはいかない。

 そこへ平右衛門が帰ってきます。

 平右衛門は父、与市兵衛の死と勘平の切腹を告げます。さらに、「書状を盗み見た軽を殺すことで、仇討ちの一味連判に加わることができる。」と刀をふりあげてお軽に迫ります。
 お軽は兄の言葉に、口を開きます。

「わたしは、自害いたします。お役にたててください」
 そう言うがはやいか、お軽は平右衛門から刀をもぎとろうとします。
 そこへ座敷の奥から「待て!」との由良之助の声。
 「兄妹とも、見上げた。疑いは晴れた」

 「軽、そなたが勘平の代わりに仇討ちをするのだ」
 そしてお軽の持つ刀を由良之助は畳にぐっと突き刺します。その下には刺し抜かれた九太夫。

 「恩を受けながら仇で返すとはお前のことだ、九太夫。とりわけ今夜は殿の逮夜。よくも魚肉を突きつけたな」と。(注:命日の前日の夜を「お逮夜」と言う)
 そして、平右衛門に告げます。
「鴨川で、な」
「水雑炊を食らわせい」
「行け!」

 さすが松本 白鸚(まつもと はくおう)の貫禄勝ち。

二代目 松本 白鸚 は、前名の九代目 松本 幸四郎しても知られています。
 歌舞伎ではお家の高麗屋の芸を継承し、外祖父の播磨屋の重厚な演目も受け継ぐ一方で、現代劇やミュージカルでの活躍、特に『ラ・マンチャの男』の主役は名高い。『王様と私』の主役をそれぞれ英語でこなしたこともあるとか。今は、「ソニー損保」のCMでお目にかかります。
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「歌舞伎鑑賞教室」その2。「通し狂言 東海道四谷怪談」―国立劇場―。

2020-05-08 19:38:02 | お芝居
 2015年12月公演

 鶴屋南北作の歌舞伎狂言。全5幕。文政8年(1825年)、江戸中村座で初演されました。
 「貞女・岩が夫・伊右衛門に惨殺され、幽霊となって復讐を果たす」というお話。

 南北の代表的な生世話狂言。『仮名手本忠臣蔵』の外伝という体裁で書かれ、「お岩伝説」に、不倫の男女が戸板に釘付けされ、神田川に流されたという当時の話題や、砂村隠亡堀に心中者の死体が流れ着いたという話などが取り入れられています。

 ・お岩が毒薬のために顔半分が醜く腫れ上がったまま髪を梳き悶え死ぬところ(二幕目・伊右衛門内の場)、
 ・お岩と小平の死体を戸板1枚の表裏に釘付けにしたのが漂着し、伊右衛門がその両面を反転して見て執念に驚くところ(三幕目・砂村隠亡堀の場の戸板返し)、
 ・蛇山の庵室で伊右衛門がおびただしい数の鼠と怨霊に苦しめられるところ(大詰・蛇山庵室の場)などが有名な場面となっています。

 以前、掲載したものの再録。旧東海道を歩き終えた、その年の12月。「永青文庫」で件の浮世絵展に行った、そのすぐ後。2015年12月にUPしたものです。

・・・

 歌舞伎は久しぶりなので、とても楽しみ。
「旧東海道」の旅が終わって、こうして「東海道四谷怪談」って趣向もなかなかいいわよね。

 あなたもよく考えているわ。誘ってくれてありがとう。

 この席、花道も舞台もよく見えるし、いい席でよかったわ。

 松本幸四郎と市川染五郎か。興味深い組み合わせね。

 花道で、作者の南北さんが口上を言っているわね。あらやだ、染五郎じゃない。さっそく登場。なるほど、四谷怪談と赤穂浪士の関わりを、へえ、ご親切にね。

 そうよね。それでも、なんで「四谷怪談」に「東海道」って付いているかしらね。舞台は江戸の土地が出てくるだけだし、最後の討ち入りの場面は鎌倉になっているけど、「東海道」とは直接、関係ないし、・・・。家に帰ってから調べてみるわ。

