おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

ベイビー・ブローカー

2024-03-05 06:31:04 | 映画
「ベイビー・ブローカー」 2022年 韓国


監督 是枝裕和
出演 ソン・ガンホ カン・ドンウォン
   ペ・ドゥナ イ・ジウン イ・ジュヨン

ストーリー
黒いフードを被った若い女性が「ベイビーボックス」と書かれた赤ちゃんポストの前に立ち止まり、懐に抱いた赤ん坊をそっと床に降ろすと去っていった。
それを遠目に見つめている女性二人。
一人は赤ん坊を捨てた女性を追いかけ、もう一人は残された赤ん坊の元へ向かう。
ショートカットの髪型の女性は、刑事のスジン。
赤ん坊を抱えると、そっとポストに入れ扉を閉めた。
すると教会のブザーが鳴り、当直だった職員の若者ドンスと牧師として現れたサンヒョンが赤ん坊を見つけた。
慣れた手つきでドンスは赤ん坊が映っていた画像を消し、サンヒョンは母親が残したメモを見つけた。
メモには「ウソン、必ず迎えにくるから待っていてね」と書かれてあった。
その後、ワンボックスカーにウソンは乗せられ、サンヒョンとドンスはサンヒョンが営むクリーニング店へ赤ん坊を連れていった。
借金に追われるサンヒョンは、“赤ちゃんポスト”を運営する施設で働く若い男ドンスと手を組み、赤ん坊をこっそり連れ出しては、新しい親を見つけて謝礼を受け取る違法な商売をしていた。
ある時、赤ん坊を連れ出した2人の前に、思い直して戻ってきた若い母親ソヨンが現れる。
ちゃんとした養父母を見つけるためと言い訳した2人に、自分も同行すると言い出すソヨン。
こうして思いがけず赤ん坊の母親と一緒に養父母探しに旅に出るハメになったサンヒョンとドンス。
そして、そんな彼らの行動を、現行犯で逮捕しようと目論む2人の刑事が執拗に監視していた。


寸評
この頃の是枝は血のつながりのない家族を描き続けている。
赤ちゃんを捨てるソヨン。
その赤ちゃんを売り飛ばそうとするサンヒョンとドンス。
出会った彼らの里親探しのロード・ムービーである。
重いテーマながらエンタメ性を持たせてまとめ上げているが、脚本的に緻密さが足りないような気がする。
そもそもの発端であるソヨンが子供を捨てねばならない事情が希薄である。
彼女は赤ちゃんポストに入れずに、その前に置いていく理由がよく分からない。
登場人物が抱えている背景も説明不足感がある。
ドンスも母親に捨てられた過去を持っているが、40人に1人しかいないという母親の迎えを信じていたことも生かし切れていない。
彼は養護施設の前に捨てられていたのだが、その養護施設が気に入っていて、大きくなってからも子供たちの面倒を見ていたようなのだが、彼が成人してからどのようにして養護施設とかかわっていたのか不明なので、彼と捨て子達の交流がこちらには伝わってこないのだが、あえて省かれていたのだろうか。

旅を続けるうちに彼らの中に親しみが生まれてくる。
特にヘジンという10歳くらいの男の子が加わってからは顕著で、彼らは疑似家族化していく。
ヘジンがウソンを本当の弟のように扱うことは兄弟愛であり、そのことを通じてサンヒョン、ドンス、ソヨンにも父性愛、母性愛が芽生えていく。
血のつながりよりも一緒に生活していることのほうが結びつきが強いということだろう。
ソヨンがウソンにあまり関わらないのは愛情が芽生えてしまうからだと指摘されているが、我が子を手放そうとしている彼女の心打ちは平静を装う彼女からは伝わってこない。
彼女に苦悩はなかったのだろうか。

スジンはサンヒョンとドンスの現行犯逮捕を目論んでいるが、その為には赤ちゃんを誰かに売り飛ばさなければならない。
コンビを組むイ刑事から「何だか我々がベイビー・ブローカーみたいですね」と言われるシーンが面白い。
刑事のスジンはペ・ドゥナが演じていることも有って、どこかいわくありげな女性に見えるのだが、スジンというキャラクターの描き方は浅いように思う。
彼女も子供を産めない体だったのかもしれないし、彼女も捨てられた過去を持っていたのかもしれない。
そんな風なことを想像させる存在なのだが、彼女自身のことはまったく描かれなかった。

疑似家族化していく中にサスペンス要素も加わっているのだが、どちらも中途半端でもう少し脚本を練り上げれば、より完成度の高い作品になっていたと思う。
ラストでは彼らのその後が描かれ、ソヨンを追いかける車には4人で写した写真がぶら下がっている。
運転しているのはサンヒョンなのだろうが、さて彼らはこれからどうするのだろう。
全ては観客の想像に任されているが、僕は消化不良のまま思いを巡らす。