評伝 野上弥生彌生子 -迷路を抜けて森へー

2011-10-08 15:06:51 | 日記
彼女の本は『秀吉と利休』を読んだくらいで、むしろ戦中に多くの作家が軍国主義に迎合した中で、それに靡かなかった数少ない作家の一人として記憶に残っている。法政大学総長・野上豊一郎夫人だつたことはこの本で初めて知った。
改めて評伝を読んで驚いたことは、代表長編小説『迷路』『秀吉と利休』『森』はいずれも彼女が人生の後半を迎えてから執筆されたことだ。三作目の『森』は87歳から書き始め、亡くなる99歳まで最後の一章を残して書き続けたことだ。多くの作家が晩年は軽いエッセイや紀行文で終わることを考えれば、これは凄い。
勿論、その背景には実家が財産家であったこと、夫の社会的地位、その夫を通して漱石、中勘助、田辺元を初めとした当時のインテリゲンチャーと知己を得ていたこともあるが、何よりも類稀な強い意思で規則正しい生活習慣と孤高を守ったことにある。そして、凄いのは「身勝手と思われるくらいの、結構偏見に満ちた自信とプライド。そして亡くなる寸前まで旺盛だった知識欲」だろう。
100歳まで長編を書き続けたこの人は、驚異の人だと言える。著者の丁寧な分析があって、初めて著者の素顔を知ることができた。



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