「柔らかい肌」 1963年 フランス
監督 フランソワ・トリュフォー
出演 ジャン・ドザイー フランソワーズ・ドルレアック
ネリー・ベネデッティ サビーヌ・オードパン
ジャン・ラニエ ポール・エマニュエル
ロランス・バディ モーリス・ガレル
ストーリー
ピエール(ジャン・ドザイー)は44歳、文芸雑誌の編集長で著名な評論家でもある。
彼はリスボンでの講演の後ホテルに戻り、美しいスチュワーデス、ニコール(フランソワーズ・ドルレアク)とエレベーターで一緒になった。
その手にしたキーから部屋番号を知り、思い切って電話した。
彼女は一旦断ったが気を変えて誘いに応じ、翌日ホテルのバーで落ち合った。
ピエールの文学談を熱心に聞くニコール。
朝になり、2人は一緒に彼女の部屋に戻ると関係を持った。
この日から、平和でなに不自由ない落ちついた彼の生活が狂い始めた。
二人はパリに帰ってからもしばしば会うようになったが、どこにも落ちつける場所はなかった。
その頃ピエールに、田舎町での講演の依頼があり、密かにニコールをつれて出発した。
色々とスケジュールの立て込んでいたピエールはニコールを不機嫌にさせた。
パリに帰る途中でいい宿を見つけ、そこで夜を過ごして仲直りした。
しかしピエールにとって、単なる浮気ではなかったにしても、やはり家のことが気になり始めた。
予定よりまる一日帰宅が遅れているのだ。
翌日、ピエールがそこから妻に電話してランスに泊まったと嘘をいうと、主催者に連絡を取っていた妻のフランカ(ネリー・ベネデッティ)はその嘘を見破り、怒って電話を切った。
とりあえずニコールを自宅へ送り、自分の部屋に帰ったピエールは妻と大げんかに。
ピエールは部屋を出て、事務所に泊まることになった。
翌朝、妻が電話をかけてきて、離婚すると宣言した。
寸評
通俗なラブロマンスと思わせながら身勝手な男の滑稽なまでの破局をテンポよく描いていて楽しめる。
ピエールを演じたジャン・ドザイーが二枚目ぶっているが実は小心な男をリアルに感じさせるのがいい。
僕にはジャン・ドザイーはどこといって特徴のない俳優に思えたのだが、それゆえに情事にふける小心者のブルジョワ文化人をリアルに演じられたのではないかと思う。
冒頭では幸せそうなピエールの家庭の様子が描かれる。
わずかの時間で、この男が比較的裕福な階級にいて、自分の仕事と平穏な家庭生活を最優先する保守的な人物であることを感じさせる。
ピエールがリスボンへの講演旅行に出かける所なのだが飛行機の時間がひっ迫している。
飛行機の時間に間に合うかどうかを小気味よいカットのつなぎで見せるので、彼の焦りに同化させられてしまう。
空港までのハラハラする道中をハンドルやクラクションに置かれた運転手の手のアップ、車内、アクセルを踏む足、フロントガラスからの景色を巧みに挿入して目的の飛行機に乗り込むという、息もつかせぬカット割りは何となく見始めた僕を一気に作品に引き込む。
彼が飛行機に間に合うかどうか、僕も一緒にやきもきせざるを得なくなっていたからだ。
ピエールは飛行機の中で22歳のスチュワーデスのニコールを見初め、ふたりはやがて恋仲になる。
二人が出会うエレベーターのシーンが8階に行くにしては長いのは意図したものだろう。
ニコールと翌日バーで会う約束が取れた時の気持ちの高ぶりを、部屋の電気をつけていく事で表しているが、男が決してプレイボーイではない、むしろこれまで不倫の経験など一度もない不器用な男を思わせる上手い演出だ。
やがてピエールは次第にニコールとの情事にのめり込んでいき、妻に電話で嘘をつき、パリでニコールに再会して週末にはランスでの講演に彼女を連れて行くことになる。
ピエールはランスで歓待を受け、女性が一緒だとも言えず主催者の誘いを断り切れない。
ホテルに残したニコールと主催者の間を取り繕いながら行き来する姿は正に小心者の慌てぶりなのだが、どこか浮気男のリアルさを感じさせる。
講演が終わりパリまで一緒に乗せていってくれという旧友を断りきれない優柔不断さと臆病さも分らぬでもない。
ちょっとしたことで浮気がバレてしまうが、そうなると男は開き直るしかない。
男は妻に何年も我慢してきたのだと叫んでしまう。
結婚生活はお互いに我慢することもあって成り立っているものだが、ピエールにも妻に対する不満が貯まっていたものがあったのだろう。
ピエールはニコールに離婚することになった事と彼女との結婚の意思を伝えると、彼女にはその気がない。
恋愛期間の楽しさと、現実の結婚は別物なのだ。
ニコールにとっては家庭持ちのピエールだったから楽しかったのかもしれない。
そうなると妻との和解とやり直しを考えるピエールの身勝手な軽薄さが滑稽ですらある。
妻フランカの揺れ動く不安定な動揺も現実的で理解できる。
その彼女が決断をくだすことになる小道具の使い方などがヒッチコックへの敬愛を感じさせる。
最後のうすら笑いが強烈な印象を残す。