 さて、始まり、始まり。ストーリーは何となくわかるけど、イヤホン・ガイドを頼りに。

通し狂言東海道四谷怪談 三幕十一場

発 端   鎌倉足利館門前の場
序 幕
 第一場  浅草観世音額堂の場
 第二場  浅草田圃地蔵前の場
 第三場  同   裏田圃の場 

二幕目
 第一場  雑司ヶ谷四谷町民谷伊右衛門浪宅の場
 第二場  同        伊藤喜兵衛宅の場
 第三場  元の伊右衛門浪宅の場

大 詰
 第一場  本所砂村隠亡堀の場
 第二場  深川寺町小汐田又之丞隠れ家の場
 第三場  本所蛇山庵室の場
 第四場  鎌倉高師直館夜討の場

 12時開演で、16時45分終演。間に35分と20分の休憩があるけれど、役者さんもお疲れ様です。

 前に歌舞伎座で観たときと、発端と大詰めの第四場が加わって、第二場もそうかな。「仮名手本忠臣蔵」との関連付けしているようだわ。たしかに夏の納涼歌舞伎でドロドロと幽霊話じゃ、冬のことだし、ふさわしくない。まして、今月は討ち入りの月だしね。

 でも、最後のにぎやかな立ち回り、エイエイオー、首尾を成し遂げて見事じゃ! ではそれまでの「怪談」が「快談」になってそぐわない感じがしちゃう。まして、さっきまでお岩さんでおどろおどろしかった染五郎が大星由良之助で出てきて、お岩さんの亡霊に翻弄され、あげくはてに殺された民谷伊右衛門が、でかした!あっぱれ、あっぱれ! の幸四郎じゃねえ。年末の歌舞伎らしい面白さではあるけれども。それまでの、ヒュー、ドロドロがすっかりあせてしまったわよ。

 悪口ついでにいうと、幸四郎はふさわしくない役柄だったじゃない。どうみてもあの顔のでかさと押しの強さ。あんな男に一目惚れしたあげく、孫かわいさの祖父に悪事を働かせる、なんてよほどのことじゃない、と。
 染五郎は頑張っていたね。さすがだわ。個人的には、板東新悟が気に入った。

 「四谷怪談」の見せ場は、何回観てもよく出来た趣向で、感心します。

 髪梳きの場面。毒薬によって顔が醜くなったお岩さんが、鉄漿(おはぐろ)を塗り、櫛で髪を梳いていくけれど、髪が梳かれるたびに抜け落ちていく。この時のうなるように声を引き絞った「独吟」はお岩の裏切られた悲しみ、恨みを切々と表現していて、客席も真っ暗の中、本当に引き込まれていったわ。この場面での染五郎の発声もすばらしかったわ。
 髪をとかしながら、顔を上げて鏡を見上げる仕草、次第に変わる形相・・・、あそこまでのすごみが出せる、ってすごいわよね。

 「堀の場」での「戸板返し」のところも面白い。
 釣り糸を垂れる伊右衛門の前に流れついた戸板にはお岩さんと小平の死体が表裏に打ち付けられているのよね。この二役を染五郎が演じる。戸板を裏返すと同時に早替りに。どういう仕掛けなのかしらね。

 余談だけど、「江戸川」(神田川)に流したはずの、二人の死骸を打ち付けた戸板が「隅田川」に下り、それがどうして上流の「小名木川」に入って、砂町の堀に流れ着いたのかしらね。不思議だわ。

 それから、「蛇山庵室の場」で、お岩の幽霊が燃えさかる提燈から登場する「提灯抜け」。本火が消えるか消えないかのうちに出てくる(それも宙づり)し、そのすぐ後に「南無・・・」の掛け軸に人を引き入れる「仏壇返し」という仕掛けも面白かった。客席から悲鳴が上がるのもご愛敬だったわね。

 そこで、どうして「東海道」という名が付されているのか、ってことだけど・・・。

 この作品の登場人物のうち、多くは『仮名手本忠臣蔵』の世界と関係しているわよね。伊右衛門やお岩の父四谷左門などが、塩冶家の浪人(浅野家の浪人)という設定で、一方、伊藤家は高師直(吉良家)につながっている・・・
 殿中での刃傷沙汰により塩冶家は断絶し、家来たちは浪人を余儀なくされ、ある者は商人に身をやつし、ある者は物乞いになって、女の中には夜鷹となって、江戸の街で生活せざるをえない。中には仇討ちの本意を失っていく男の姿、そうした中での葛藤、陰謀、犯罪、裏切り、恨み、嘆き、復讐、・・・っていうところかしら。

