おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

座頭市海を渡る

2023-11-12 07:23:13 | 映画
「座頭市海を渡る」 1966年 日本


監督 池広一夫
出演 勝新太郎 井川比佐志 安田道代 五味龍太郎 三島雅夫
   山形勲 守田学 千波丈太郎 田中邦衛 東野孝彦

ストーリー
これまで斬った人々の菩提をとむらうため、座頭市(勝新太郎)は四国の札所めぐりを続けていた。
船の中で暴力スリ(千波丈太郎)をこらしめたりした市だが、ある日、馬に乗って追ってきた栄五郎(井川比佐志)という男に斬りつけられ、やむなく彼を斬った。
止むを得ないとはいえ、また人を斬ってしまった市の心は沈んだ。
だから、栄五郎の家を訪ね、妹のお吉(安田道代)に斬られた時、お吉の短刀をよけようともしなかったのだ。
お吉は、実は優しい娘で、兄が殺されたと悟って咄嗟に市を斬ったのだが、今度はその市をかいがいしく介抱するのだった。
お吉の話では、栄五郎が三十両の借金のために、馬喰の藤八(山形勲)から命じられて市を襲ったのだった。
そして市を弟の仇と狙う新造(守田学)が藤八にそれを頼んでいたことが分った。
また村の馬喰の頭でもある藤八は、芹ケ沢の支配権を一手に握ろうと画策してもいた。
だが、そこはお吉の土地だったから、藤八は邪魔なお吉に女房になれと言ってきた。
それを知った市はお吉の後見人となり真っ向うから藤八と対立したのだ。
そんな二人を、名主の権兵衛(三島雅夫)は狡猾な計算で見守っていた。
先ず市は栄五郎の香典として、藤八に三十両を要求した。
腕ずくでということになり、藤八の弓に居合で勝った市は三十両をせしめた。
その帰途を藤八の子分が襲ったのだが、所詮市の居合に敵うはずもなかった。
市とお吉は栄五郎の墓を建てて、しばらくの間楽しい日々を過ごした。
そんなお吉に、恋人の安造(東野英心)が土地を捨てようと誘った。
しかし、お吉は市を信じていた。
やがて藤八は市に最後通牒をつきつけてきた。
そしてその日、市はたった一人で藤八一家と対峙することとなった・・・。


寸評
関八州を中心として描かれていた座頭市シリーズだが、本作では四国が舞台となる。
タイトルに海を渡るとあるから香港にでも行くのかと思ったら、瀬戸内海を渡って四国に上陸したということである。
しかし舞台が四国であることが重要なファクターとはなっていない。
人を斬り過ぎた座頭市が金毘羅さんにお参りして菩提を弔うと冒頭で語るくらいである。
敵役もこれまでのやくざ一家とは異なり、馬賊を相手に戦うことでマンネリの脱却を図っている。
新藤兼人が脚本を担当しているので期待したのだが成功作とは言い難い。
新藤らしく思えるのは、悪役を馬喰藤八としているのだが、非暴力をうたっていつもニコニコしている名主の三島雅夫を狡猾な男として登場させ、権兵衛さんの言う通りと言って傍観する百姓たちのズルさを描いている点だ。
座頭市シリーズは1962年の「座頭市物語」から、1989年の勝新太郎自身が監督した「座頭市」まで26作品が制作されており、本作はそのほぼ中間点に当たる14作目となっている。

目立っているのはお吉の安田道代である。
この頃は安田道代を名乗って大映の看板女優の一人であったが、結婚後は夫の性を名乗り大楠道代に改名して演技派女優としての地位を不動のものとしている。
お吉は兄を殺されたことから市に斬りかかったが、市は逃げることはせず肩に一太刀を浴びる。
そのことでお吉は座頭市と心を通わせる。
馬喰相手にタンカを切る気の強い女でありながら、市と食事を共にするシーンや、池で泳いではしゃぐシーンなどで二人の間に湧き上がる感情を見せている。
しかしどうやらお吉には恋人とでもいうべき安造という若者がいるのだが、この安造の描き方は中途半端なものとなってしまっている。
お吉にこの村から出ようと誘いをかけているが、座頭市の存在をやっかんでいる風でもない。
普通ならお吉が座頭市に好意を持ち始めた事を察して嫉妬しても良さそうなものなのだがその様子はない。
最後になって座頭市に加勢するがあっけない結末である。

村の外れに巣くっている野武士が村人たちを襲ってくるのを描いた作品として、名作の誉れが高い「七人の侍」があるが、本作における馬喰集団は迫力がないし、盗賊と言うよりはヤクザの親分のように縄張りが欲しいだけのようなもので動機付けも弱い。
何よりも親分の藤八に策略もないし強そうでもない。
弓の名手のようではあるが、登場時からとても座頭市の相手になるとは思えないのだ。
そこに行けば三島雅夫の権兵衛の方が格段に気味の悪い存在である。
もう少しこの権兵衛を生かせなかったものかと思う。
市は理由もなく人を斬ったことはないと言っているが、冒頭で人を斬ることがないようにと金毘羅さんにお願いしていたのに、今回も又大勢の人間を斬ってしまった切なさも描かれてはいない。
新藤兼人にしては脚本に甘さがあると思えるのだが、池広一夫の演出によるものだろうか。
それにしても勝新太郎が演じる座頭市の歩き方を初めとする振る舞いは板についており、いつ見ても勝新太郎あっての座頭市と思わせる。


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