会社の同僚から聞いた話。
彼女のお母さんは、70歳になるまで学校の先生をやっていたのだが、辞めたとたんにボケが始まり、あれよあれよという間に要介護4判定になってしまったそうだ。やむを得ずに介護施設に入居させたところ、偶然その施設に教え子がいて、「先生」と呼ばれ始めたことをきっかけに、めきめき元気を取り戻し、要介護4判定が、要支援1まで回復したらしい。先生時代の経験を生かし、今や施設内の相談役をやったり、役員をやったりして驚くほどの回復振りを見せているとの事。
この話を聞いて、人間は誰かに必要とされて、役割を与えられることで生きていけるんだなと思ったのと同時に、自分のちょっと辛い過去を思い出した。
私も役割のなさや、自分の存在が社会の役に立っていないことに悩んだ時期があったことを。
その頃の私はこんな感じ。
朝起きて、夫だった人を見送り、2度寝して、10時ごろに起きて、掃除したり主婦向けのテレビを見たりして、お昼は社宅の友人とランチに行って、その後また友人宅でお茶して、友人の子供と遊んで、気がつくと5時過ぎになっていて、「じゃあまたね」と言って帰って、夕飯の献立を考えていると、夫だった人から連絡が入って、「今日はご飯いらない」。「な~んだ、だったら早く言ってよね」、と思いながら自分一人のご飯を作って、テレビ見て、お風呂入って、寝て、また次の同じ日が始まる。
一見、何のストレスもない、ばら色の専業主婦生活のように思えるかもしれないけど、その頃の私はストレスの塊。漠然とした何かに対する不安と、焦りと、被害妄想にがんじがらめになり、「私は一体誰の役に立っているんだろう。私は何のために存在しているんだろう」と考えては鬱々としていたのです。
ところがある日のこと、キャリアウーマンの友人にいつものように長電話で愚痴をぶちまけていた時に、事件が起こりました。
「だからね、こうでね、こんなことがあってね、あ~あ、もういやになっちゃう… (ため息)」
友人はどうでもいい話に30分ぐらい付き合ってくれたその後で、突然態度を翻して、こう言い放ったのです。
「だから私は専業主婦は大っきらいなのよ」
「はっ?」
「何で私があんたみたいな人のために、国民年金第3号払わなきゃいけないのよ。冗談じゃないわよ」
「はぁ~?国民年金?何でそういう話になるのよ?」
「あんたねー、ぐだぐだくだらないこと言ってる暇があるんだったら、さっさと働きゃいいよの。働いて少しは社会の役に立ちなさいよ。」
「そんな、突然働けって言われても、仕事やめちゃったし、どこで働けばいいのよ」
「どこでもいいじゃない。派遣でも何でも。そうだ、オー人事、オー人事 に電話すりゃいいのよ」
「えー、オー人事、オー人事?」
オー人事、オー人事とは当時はやっていたスタッフサービス(派遣会社)のコマーシャルで、上司に怒られた部下が、こんな会社辞めてやると唇をかみ締めながら、オー人事、オー人事 (011-011) に電話すると、「はい、スタッフサービスです」と電話の向こうから明るい声が聞こえてくるというコマーシャル。
「何で私がそんなところに電話しなきゃいけないのよ、バカバカしい」、と思いながらも、その時友人が言った、「働きゃいいのよ」という言葉が気になって、「電話してみようかな」と一瞬心が揺れ、電話機の前で数分悩んだ末に、実際に電話したのでした。
0120-011-011
今でも覚えていますが、電話がつながるとコマーシャルと全く同じ口調で、「はい、スタッフサービスです」と電話の向こうから声が聞こえました。
「うわー、コマーシャルと同じだ」
実はこの電話がきっかけで私のキャリア快進撃が始まったのです。うそのような本当の話ですが、この1本の電話から、いろいろなつながりを経て、世界最大の米系金融会社に就職することになったのだから、人生何が功を奏するか本当に分からないものです。
ところで、この友人には本当に感謝しています。あの時の彼女の言葉がなかったら、今の私はきっといないと思うから。
あの時は怒られたけど、今は自分の年金はちゃんと自分で払っています。えっへん!