 そのへんは表狂言「仮名手本忠臣蔵」の世界と重なっている。だからといって、「四谷怪談」と「東海道」が結びつくのはちょっと納得がいかないけれど。

 「東海道四谷怪談」(白水社)の解説で、

 この作の上演方法は、第1日目に「仮名手本忠臣蔵」の5段目、すなわち山崎街道の場、6段目に同じく山崎街道与市兵衛宅の場のあと、2番目の「東海道四谷怪談」がはじまることになる。・・・こうしてみると、「仮名手本忠臣蔵」の山崎街道と対比させて、関東の怪談の意味でつけたもののようにうけとれる。

 という指摘があるわ。

 でも、当時評判になっていた、弥次さん喜多さんの「東海道中膝栗毛」の「東海道」にあやかったんじゃないかしらね。今でもそうじゃない、流行したフレーズを利用して、商品の宣伝にしたりするってよくあるから。

 そうそう、「四谷怪談」の大詰め、伊右衛門が討たれる場面で雪が降りはじめ、引き続き「忠臣蔵」の討ち入りの場につながっていくから、「四谷怪談」と「忠臣蔵」とは大いに関連があるよね。
 今回、特にそのまま舞台を転換して、大詰・最後の場として雪振りしきる中での討ち入りと、見事、首尾を果たして雪が止んだ朝のすがすがしさを持ってきていたから、つながりがよりはっきりした印象だったわ。

 ホント、今日は一日、楽しかったわ。
 それではよいお年を! また、お会いしましょう! 

                  

・・・
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「歌舞伎鑑賞教室」。その1。「黒手組曲輪達引(くろでぐみくるわのたてひき)」―浅草公会堂―。

2020-05-07 20:47:16 | お芝居
 この連休。新型コロナ感染。生命あっての物種。世間に呼応して自宅待機。そこで、You Tubeで歌舞伎見物という具合。

 亡き勘三郎をはじめ、玉三郎、愛之助などが出演する演目がけっこうアップされています。そこで、いくつか・・・

 今回は、「新春浅草歌舞伎」(2011年1月公演)より。
 海老蔵がまだ「市川亀治郎」と名乗っていたときの作品。勘三郎の次男七之助や
などが出演し、それぞれ若さあふれる芝居を演じています。

WOWOW」で放送されたものです。

 亀治郎(海老蔵)の早替わりが楽しみなお芝居。主役の「助六」が「権九郎」も演じ、愛嬌を振りまき、さらに「伝次」と3役替わります。

 序幕は、揚巻がいる新吉原「三浦屋」にいる新造白玉(市川春猿 現河合 雪之丞)と駆け落ちしようと大金を盗んで用意した番頭権九郎。しかし、白玉の本当の恋人伝次が現れ、大金を横取りする。この二役を亀治郎が早替わりで演じます。
ここでの早変わりは、えっ! 
       何回も見直しましたが、見事な趣向です。
                        

こんなシーンも。福山雅治の曲が流れ、歌う。

泥鰌すくいの仕草で。

                

 もともとこのお芝居は、「助六由縁江戸桜」のパロディなので、こういうのもありかな、と。

 ギャグも随所に散りばめられ、新春らしい楽しいお芝居になっています。他のお芝居を観ても当世受けの(上演当時受けの)ギャグが散りばめられています。

 あらすじは、父親を殺され、宝刀を盗まれてしまった助六が刀を奪い返し、父の仇を伐つというストーリー。

「助六」には、亀治郎、恋人の花魁の「揚巻」には、七之助という配役。
登場した瞬間、舞台が華やいでいく。

 二幕目は序幕とはまるで無関係な吉原から始まります。(「三浦屋」つながりのみで、序幕は亀治郎の早替わりという見せ所のために、あり。)

 白酒売りが男どもに絡まれていたのを助六が助ける場面。股くぐりのシーンは、「スカイツリー」までせりふに登場するなど、ギャグ合戦。


                    

 助六の父親を殺し、名刀を奪ったのは、鳥居新左衛門(亀鶴)。

     

そうと知った助六が新左衛門を討ち果たして名刀を取り戻す。

 しかし、吉原中の騒ぎになって、助六は逃げることに。追っ手からの逃げ場を失った助六がその身を隠したのが天水桶。
 舞台上に設置された水桶には、本水がたっぷり蓄えられて、その中に勢いよく水しぶきをあげて飛び込むという圧巻のシーン。


             

