おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

護られなかった者たちへ

2024-03-12 06:39:27 | 映画
「護られなかった者たちへ」 2021年 日本


監督 瀬々敬久
出演 佐藤健 阿部寛 清原果耶 林遣都
   永山瑛太 緒形直人 吉岡秀隆 倍賞美津子
   岩松了 波岡一喜 奥貫薫 井之脇海
   西田尚美 千原せいじ 石井心咲 原日出子
   鶴見辰吾 三宅裕司

ストーリー
2011年3月11日、東日本大震災が日本列島を襲った。
施設育ちで身寄りのない若者・利根泰久(佐藤健)は住処のアパートも働き先の水産加工工場も失い、避難所となった小学校に身を寄せた。
利根はそこで親を失った“カンちゃん”という少女(石井心咲)、そして老女・遠島けい(倍賞美津子)と知り合い、打ち解け合った。
時を同じくして、宮城県警捜査第一課の笘篠誠一郎刑事(阿部寛)は行方不明になった妻・紀子(奥貫薫)と11歳になる息子の行方を探していた。
程なくして紀子は遺体で発見されたが、息子は結局発見されることはなかった。
息子は黄色いジャケットを着ており、偶然にも同じような黄色のパーカーを着ていたカンちゃんが気になった。
程なくして利根とカンちゃんは、自宅に戻っていたけいの元を訪れた。
互いに身寄りのない利根とカンちゃん、けいはいつしか家族のような絆を結んでいた。
やがて利根は栃木の宇都宮製鉄に就職し、カンちゃんは新たな里親となった民宿経営者の円山春子(原日出子)に引き取られた。
利根は休暇を利用して度々カンちゃんやけいのもとを訪れていた。
やがてカンちゃんこと幹子は中学生、高校生へと育っていった―――。
震災から9年後、利根はある罪で刑務所に服役していた。
模範囚として認められた利根は刑期を2年早めて出所し、保護司の櫛谷貞三(三宅裕司)の手引きで前科者も受け入れてくれる坂巻という男の経営する工場で働くことになった。
一方、笘篠は相棒の若手刑事・蓮田智彦(林遣都)と共に働いていた。
そんなある日、仙台市内の廃アパートの一室から男性の遺体が発見され、笘篠と蓮田は捜査に乗り出した。


寸評
2011年3月11日に東日本大震災が起き、それぞれの人が被害を受ける。
彼らの当時の様子が度々物語に挿入されるが、9年後に起きた事件との関連性が乏しく煮え切らない。
カンちゃんは黄色い服を着ているが、笘篠の息子も黄色い服を着ていたことで彼女への関心を持つのだが、やがてそのことに利根も絡んでくる。
それならその事に対する震災時の様子も描き込んでおかねばならなかったのではないか。
けいの家で、互いに身寄りのない利根とカンちゃんを交えた三人は疑似家族を形成していく。
疑似家族としての結びつきを強くしていく様子を描き込んでいれば、事件の雰囲気も犯人と思われる人物への思い入れも、もっと深いものになったような気がする。
笘篠が妻子の幻を見るシーンまで用意されているのに、東日本大震災が事件の背景にしかなっていないことが作品を煮え切らないものにしていると思う。
登場人物の多いことも拍車をかけていたのかもしれない。
刑事側として鶴見辰吾の東雲が登場するのだが、捜査の責任者である彼は笘篠による取り調べを組織の決まりにより許さない。
東雲の杓子定規な行いは福祉センターにも言えることなのだが、その比喩は感じることは出来ない。
福祉センターの人物として三雲の存在は分かるのだけれど、殺されることになる城之内や幹子の同僚である菅野の役割は不明確だ。
利根はけいのタンスから残高の少ない預金通帳を発見するが、同時に学習塾のパンフレットもあり、その学習塾を経営している宮園真琴という劇的な女性の存在も多くの登場人物の中に埋もれてしまっている。

物語の中で福祉行政の矛盾が幾重にも描かれていく。
渡嘉敷という女性は生活保護を受給しながらスーパーで働いていた為に生活保護費の返還を迫られる。
彼女は家庭環境のせいでいじめを受けている娘のために塾の費用を工面しようとしているのだが、規則はそれを許さない。
結局彼女は娘と無理心中を図ることになる。
国枝という男は障害者を偽装しており、生活保護受給者は所持できないはずの高級外車を所持している。
生活保護費を支給しなければならない人に支給されず、支給する必要のない人に支給されている矛盾である。
幹子が受給を恥だと思っている女性を説得して受給申請させると、上司からは余計なことをするなと言われる。
真面目に福祉業務を遂行しようとすると、原則から外れてしまう矛盾でもある。
三雲がけいの申請取り消しを推し進める姿は、むしろ受給者を減らせて嬉々としているようでもある。
殺人事件の解決もあるからテーマは弱くなっているが、生活保護政策の矛盾は一応描けていたと思う。
一方で、けいや利根に代表される震災によって生まれた貧困という問題は、笘篠が同じような震災被害者であることによって弱められてしまっている。
東日本大震災を絡めた面白い題材だったと思うのだが、どれもが中途半端な描き方になってしまっていたのは惜しかった。
犯人として利根の匂いをプンプンさせているのはドンデン返しを狙ったものなのだろうけど、ちょっとあざとすぎたような気がする。


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