無意識日記
宇多田光 word:i_
 



アルバム『BADモード』の凄まじい点の一つに「同じ曲構成がどれひとつとして一切登場しない」というのがある。普通のPopsの構成である「ABCABCBC」みたいなのが全くみられない。何れの楽曲もここでしか聴けないドラマティックな展開を見せてくれるのだ。

中でもやはり代表格はタイトルトラックである『BADモード』だろう。先行公開ショートVer.MVのワンコーラスの時点で流れるようなヴァース~ブリッジ~コーラス(Aメロ~Bメロ~サビ)を聴かせてくれて「大好物な展開!」と既にテンションMAXだと思っていたんだ私は。しかし、アルバムが配信されてフルコーラスを聴く段になって愕然とすることになる。1番のサビのあとにラップ風パートでフォローアップ?? 2番でサビに行かずにいきなりアンビエントモードに!? そのあとサビでメロウにスロウダウン!!?? でテンポアップしてきたと思ったらそこに更に新しいメロディを投入してくるとか…っ!!! 初聴時もう唖然茫然としちゃっていやもうそこからすかさず『君に夢中』のピアノのイントロでしょ!? 完ッ全にノックアウトでしたね!

で、これだけの展開を見せておきながらランニング・タイムは5:03というヒカルとしては平均的、最近だとやや長めかな?という程度。あたしだったらこれだけアイデアあったら15分の曲にするよ…。


…という感じの『BADモード』の曲構成をまとめてみよう。

A:『いつも優しくていい子な~』
B:『そっと見守ろうか?』(「伊藤美誠も老化?」ってなんなんだよAndroid!)
C:『わかんないけど~』
C:『I can't let you go~』
R:『Here's a diazepam~』
A:『メール無視してネトフリ~』
B:『何度自問自答した?~』
X:(1分間の間奏)
C:『今よりも良い状況を~』
C:『I can't let you go~』
D:『You know I'm bad at~』
E:『エンドロールの最後の~』
F:『Hope I don't ~』

という風に区切ればこの曲は「ABCCRABXCDEF」という構成を持つ曲だと書ける。たった5分の曲の癖にABCDEFRXの8つのパートを持っているのだ! イントロとアウトロまで加えたら10である。たったの303秒で!

なんという楽曲だろうか。そんな中でやはり白眉は、スロウダウンしたサビメロ(『今よりも良い状況を~』)を聴かせた後にそこからギアをもう一段上げてくる所だろう。先程も触れたとおり、ショートVer.の時にサビメロを聴いた時点で「これは最高のフックラインだ!」と盛り上がったのにそこから更に畳み掛けてくるのもうホント息も絶え絶えでしたわよ。


で、だ。この、曲構成をアルファベットで書き下すパターンは、ここ数年来この日記を読んでる人には既視感があるかもしれない。そうなのよねぇ、この『BADモード』の曲構成のヒントとなった、或いは下地になっているのは、2020年5月に発表され今回のアルバムでは7曲目に鎮座しておられる『誰にも言わない』なのよね。そこらへんの話からまた次回。

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いつまで『BADモード』モードなのだろう。いつもならチェックしてる筈のラジオ番組やポッドキャストや新譜の数々を悉く放置してずっとライナーボイスを聴いてる始末。ヒカルの喋りとヒカルの楽曲が交互に襲ってくるなんて逃げおおせるとも思えません。

2016年の『ファントーム・アワー』も2018年の『トレビアン・ボヘミアン・スペシャル』も素晴らしかったが今回は乾燥機をバックに時間無制限。あれもこれもとまぁよう喋ってくれること。これひとつひとつひとことひとことアタマに叩き込んでおきたい。

何しろこの日記には「こうじゃないかな?ああじゃないかな?」と毎日妄想と推測が綴られているものだから、なかなか現実との接点が無い。そこにこうやってヒカルが「本当のこと」をたっぷり話して聞かせてくれる時間を作ってくれたのだから誰よりも食いついてしまうのは致し方なし。いわば大学受験のために何年も頑張ってきた人が本番の受験を終えて自己採点をしている時のようなそんな気分……? いやいや、推測が間違っていたとしても別にそれで落ち込む事は無いので、もっと切実に人生を賭けている受験生の皆さんと較べるのは失礼だな。そんな一発の試験だけで落ち込まなきゃいけないシステムの是非はまた別として。現実こうなっちゃってるからね。

そんな中で今回「推測がハズレててよかった」と心底思わせてくれたのがノンバイナリ発言と資生堂との関係。どうしても企業の姿勢上資生堂は(…駄洒落のつもりはない…)伝統的に“女性性”の強調からは逃れられない中、タイアップとCM出演を目前に控えた宇多田ヒカルがノンバイナリ発言をするというのはどういう戦略上の意図があるのか、ひょっとしたら両者に確執めいた内情でもあるのか??とかなり訝った事を私は書いてきていた訳だが、それらは杞憂も杞憂、私の勘違いでしかなかったのでした。

というのも、ヒカルさん、今回のライナーボイスの英語版で「ノンバイナリ発言するときに資生堂のことすっかり忘れてて焦った」旨の発言をしているのですよ。意図的でも戦略的でもなく、単にアタマになかったのだと。

勿論、プロなのでこの発言が嘘という事もあり得る。ヒカルがそういう私のような疑いを見越してそれを収める為に方便を使った、というね。でももしそうだとしても、それをそのまま受け容れるのがこちらのあるべき姿だろう。それが真実かどうかより、ヒカルが受け手にそう受け取って欲しいと願っている事の方が大事なのだから私は勿論その意図に従う。だから言ったことはいつでもそのまま受け取ってるのですよ。例えばスタッフが「あそこが“あるきたに”に聞こえたのは楽器の干渉が原因」と言うのだからそれはそうであるのだ。なのでそう受け取っておこう。うむうむ。

という訳でこの資生堂とノンバイナリ発言の件に関しては今後特にツッコまない。人によっては不満もあるかもしれないけどね。…ってこれ、そのライナーボイスの部分も書き起こして翻訳しなきゃいけなくないか私が。いやはや、ちょっと時間のかかる作業になるので暫く時間を下さいねっと。

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