 水桶から出てきた水浸しの助六はとうとう追っ手に見つかります。
 そこに登場するのが揚巻。助六を自分の着物の内側に隠し、小気味の良い啖呵を切って、助六は助けられます。
ここでも大量の水を舞台上に。

       

         大見得を切る二人。
 
 それぞれ、元気溌剌としたお芝居でした。

 注:映像は、すべて「You Tube」より。
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追悼。別役実。

2020-03-13 19:51:44 | お芝居
 別役実さんが亡くなりました。「早稲田小劇場」をはじめとしてけっこう観に行きました。「不条理劇」という括りでとらえられていますが、そういう枠におさまらない刺激的な作品が多くありました。このブログでも扱ったかな、と思い、検索したら一つだけ、それもずいぶん以前(15年以上昔)に投稿したものだけでした。そういえば、「小劇場」スタイルのお芝居からはずいぶんと遠ざかっていたのですね。・・・


2004-10-06 23:12:46 | お芝居(再掲)
別役実の戯曲
『風に吹かれてドンキホーテ』という表題の戯曲集がある。そこには、3本の童話劇が収められている。作者のあとがきによれば、岸田今日子さんに依頼されて演劇集団「円」のために書いたものであるという。別役版「白雪姫」「シンデレラ」「ドンキホーテ」である。
 日本における不条理劇の第一人者である別役の作品は、いたるところに毒がまき散らされているので、観る方も疲れる。
 ところで、3つに共通するのは、「食べる」話しである。白雪姫は数々の卵料理からニシキヘビの話し、シンデレラは猫を食べる、ドンキホーテは足を食べ、手を食べる。
 そうすべて芝居は、「人を食ったお話し」なのである。それにしても、皆、腹を空かした登場人物に、何だか得体のしれない匂いをもった人(?)たちである。
 「歌うシンデレラ」は、ひたすら食べることしか考えない。それは、熊に変装した王子様だけではない、シンデレラも意地の悪い継母も、仙女もとかげも、兎も、森もたった一つのたべものである「長靴をはいた猫」を食べようとする、それも長靴ごと。しかも、顔を洗わないことや汚い手足を揶揄しながら、食べようとする。でも、最後は、おさまるところにおさまってめでたし、めでたし。
 それにしても、食べるのは顔であり、手であり、足であり、おなかである。それを仲良く分け合って食べようとする。食べる人たちには、仲間はずれはいない。猫だけが食べる対象だ。
 「りんごを食べるときにりんごの意見を聞いてから食べますか? どこをどういう風に食べるかは、りんごじゃなく、食べる私たちがきめることです。」
 仙女が猫に向かっていうせりふである。あれこれもめたあげく、たぶんまだ汚くないおなかを皆で分けて食べることになる。
 食欲は所有欲や性欲と密接にからみあっている。幼児期は、それが複合的に、混沌的なものとして現出するだろう。結婚するのも食べること、いじわるするのも食べること。
 観る子供にも、大人にも毒がある芝居。本を読むだけでは、見当がつかない。
 別役さんの芝居は、現在、演じられているのだろうか。また、この芝居は、実際に上演されたのだろうか。

 追悼にもならない記事ですが、・・・。

 戯曲として、「象」、「赤い鳥の居る風景」、「マッチ売りの少女」、「あーぶくたった、にぃたった」、「にしむくさむらい」、「天才バカボンのパパなのだ」、「白瀬中尉の南極探検」、「ジョバンニの父への旅」、「諸国を遍歴する二人の騎士の物語」などの作品を観たり、読んだりしました。
 何しろこの方の作品のネーミングが秀逸です。

 エッセーでも「・・・づくし」シリーズとか「悪魔辞典シリーズ」とかけっこう楽しませていただきました。

 もっと年上なのかと思っていましたが、まだまだ現役で頑張れた方でした。
 晩年はパーキンソン病で大変だったようです。

注:『風に吹かれてドンキホーテ』の写真は、「古本よみた屋」(吉祥寺店舗「愛書堂よみた屋」)https://yomitaya.co.jp/?p=75588 HPからお借りしました。
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読書「エッグ/MIWA 21世紀から20世紀を覗く戯曲集」(野田秀樹)新潮社

