ニュージーランド以来の失態、悪夢再び。マンションの鍵を会社のオフィスに置き忘れて帰ってしまうなんてことをやってしまった。長い道のりを電車を乗り継ぎ、やっと我が家に帰りついたら家に入れないなんて。。。はぁーと深いため息をつき、気力が全部抜けて、ボーっとした頭で思いつくことは、また電車に乗って会社に戻る、ホテルに泊まる、友達の家に泊めてもらう、どれもパッとしないなと思って外を見たら雨まで降ってきた。最悪!
いけない、いけない、ちゃんと建設的に考えなきゃと思い直し、気力を振り絞って会社に戻ることを考えた。こんなバカなことをしたなんて、本当は知られたくないけど、オフィスのドアを開ける鍵がどこにあるかを聞かなきゃいけないので、恥を忍んでアシスタントに電話してみた。
「あのさ、鍵ってどこにしまっているんだっけ?」
「鍵は持って帰ってきちゃいましたよ」
ガックリ!
しらばっくれる訳にもいかないので、何をしでかしたか事情を説明して、今から鍵を取りに行くことを伝えた。アシスタントは「私も会社まで行きますよ」と言ってくれたけど、それは申し訳なさ過ぎるので、「大丈夫、大丈夫、今からタクシーで行くから、近くに行ったらまた電話する」と気丈に振舞ってみた。
しゃべる気力もなく、ほとんど無言でタクシーに乗って、目的地近くになってから、ようやく口を開き、今から行くところで友人に会うのでその間少し待ってもらって、それから会社に行って、そこで少し待っていてもらって、それからまたさっき拾ってくれたところまで戻って欲しいと言った。
ドライバーのおっちゃんは、「いいですよ。こんな遅い時間に仕事?大変だねぇ」と、見当ハズレなことを言った。
アシスタントの家に着き、彼女は健気にも本当に私と一緒に会社まで行ってくれようとして、ちゃんとした服を着て、バッグを持って現れたけど、「いいから、いいから」と言って、「会社について鍵が見つかったら電話するから」と言って、タクシーに乗り込もうとした。「でもマンションの鍵がオフィスにないってこともありますよね」、と考えないようにしていた最悪の事態を指摘され、ちょっとひるんだけど、今の私には、もうそっから先のことは考えられない。「いいから、いいから、何とかなるから」と言いながらも、思考回路停止。
タクシーに乗ったら、おっちゃんが、「コーヒーとお茶があるけど、どっちがいい?若い人はコーヒーの方がいいかな?」ってコンビニの袋からコーヒーを出してくれた。
「えっ、もらっちゃっていいの?」
「いいよ、あげちゃうよ」
「えー、嬉しい。ありがとう。今買ってきたの?」
「そうだよ」
ポッカの100円のコーヒーだったけど、温かいコーヒーが打ちひしがれた心をにしみこんで美味しかった。おっちゃん、いい人だなぁ。コーヒー買ってくれるなんて、よっぽど私は可哀想な人に見えたんだろうか?それにしても一見のお客さんにコーヒー買うなんて、出来そうで出来ないことだよなぁ、私だったらこんなことできるかなぁ、なんて考えていたら会社に到着。
「ちょっと待っててね」、と言って、数時間前に帰ったばかりのオフィスに戻り、鍵を使って部屋の中に入ったら、デスクの上にマンションの鍵を発見した。「あった!」という安堵と共に、「ここに置き忘れたのか」という後悔が一緒にやってきた。鍵を忘れた、もしくは失くした場合の対策をちゃんと考えておかなきゃ。
帰りのタクシーは家に帰れるという安堵感からか、おっちゃんと世間話をしながら帰った。
「なんだ、鍵を忘れちゃって、家に入れなかったのか。そりゃ、大変だったねぇ。一人暮らし?」
「そうだよ」
「一人で東京で暮らしているとお金がかかって大変でしょ。いい人見つけて楽した方がいいよ」
「そうだよねぇ」 つーか、余計なお世話なんだけど。
おっちゃんはどうやら女性の一人暮らしは、すごーく苦労して大変な思いをしていると信じて疑わない感じで、話をしているうちに自分でもそんな気がしてきた。
家に着いたらメーターは8900円。1万円で払ったら、「まけちゃうよ、いいよ、いいよ」って言って、2000円おつりをくれた。おっちゃん、なんていい人なんだろう。私なんかに優しくしても、二度と会うことないかもしれないのに。すごいなぁ、こういうことがサラッとできるって。おっちゃん、いかしているよ。
おっちゃんの優しさに痛く感動して、災い転じて福となった1日でした。
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