おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

町田くんの世界

2024-03-09 07:55:34 | 映画
「町田くんの世界」 2018年 日本


監督 石井裕也
出演 細田佳央太 関水渚 岩田剛典 高畑充希
   前田敦子 太賀 池松壮亮 戸田恵梨香
   佐藤浩市 北村有起哉 松嶋菜々子
   笛木優子 土屋アンナ

ストーリー
高校生の“町田くん”こと町田一(細田佳央太)は、生物学者で現在はアマゾンに出張中の父・あゆた(北村有起哉)、母・百香(松嶋菜々子)と、4人の弟妹がいる大所帯で暮らしている。
町田くんは不器用な性格で勉強も運動も苦手なのだが、とにかく“人を愛する”ことが大好きで、バスで老人に席を譲るなど心優しい少年である。
学校の美術の時間で間違いをクラスメートの栄りら(前田敦子)に指摘された町田くんは、誤って彫刻刀で怪我をしてしまい、ちょうど授業をサボって保健室にいたクラスメートの猪原奈々(関水渚)に簡単な手当てをしてもらい、感激した町田くんは猪原に感謝の気持ちを伝えたが、元々“人が嫌い”な猪原は戸惑ってしまう。
町田くんは「僕は人が好きだ」と言うと、猪原は「今どき人が好きって言っているほうがおかしい」と応えた。
しかし、猪原はなぜか町田くんのことが気になるようになった。
「人が嫌い」な猪原は将来叔母の住むロンドンへの留学を希望していた。
週刊誌『芸能チェイス』の記者・吉高洋平(池松壮亮)は書きたくもない芸能人のスキャンダル記事を書くことに疲れ切っていた。
そんなある日、バスに乗った吉高は席を譲ろうとしている町田くんの姿を見た。
町田くんはこの街ではキリストみたいだとの評判であり、吉高は悪意と偽善に満ちた世の中で、町田くんのような根っからの善人もいるのかと感じた。
モデルとして活動している男子生徒の氷室雄(岩田剛典)は常に格好ばかりつけており、チャラい性格が災いして恋人の高嶋さくら(高畑充希)から別れを告げられ、モデルの仕事も減ってきていた。
ある日、氷室は、たまたま遭遇した猪原をナンパし、それを見かけた町田くんは猪原をその場から連れ去った。
猪原は反発しながらも町田くんの行為はまんざらでもなかった。
そんな猪原に町田くんと同学年の西野亮太(仲野太賀)が想いを寄せていた。


寸評
高校生の恋を描いているが、歳を取っても僕はこの手の作品にホンワカした気分になってしまう。
運動が苦手なことを示すためとは言え、町田くんが変な走り方をしているとか、急にメルヘン調になってしまうとかに反感を抱いてはこの映画を楽しむことはできない。
人間大好きで親切心の塊のような町田くんのような人物は映画の世界だけにしかいないことも百も承知である。
悪意がはびこる世の中にあって、町田くんは我々が待ち望む人物で、彼のような人間が大半を占めていればどんなに素晴らしい世の中かと思う。
そういう理想の人物の対極にいるのが現実的に思える猪原さんでリアリティを感じる。
彼女は母親のスキャンダル記事による誹謗中傷で人間嫌いに陥っている。
個人に対する悪口、陰口、誹謗中傷は現実的だ。
また町田くんに好意を持ち始めた猪原さんの思いが町田くんにはなかなか伝わらない。
恋い焦がれている気持ちを上手く伝えられない、あるいは思いをなかなか気付いてもらえないなどは青春時代に経験したことだろうし、彼女を自分に置き換えれば、僕の青春が蘇ってくる。

町田くんの行動は滑稽だし、現実離れしているように思えるが、しかし彼の善意をここまで徹底的に描かれると爽快ですらある。
猪原さんは町田くんが自分に好意を寄せているのではと期待したが、町田くんの口から発せられたのは氷室の件だったので、がっかりした猪原さんはバスを降りてしまう。
たまたま居合わせた雑誌社の吉高は町田くんに、どうしてこんなにも人に優しいのかと尋ねる。
町田くんの答えは「好きな人に悲しい顔させてしまった」である。
彼は猪原さんのことが気になったため、老人に席を譲ることを怠ってしまっていたことを悔い、猪原さんを悲しませてしまったことを悔いているのだ。
町田くんの優しさを示す一番のシーンだったと思う。

町田くんは帰国してきた父親のあゆたに自分の気持ちについて相談してみたところ、あゆたから「分からないことがあるから、この世はすばらしい。わからないことがあるから追求したくなる」と言われる。
思い通りにならないからこの世は面白いのかもしれない。
叶わぬ夢があるからその夢を追い続ける。
町田くんは母親の出産に出会い、猪原さんに「もう一人の町田が生まれる」と叫ぶ。
この言葉は、町田くんが生まれ変わったことを表していたのだと思う。
町田くんは、今迄親切にしてやった人たちに助けられて猪原さんのもとへ駆けつける。
その様子は劇画の世界だが、風船で空を飛ぶシーンはファンタ―ジーの世界である。
その風船は水面から映されていた鴨によって割られ、二人はプールに落下する。
鴨は新たな世界へ飛び出した町田くんと猪原さんそのものだ。
鴨が水面を泳いでいたように、町田くんは猪原さんに向かって泳いでいく。
町田くんの細田佳央太、猪原さんの関水渚はなかなかの好演だった。
前田敦子が狂言回し的な役割を面白く演じている。