2015-04-21 23:24:44 | お芝居

 最近でもなく、ずっと以前から野田さんの芝居は高すぎて、人気がありすぎて(むしろ前者の理由でだが)近づきがたいものに。彼なりの計算があるのだろうけれど、はたしていかがなものか? キャスティングも含めて、どうも・・・。
 金持ちのひとときの慰めごとになってしまったら、せっかくの野田さんの意図も訴えも所詮、体制内の「世迷い言」、許容範囲になるだけ。しかし、最初から終わりまで、存分に言葉と肉体との関係性(自他)の魅力・魔力をちりばめながら、一気呵成に迫る、壮大なドラマは相変わらず野田さんらしい。
 細菌兵器開発のために「マルタ」を生体実験にしてきた、敗戦前後には一切の施設、資料を隠蔽・壊滅させ、一方で、アメリカ軍(GHQ)との取り引きの結果、一切、世に出なくなったあの「731部隊」を取り上げる、という大胆不敵な劇。
 それに「東京」オリンピック(1度実施、さらにまた計画されている「東京」オリンピック。こうして都合3回目。そのうち1回は中止になった)特に幻となった戦中のオリンピック、さらに唯一開催された東京オリンピックへの執拗な迫り方は、ただごとではない。そのこだわりの象徴はあの「悲劇の」マラソン・ランナーも登場させながらの「エッグ」。そして対戦国としての「中国」。一歩間違えば、危うい言動を軽やかに紡いでみせるのは、さすが。

 が、しかし。

 今のアベたちが言論弾圧を当然のごとくに行っていても何の抗議も発言もないままに、自粛していく日本国。そうした流れに「ごまめの歯ぎしり」すら出来得ない庶民にはお先真っ暗のご時世。
 万が一今の天皇の身に何か起こったら、かつての昭和天皇のときのようにまたしても(むしろそれ以上に)なるだろう。そうして国民に華やかな歌舞音曲を禁じる一方で、次期天皇候補の嫁さんのようす、また、皇太子自らの発言などに快く思っていない連中が騒ぎ出すに違いない。今の国の行く末は、気にくわなければ、天皇の首をすげ替えるのさえ、いとも簡単に行うだろう、というあらぬ危機感を持っている今日この頃。それほど遠い時期では無いと、ふと、思ってしまう。

 そういう焦りとあきらめの中で、「エッグ」を「読書」していると、たしかに心穏やかではなくなってくる。このままなし崩しのままの日本で(つまり、戦前回帰へひたすら「右向け、右」と号令をかけつつある)いいいのか、と。そんな斜に構えた人達はもうお呼びではないのかも知れない。

 TVで活躍している俳優・タレント(観劇すれば、たしかに出演する俳優達は野田さんの的確な指示もあってすばらしい才能の持ち主であることは実感できる、と思うが)が出演しているから、ではまったくもったいない感じがする。

 かつて無名ではあったがしゃかりににひたすら「舞台」に打ち込んでいた、大勢の若者達の「群像劇」はもう無いものねだりになってしまったか!



 そんなとき、『平田オリザ〈静かな演劇〉という方法』(松本和也)彩流社刊 を手にした。平田さんと「青年団」の芝居は、「ソウル市民」など、かつて、何本か観たことがある。また、平田さんが開いた「ワークショップ」に知人が参加し、その関係で何回か見学したことがあった。そんなことを思い出した。

 まさに開幕前(いや、すでに幕は上がっている)からの舞台の動き、それからいつしか舞台が始まる(いや始まっている)、・・・。かなりの緊張感を客席にもたらせながら、進んでいくのは、まさにリアリズムそのもの。「静か」な中に、舞台で「演じられる」人々の会話・仕草がじわじわと観ている側それぞれに与えるインパクトは様々。そこにこの方の作劇術があるのだろう(伏線を張り巡らせての)。小道具の一つひとつが、日常性の枠の中にありつつ、奥深い存在意味を持たせていく。

 余談だが、最近、少年時代まで満州で生活し、敗戦後、命がけで日本に戻って来た(帰ることが出来たのはまだマシだった)方の話を聞く機会があった。
 8月15日以降(ソ連参戦はそれ以前だが)の辛酸をなめ尽くした体験には、胸に迫るものがあったが、現地での生活(現地の中国人との関わりを含めて)を語ることはなかった。大方の引き揚げ者はそうだという。

 「ソウル市民」は、そういう意味できわめて「政治的」なメッセージ性を持つ芝居。植民地支配下のソウルに住む「在朝日本人」の家庭が舞台。芝居の内容は、台詞も含めて上記の書に詳しく解明されている。その一部。

