モーツァルトを「造った」男 -ケッヘルと同時代のウィーンー

2011-03-26 16:02:54 | 日記
小宮正安著  講談社現代新書刊

モーツァルトの作品に「K○○○」という作品番号が付いているのは、クラシックファンならば誰でも知っているだろう。K527 『ドン・ジョヴァンニ』 K626『レクイエム』といった具合に。通常「ケッヘル 何番」といわれることが多いが、本書はその作品番号を創始したルートヴィヒ・ケッヘルの伝記であると同時に、彼が生まれたオーストリアを中心にした19世紀のハプスブルク帝国の物語でもある。
勿論、それまでにも作品番号がなかつたわけではない。楽譜出版社が音楽作品に対しオーパス番号というもの付けていた。ただし、それは売れ筋の作品だったり、発売した作品に勝手に付けていたもので、ひとりの作曲家の全作品を時系列的、楽曲のジャンル別に付けていたものではない。
ケッヘルは音楽に対する造詣は深かったが、後世の音楽学のプロではなかった。むしろ、植物学、鉱物学の専門家だった。その彼がモーツァルトの全作品に作品番号を付けようとしたのは、ひとえに当時のハプスブルク帝国の国内事情による。そして、このケッヘル番号が不動のものとして今もあるのは、彼の専門である植物学などで培われた分類学の手法を活かしたことにある。

蛇足だが、モーツァルトがフリーメイスンであることは知っていたが、フリーメイスンのために4曲も作曲していたことは、この本で初めて知った。