宇宙になぜ我々が存在するのか  -最新素粒子論入門-

2013-02-04 09:27:46 | 日記

村山 斉著   講談社BLU BACKS

なかなか興味を引くタイトルでしょう? しかし、サブタイトルに「最新素粒子論入門」とあるので、途惑うことになる。
しかし、読み進めれば納得はできる。確かに我々の体の構成要素を元素レベルまで分解すれば、素粒子で出来ていることは分かる。ここまでは分かるのだが、これは、素人考えだが、人間は無機質の集合体でしかないということになる。元素が集合して精神や思想がどうして出来るのか、には著者は答えてくれない。しかし、これは著者に無いものねだりするようなものだろう。著者は生物学者でも宗教学者でもなく、物理学者なのだから。
それはともかくとして、本書を読んでようやくスッキリしたことがある。それは、最近話題になった「ヒッグス粒子」の役割である。何度読んでもその存在理由が分からなかったのだが、今回とりあえず見当が付いた。つまり、こういうことである。「ヒッグス粒子が真空中にビッシリ詰まっているおかげで、原子はその場にとどまっているように秩序をつくっているのだから……この粒子がなかったら、私たちの体はもちろん、宇宙には地球も太陽も何もできずに、ただ素粒子がビュンビュン飛び回っているだけだった(139頁)」。
つまり、これがサブタイトルの存在理由。まっ、この他にもおもしろい記事がたくさんあるけれど、とても分かり易く書かれているので、敬遠せずに読んでみてほしい。


DNA医学の最先端 -自分の細胞で病気を治す-

2013-02-02 15:33:06 | 日記

大野典也著   講談社現代新書

著者は現東京慈恵会医科大学名誉教授。帯に「医療の未来はすでに始まっている! がん、脳性麻痺、脊髄損傷から自己免疫疾患、アルツハイマーまで」とあるので、感のよい人ならばある程度内容は見当はつく筈だ。これまでは最悪の場合、臓器移植ということになるが、免疫反応ということが問題になる。しかし「自分の細胞」で治療するぶんにはその心配はないということに止めておく。というのは、中途半端に私が要約すると誤解を招きかねないからだ。関心のある方(たいていの人がそうだと思うが)は、ぜひ本書を読まれたほうがいい。
ただ、残念なことにはここに紹介されている治療法は現実に成功しているのだが、日本ではまだ認可されていないということ。おそらく、日本の医学界・厚生省あたりがネックになっているのだが(この点に関しては言いたいことは山ほどあるのだが、著者の主旨ではないので止めおくが…)。
しかし、諦めるのは早い。著者そうした人々のために相談機関として「アクティクリニック(03ー5733ー4705)」を開院している。心配な方はアクセスしてみたらいいかも。
医療の未来の扉はすでに開きつつある。希望を持つことだ。


天平グレート・ジャーニー

2013-02-01 15:08:15 | 日記

上野 誠著   講談社刊

サブタイトルは「遣唐使・平群広成の数奇な冒険」である。そして、タイトルの「グレート・ジャーニー」とは「漂流」を意味する。遣唐使には、漂流どころか遭難死すらあった。唐に渡るということは、命懸けのことだったのである。場合によっては日本を出発してすぐに船が転覆し死ぬことだってあった。今の常識で考えてはいけない。平群広成が唐に向かったのは天平5年(733)、当時の日本と新羅は最悪の状態にあり、朝鮮半島経由というコースは選択肢になかった。
これ以上は書かない。というのも、本書を通して天平時代の東アジアと日本の政治状況が分かる仕組みになっているからだ。ともかく、彼はこの時代にあって、長安・崑崙・渤海を見た男なのだ。
本書とは関係ないが、遣唐使と明治維新直後の海外留学生には共通点があることである。それは過剰なまでの日本の代表者という自意識と同時に、帰国後の出世・昇進という強烈な思惑を持っていたことである。この辺がよく書かれている。