 慎二は、「うちで使ってる朝鮮人」が「内心」を隠している可能性を考慮している。そのことにも明らかなように、「善意」に包まれた朝鮮人観の基底には、権力関係のヘゲモニー争いが見え隠れしている。つまり雇用/被雇用という表層の契約関係に重ねて隠された日本人/朝鮮人という、その実まったく根拠のない序列化とそれに基づく「無意識の差別」もまた、篠崎家をはじめとする劇中の日本人に通底する要素として、この家庭劇を構成している。(P91)

 ここでは、「まったく根拠のない序列化」とあるが、現実は日本人と朝鮮人を序列化するための「根拠」をそれがあやふやで覆されるかも知れない不安を持ちながらも強いて作り上げていったのではなかったのか。経済と政治と教育などによって、・・・。

 それを声高に(あるいは集団で、あるいは言葉で、肉体で)表現するのではないところに、平田さんの劇のすばらしさを感じた。もちろん、観客へに匕首はしっかり向けられていたが。

 改めて舞台芸術活動の多様性と可能性、ある意味では限界性をも感じた2冊でした。

 もちろん、芝居や映画は楽しければいい、いちいち考えされられたりするのじゃなくて、見終わった後の爽やかなのがいいのだ、というのが多くの観客だろう。こうして「脚本」を読んだり、「評論」を取り上げるのも無粋なものかもしれない。
 
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ベイビーダンス

2009-02-27 22:44:58 | お芝居
 久々に芝居を、立て続けに見ました。野田の「パイパー」と声優さんたちの芝居と「ベイビーダンス」と・・・。
 勿論、野田と無名の声優と俳優座の研究生の芝居ですから大違い。台本も俳優も舞台も・・・。
 でも。何だか現代演劇の壁みたいなものを感じました。ちょっともう何十年も芝居をやってやらせている人間からは残念な・・・。
 天才・野田も衰えを感じました。内容も、演出も始まったとたんにもう底がが割れているような、先が読めてしまう底の浅さが・・・。
 声優のまさに嘘くさい発声と人畜無害な内容と・・・。それから、俳優座の研究生たち。やはり、もうまったく無理がありました!
 今や「事実は小説より奇なり」という現実にあって、火星未来劇であれ、代理妻であれ、もう現実の荒廃は底なし。
 したがって、お芝居も対話劇にならざるをえなくなり、舞台ではむなしい討論が続く、そして、所定の時間が来て、おしまい!
 お芝居は、今は、現実的な力をアクションを、今の社会に人間に強く迫ることはないのか!
 有名な女優のたわいない動作に笑い、無名の役者のけなげな思いにしらっとする。たぶん、舞台演劇は死に瀕しているのではないか。
 自戒!
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ALWAYS

