おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

ラストレター

2024-03-21 07:38:57 | 映画
2019/1/1より始めておりますので10日ごとに記録を辿ってみます。
興味のある方はバックナンバーからご覧下さい。

2019/9/21は「曽根崎心中」で、以下「その男、凶暴につき」「その土曜日、7時58分」「それでもボクはやってない」「それでも夜は明ける」「ソロモンの偽証 前編・事件」「ソロモンの偽証 後篇・裁判」「ダーティハリー」「ターミネーター」「第三の男」と続きました。

「ラストレター」 2019年 日本


監督 岩井俊二
出演 松たか子 広瀬すず 庵野秀明 森七菜
   小室等 水越けいこ 木内みどり 鈴木慶一
   豊川悦司 中山美穂 神木隆之介 福山雅治

ストーリー
遠野未咲の葬儀の日、娘の鮎美(広瀬すず)は母からの遺書を開封できずにいた。
いとこの颯香(森七菜)は夏休みの間、鮎美の住む祖父母の家で鮎美と一緒に過ごすと言う。
颯香の母・裕里(松たか子)は姉・未咲の高校時代の同窓会に出向く。
マドンナ的存在だった姉に間違われ、その死を言い出せず姉のフリをしたまま会場を後にした裕里に声を掛けてきたのは、かつて憧れていた乙坂鏡史郎(福山雅治)だった。
乙坂の誘いを断り、連絡先だけ交換して帰宅した裕里は、メッセージのやりとりを夫の宗二郎(庵野秀明)に見られ、スマホを壊されてしまう。
その事実を知らせるため、姉のフリをしたまま裕里は乙坂に自分の住所は書かず手紙を送り始めた。
ある日、宗二郎が突然大きな犬を二頭買ってきたが、それは妻・裕里への罰のつもりだった。
困った裕里は一頭を実家に連れていき、そこで鮎美が世話をすることになった。
事の顛末を懐かしい高校の写真とともに手紙で送った裕里に、乙坂は返事を書き実家の住所に送った。
ある日、滞在していた夫の母・昭子(水越けいこ)がいなくなってしまい、裕里が近所を探し回ると、ある老人の家でぎっくり腰になってしまったことがわかった。
その老人は昭子の高校時代の恩師波戸場(小室等)で、昭子は英文の添削を彼に頼んでいた。
裕里は手をケガしている波戸場の代わりに彼の家で、添削した英文を書く作業を始めた。
そしてその家の住所を借りて乙坂に手紙を出した。
一方、実家に届いた乙坂の手紙を読んだ鮎美と颯香は、こちらも未咲のフリをして返事を書き始めた。
書簡のやりとりの中で、かつて転校してきた乙坂(神木隆之介)が生物部に入部し、後輩である遠野裕里(森七菜)の姉未咲(広瀬すず)に一目惚れしたこと、裕里にラブレターを託していたことなどが明らかになる。


寸評
岩井俊二が中国を舞台に撮った「チィファの手紙」とまったく同じ内容で、舞台を日本に置き換えている。
従ってストーリー的な新鮮さはないが、舞台が日本だけに、僕は本作の方がしっくりきた。
同監督の「Love Letter」と同一線上にある作品として、僕は懐かしさを感じながら見ることができた作品である。
高校生の時代に乙坂鏡史郎に恋した裕里は岸辺野宗二郎と結婚し、颯香と瑛斗という一女一男がいる母親となり、今は幸せな生活を送っているようである。
作中における夫の影は薄いが、妻に焼きもちを焼く可愛げのある夫であるようだ。
夫に対する特別な不満もなさそうな平凡な主婦として松たか子の演技はこの作品を楽しいものにしている。
若い頃の未咲と裕里、現在の鮎美と颯香を演じる広瀬すずと森七菜もなかなかいい。
一方の主人公は乙坂鏡史郎で、現在を 福山雅治、高校時代を神木隆之介が演じているが、男性陣に比べれば女性陣の存在が輝いている。

「Love Letter」の豊川悦司と中山美穂がこんな形で登場してくるのかという感じなのだが、豊川演じる阿藤が乙坂鏡史郎に言う「結局お前は未咲の人生に何の影響も与えなかったのだ」は強烈だ。
松たか子が言う「誰かに思い続けられていれば、亡くなった人もずっと生き続けているんじゃないですか」に対抗する言葉だったと思う。
思い続けているだけではダメなんだなあ。
どんなに想いを募らせていても、何もできないんじゃ相手は誰かと結婚して、幸せだろうが不幸せだろうがその人はその人の人生を歩んでいくだけなのだ。
青春の恋の残酷さだ。

裕里の義理の母(水越けいこ)は学生時代の教師であった波止場正三(小室等)に英語の添削をしてもらっていて、ぎっくり腰になったことから手紙で英文の添削をしてもらうことになる。
これは裕里が鏡史郎と手紙のやり取りを行う裏返しでもある。
義母も学生時代に先生に恋心を抱いていたのかもしれない。
同窓会帰りの義母が「初恋の人に会ったのか」と息子に聞かれ、「そんな人はいないわよ」と照れ笑いをするのは、伏線だったように思う。
この老先生、裕里をかつて恋していた鏡史郎が訪ねてきた時に、「誰かに見られたらまずいだろ、私は散歩に出かけてくる」と言って我が家を二人に明け渡す。
なかなか気の利いた老人で、僕もそれぐらいの気持ちが持てる老人になりたいものだ。
物語は裕里と子供たちが美咲に成り代わって手紙を書くことによって起きる、時代を超えた恋愛模様を描いたものなのだが、現在から過去の恋愛を掘り起こすのは「Love Letter」と同じ手法である。
岩井俊二は若い頃の恋を回想するのが好きなのだなあと思うけれど、初恋はその思いが強ければ強いほど思い出したくなるものだと思う。
ところで美咲が所有していた「美咲」という小説は、美咲も何度も読んだだろうし、鮎美もそらんじているぐらいだから何度も読んだに違いないと想像するのだが、だとすればカバーは傷んでいてもいいはずだし、手垢で黒くなっていてもいいはずなのに、出てくる本がすべてピカピカの新本だったことが何故だかすごく気になった。