おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

宗方姉妹

2024-03-15 07:06:16 | 映画
「宗方姉妹」 1950年 日本


監督 小津安二郎
出演 田中絹代 高峰秀子 高杉早苗 上原謙
   笠智衆 山村聡 一の宮あつ子 河村黎吉
   斎藤達雄 千石規子 藤原釜足 堀雄二
   坪内美子 堀越節子

ストーリー
何事に関しても保守的な姉・節子(田中絹代)と、新しいもの好きで奔放に生きる妹・満里子(高峰秀子)。
節子は失業中の夫・三村(山村聡)を抱え、麻理子の面倒をみながらもバーを経営していた。
そんな中、節子は京都にいる父・忠親(笠智衆)の余命いくばくもない事を知る。
満里子には真実を伏せ、姉妹で京都へ行くと、ちょうどパリ帰りの宏(上原謙)がやってきた。
満里子は、節子と宏がお互いに気持ちがあった事を知っていた。
節子の日記をこっそりと見てしまったからである。
それを機に、満里子と宏はたまに会うようになった。
満里子はそれとなく宏の節子への想いを探るのだが、うやむやにされてまともな返事は返ってこなかった。
しかも宏のパリ時代の知り合いに、満里子にとって気に食わない女性の真下頼子(高杉早苗)がおり、満里子は次第に敵意を抱くようになっていく。
自身の余命が少ない事を悟ってもなお姉妹の行く末を心配してくれている父親をみて節子は涙をこらえる。
姉妹は東京へ戻ってきたが、相変わらず家計も苦しく、店も売られてしまう寸前である。
そんな状況でも、三村は口癖の「お前のいいようにしろ」とだけ言い、我関せずであった。
ふとした会話から、満里子が節子の日記をみた事をうっかり漏らしてしまった。
それに加えて、三村も日記をのぞいていた事も。
節子は憤然とするが、満里子は勢いに任せて、どうして宏と結婚しなかったのか尋ねた。
節子は自分の気持ちに気づけなかったと答えた。
気づいたときには、三村との結婚が決まってしまい、宏もパリに行ってしまっていたと。


寸評
私は母一人子一人で育ったので兄弟愛とか兄弟間の感情とかの実体験を有していない。
それでもここで描かれた姉妹の関係は理解できるものがある。
妹の高峰秀子は流行を敏感に採り入れていかないと時代遅れになると言う新しいもの好きであるのに対し、姉の田中絹代は古くならない事が新しい事だとする古風な考えの女性である。
性格付けの象徴として田中絹代は和装で、高峰秀子は洋装である。
父親の笠智衆は家を売っても良いと言っているから、山村聡は彼女たちの家で同居していることになる。
この男が働きもせず酒を喰らうとんでもない亭主関白で、男の私でも反感を抱く存在である。
山村聡からすれば高峰秀子は小姑なのだが、この小姑は義兄が気に入らない。
同居していればそんな感情も湧くであろう山村聡のダメぶりである。
それでも妻であり姉である田中絹代は夫をかばわなければならない。
中に立つ者の辛いところである。

田中絹代には上原謙とのラブロマンス時代があり、上原謙は未だに田中絹代を思い続けているようで、妻の過去の出来事を日記を通じて知った夫は心穏やかでない。
その事が今の義兄の態度に出ていると妹は見通すが、お互いのラブロマンスを相手に語ってはいけないことは夫婦間のモラルの様なものである。
過去の甘い思い出を間接的にでも知らされた男の気持ちは分らぬでもない。
姉妹は何かにつけ考えの違いで言い争いをすることも有るが、ホンネの所で妹は姉のことを心配しており、かつての恋人である上原謙との復縁を願っているような行動をとる。
その気持ちが高じて上原謙に近づく女性は大嫌いで、それを伝える高峰秀子のとる態度は強烈だ。
やはりこの妹は我儘娘なのだと思うが、姉を思う気持ちがそうさせたのだろう。
お互いの気持ちは分かっているものの、言い出すことをためらっているうちに二人の関係が破局してしまうことは現実的にも起こりえる事だろう。
姉妹の感情が男二人を挟んでユーモアを交えながら描かれていく。
目を釘付けにさせる場面は夫と別れる決心をした田中絹代が上原謙の元へ行き、上原謙も田中絹代と結婚したい旨を山村相に伝える決心をするところだろう。
メロドラマならここでハッピーエンドとなるところだが、ドラマはここから本当の終幕に向かっていく。
優柔不断と思えた上原謙が一大決心をしたのだが、そこに山村聡が現れて仕事が見つかった事を告げて消え去り事件が起きる。
笠智衆や高峰秀子によって語られてきた、自分の思うように生きればよいということが、田中絹代の口から「私のいいようにしただけよ」と締めくくられる。
冒頭で京大が映り、薬師寺が登場し高峰秀子が神戸にやってくる。
馴染みの関西が登場してすんなりと作品に入れるが、高峰秀子が「阪神が好きなので阪神電車できた」と言うのが嬉しい。
姉妹はどこまでも姉妹なのだと思わせるのが京都御所を歩くラストシーンである。
映画のタイトルとして姉妹を”きょうだい”としているのも、この頃の時代を感じさせる。


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3 コメント

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Unknown (たくあん)
2024-03-15 14:31:48
館長さんこんにちは。
館長さんには苦々しく思われるかもしれませけど、自分は山村聡さんが演じる失業中の旦那さんが少し気の毒に思いました。あの人の「なんにもしていないのも、いいものなんだよ」という義理の妹さんへ向けたセリフは印象深いです。うろ覚えですが文筆の仕事をしていたとか(記憶違いかもしれません)。この人は弱い部分があるにせよそれ程悪い人でもないのですが、その弱さゆえ、あのような結末を迎えてしまったのですね。
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Unknown (たくあん)
2024-03-15 14:50:48
館長さんこんにちは。
あの旦那さんの捨て鉢のような行為は、あの人なりに精一杯示した男気だったのではないでしょうか。
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中に立つのは・・・ (艦長)
2024-03-16 09:13:27
私は母親と同居しておりましたので、嫁姑の仲立ちを経験し、田中絹代の苦労が身に沁みました。
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