2005-12-01 22:26:35 | お芝居
 毎月1日は、映画の日。1000円で見ることができます。60歳以上になるといつでも1000円でしたっけ。そこで、「TAKESHIS」に続いて見てきました。「ALWAYS(3丁目の夕日)」。
 昭和30年代の頃、ちょうど東京タワーが出来る頃の設定。根強い読者のいる「3丁目の夕日」が原作のようです。小生、なんとなく絵柄は思い出せるのですが、これといった印象がありませんでした、原作のマンガには。
 映画化されてみて、ほのぼのとした情感溢れる作品に仕上げっています。東京タワーの見える街並は、具体的にはどのあたりを想定しているのかわかりませんが、品川行きの都電が通る大きな通りからちょっと入った街。たしかに実在しそうで実在しない街のようすです。
 テレビでの力道山。東北からの集団就職。駄菓子屋。ちょっといわくあるげなな居酒屋。たばこ屋のおばさん。自動車修理工場。戦争で家族を失った人。そうした中で、テレビ・冷蔵庫・洗濯機の3種の神器を購入できたのが、自動車修理の町工場であったりします。自動車・ミゼット、スクーター・・・。蒸気機関車。通行人の服装・・・。
 よくも復元できたものだと感心しました。広い通りをその当時の車が走っています。上野駅も昔のまま。銀座の通りも。自動車マニア・蒸気機関車マニアなら垂涎の時代考証。たしかにCGを駆使して違和感なく描いていました。
 登場人物たちも皆、予定調和に近い、人情の持ち主。唯一の悪役は、少年の実の父親のみ。それぞれが持ち場持ち場で、支え合いながら生活している。
 今はもう忘れ去れた、そんな街のぬくもり。皆が貧しいからこそ、共に互いを大事にしている、そうしたメッセージが観客に伝わってきます。そしてラストは、夕日に染まった町並みと人々の顔。まさに郷愁の世界でした。
 しかし、一方で、一番の稼ぎ頭が自動車修理工場の男ですし、東京タワーがそうした人々の暮らしを、足元に押しつぶすように着々と完成に近づいきます。
 そこに、高度経済成長の波に乗ろうとしている、がむしゃらな当時の日本の姿が描き出されています。
 「過去の歴史は、現在に規定される」とは歴史的見方の当然のスタンスですが、この映画には、まさにそうやってがむしゃらに右肩上がりの行動成長をしてくる中で、すっかり失ってきたものの元凶を告発するかのような、歴史観がみられるのです。その象徴が、最後の東京タワーと夕日の組合せの皮肉さではないでしょうか。 夕日を眺める人の心が、一日のどす黒い生きるための人間生活を、一瞬でも洗い清めてくれる、それは一時の、実は幻想にすぎないことを見事に描き出しているように思いました。
 もし、観客が時に涙を拭きながら、この作品に郷愁を覚え、忘れてきた人情に感動するとしたら、それは、己もまた、自己弁護にたけた現在の日本人の一員であることの再確認でしかないように思えるのです。
 しかし、この映画を観ている、その時間だけでも、他人への思いやりや通い合いを失った、今の日本の社会の心の貧しさを互いに認めあうことも、もしかしたら、そこから何かが生まれて来るかも知れません。美しい夕日は、必ず翌朝の晴れた空につながるハズですから。
 このつぎは、「SAYURI」をみにいく予定です。
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TAKESHIS

2005-11-18 23:36:00 | お芝居
久々に映画を観た。去年の「TAIZOU」以来だ。
 北野武の映画はどんなものか、これまでの作品がそれなりに面白かったと聞いていたので、今回初めて観たというわけ。
 率直に言って「駄作」であった。ストーリーも陳腐、使っている役者も切れがない、まるでビートたけしのためにしかいないような役者ばかり。不快なほど下手であった。
 という観客の批判(うけ)を狙って、武監督は作ったのだろう。彼の肉体的・精神的衰えは隠せない。役者的な鍛錬も何もしていない、肉体的醜さ。「戦・メリ」での鮮烈なデビューが、印象に残った、それからこの映画は始まる。取り巻きしかしないタケシが、とりまきのいないタケシを撮るところに、面白さがあるはずのなのに。あまりにも先の読める展開であった。
 日本の芸術家は、とりわけ小説家は、最後には私小説になっていく。それまで、そうした日本文学の貧困さを、その依拠する私的立場故に、批判してきた作家もついには、そこに落ち着く。大江健三郎がその代表だ。彼に、もし障害者の子どもがいなかったら、と考えるのは過酷すぎるし、差別的すぎるだろうが。
 タケシが、元相棒のキヨシへの思いもまたそこにはある。すなわち、この作品の根底にある。キヨシへの思い・重い・想いが・・・。おそらくは浅草時代の無名の仲間たちへの挽歌が、そこにはある。まさにビート・タケシの私小説。少しばかりの相変わらず斜に構えながらの。その「斜」の部分がまたおかしいのだが。
 古き・良き日本への郷愁と、それへの反抗と・・・。日本であって、日本でなかった、否、日本であり続けよう、とはけっしてしない沖縄を、最終の地点として映画は終わる。もしかしたら、タケシは、今の日本と、今の腐敗した芸能界への挽歌を、私的に捧げたのかもしれない。
 書き忘れた!京野ことみの乳首が、やけに黒ずんでいたのにはショックだった。役柄なのか、私的なのかそれは分からないが。
 でも、今、映画は面白い。吉本はつまらない。
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ちょっと

2005-01-16 23:33:09 | お芝居
今日は、素人芝居に関わりました。出来は、ま、いいっか!
 このところそれで多忙な日々を送っていたわけです。「これで一段落です」という記事を今書いて日付はごまかしました。短~い!うっそ~!
でも、役者はそれなりに一生懸命でした、何しろ1時間30分出ずっぱりですから。
 今度は、5月頃にやります。実は、楽しみにしているんです。 
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