おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

カサンドラ・クロス

2022-05-02 07:27:03 | 映画
「カサンドラ・クロス」 1976年 イタリア / イギリス


監督 ジョルジ・パン・コスマトス
出演 リチャード・ハリス
   バート・ランカスター
   ソフィア・ローレン
   エヴァ・ガードナー
   マーティン・シーン
   イングリッド・チューリン

ストーリー
ジュネーブにある国際保健機構に、3人のスウェーデンの過激派ゲリラが乗り込みアメリカの秘密生物研究セクションを爆破しようとした。
しかし、ガードマンと射撃戦になり、一人は射殺され、残る二人は様々な細菌類が研究開発されている“危険な"部屋に逃げこんだ。
そして一人か射たれて倒れた拍子に、薬のビンを割ってしまい、中の液体が飛び散り、無傷の男の方が一人逃走した……。
残されたゲリラを診察したスイス人女医エレナは、割れたビンにアメリカが秘密裡に研究していた伝染性の細菌が入っていたことをつきとめた。
緊急事態の発生で、アメリカ陸軍情報部のマッケンジー大佐が乗り出し、感染して逃げたゲリラがストックホルム=ジュネーブ間の大陸縦断列車に乗り込んでいることを突き止めた。
その乗客リストの中に、著名な医師チェンバレンの名があるのを見つけたマッケンジーは、無線電話で彼を呼び出し、事件の概略を説明するとともに車内に潜んでいるゲリラを捜させた。
そして、千人の乗客を検疫収容させるために、ポイントを切り換え、列車をポーランドのヤノフへ向かわせた。
そこには、30年近くも使用されていない“カサンドラ・クロス"と呼ばれる鉄橋がかかっているのだが……。
マッケンジーは、ニュールンベルグで一旦列車を止め警備隊と医療班を乗りこませ、出入口、窓、通気孔を密閉して、車内に酸素を送り込むように命じた。
列車は再び発車し、事態を知らされた乗客たちは騒然となったが、すでに感染者か現われ始めた・・・。


寸評
2020年に中国の武漢を発生源として新型コロナウィルスが世界的に蔓延し多くの人が死亡した。
我が国も例外ではなく、オリンピックは延期になるし、活動自粛とかがあって半ば都市封鎖状態にもなり、多くの企業が倒産し、飲食店を初めとする店舗が廃業に追いやられて経済的にも大ダメージを受けた。
武漢にある中国の研究機関が、研究に使用した動物を市場に横流ししたのではないかとか、実は生物兵器を研究していたのではないかなどという噂も流れた。
ウィルスが中国武漢から持ち込まれ、さらに変質したウィルスがヨーロッパから持ち込まれたのではないかとの調査結果が報道されたが実態はよく分からない。
しかしこれがテロ行為であったなら防ぎようがない。
人工的に作られた新型のウィルスを持ち込まれれば、ワクチンや治療薬のないウィルスはあっという間に全国に拡散されてしまうことになるからだ。

この映画ではテロリストがアメリカの秘密生物研究所を襲い、培養していたウィルスを浴びて列車に逃げ込み、車内にウィルスを拡散させていく。
接触した人々に症状が現れ感染が確認される。
列車を止めて隔離態勢を取ればいいのだが、パニックになった人々が出歩いて拡散させてしまう恐れがあり、何よりも軍が絡んでいて秘密裏に処理したいために列車を目的地と違う場所へ向かわせる。
保菌者であるテロリストが人々と接触していく場面や、食材に息を吹きかけるシーンなどもあって、感染拡大していく様子が上手く描けている。
列車には謎の人物を初め色んな人々が乗り込んでいるが、それぞれの性格描写に時間が割かれることは少なく、それらの人々が巻き込まれるような形でストーリーが急ピッチで進められていく。
メッセージ性はそれほど高くなく、サスペンス劇としてテンポよく進んでいくので見ていて退屈しない。

制作された頃には想像の世界の物語だったのだろうが、2020年のパンデミックを経験したものが見れば、時代を超えて現実味を帯びた物語に思える。
更に恐ろしいのが国家による隠ぺい体質で、このことは中国政府にも見られたことである。
マッケンジー大佐は人命よりも国家の秘密を優先させている。
そして国家は秘密を守るために事実を知るマッケンジー大佐にも監視の目をつけるのである。
マッケンジー大佐は列車がカサンドラクロス鉄橋を通過できないことを知っていたのではないか。
彼は乗客全員の死亡を信じて事件の一件落着を報告している。
しかし助かった人々の口はふさぐことはできないであろう。
国家は国民を支配しようとするのだろうが、その国家を国民が監視しなければいけない。
そんなことを思わせるラストシーンなのだが、作品はあくまでもそのような社会派サスペンスとしてではなく単純サスペンスとして描いている。
しかし実際に2020年のパンデミックを経験してしまうと、制作側が意図しなかったメッセージを感じてしまう。
未知のウィルス、国民に知らされない国家の思惑、どちらも恐ろしい。