おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

君よ憤怒の河を渉れ

2022-05-31 08:26:56 | 映画
「君よ憤怒の河を渉れ」 1976年 日本


監督 佐藤純弥
出演 高倉健 原田芳雄 池部良 中野良子
   大滝秀治 西村晃 岡田英次 倍賞美津子
   伊佐山ひろ子 田中邦衛 内藤武敏

ストーリー
東京地検検事・杜丘冬人は、ある日、新宿の雑踏の中で、見知らぬ女から「強盗殺人犯」と騒がれた。
その場で緊急逮捕された杜丘を、別の男寺田俊明が「この男にカメラを盗まれた」と供述した。
杜丘は、家宅捜査の隙をみて逃亡し、新聞は“現職検事が凶悪犯”“社丘検事即日免職”と書きたてた。
杜丘は女の郷里、能登へ向かい、女は本名を横路加代といい、寺田は彼女の夫の横路敬二と知る。
だが、その時にはすでに加代は殺されていた。
杜丘は、加代あての手紙から、横路敬二が、北海道の様似に居ることを知り、北海道に飛んだ。
北海道で杜丘は横路の家を見つけたが、そこには刑事が待ちうけており、杜丘は警察の手を逃れて、日高山中の林の中に逃げ込んだが、その杜丘を散弾銃を待った二人の男が追って来た。
逃げる杜丘は、朝倉代議士がホテルのレストランから飛び降りし即死した事件を回想した。
証人である政界の黒幕・長岡了介は飛び降り自殺だと言い、矢村警部は自殺説を主張したが、杜丘は他殺説をとり、あの日、杜丘は朝倉の妾が経営している新宿の小料理屋に聞き込みに行っていたのだ。
その時、あの横路加代が現れたのだった――。
非常線を突破して、深い森の中に入り込んだ杜丘は、巨大な熊が若く美しい女にいましも襲いかかろうとしているのを助けたが、杜丘は激流に落ち、逆にその牧場の娘真由美に救われる。
真由美の父、遠波善紀は北海道知事選に立候補中だったので、一人娘が杜丘に好意をよせているのに困惑していていたところ、彼の秘書の中山が警察に通報した。
遠波は、娘のために知事選をあきらめ、杜丘を逃がす決心をし、自家用セスナ機を杜丘に提供した。
杜丘は警察の裏をかいて東京に潜入し、横路が何者かに強制収容された精神病院に患者を偽って潜入したのだが・・・。


寸評
荒唐無稽なサスペンスアクション映画であるが、田坂啓と佐藤純弥の脚本、青山八郎の音楽は頂けない。
高倉健が演じる東京地検検事の杜丘が誤認逮捕されてしまう。
杜丘の身分を隠して取り調べが行われるが、無実を訴える杜丘を信じる者が一人もいないし、上司である池部良も彼を信じているような所がなく、最初からワナに掛けられていることを捜査当局は無視している。
そして思い当たるフシが朝倉代議士の自殺事件であると示された時点で、黒幕は西村晃の長岡であることがはっきりと推測されてしまう。
西村晃はその後登場しないが、どのようにして彼にたどり着くかが興味の一つの筈だが、映画はもっぱら高倉の逃避行を描き続ける。
高倉が中野良子を助けたことから親密になり、中野良子は高倉が警察に追われている男と知りながら愛してしまい、彼の逃亡を手助けすることになる。
しかしクマに襲われている所を助けてもらったとは言え、意識不明状態になっている高倉をどのような事で愛するようになってしまったのかよく分からない。
兎に角、突然彼に好意を寄せているのである。
真犯人側はでっちあげ証言をした 伊佐山ひろ子を殺しているが、なぜ同じくでっちあげ証言をした田中邦衛を生かしていたのかも不明である。
実験台として彼がどうしても必要だったとも思えない。

西村晃よりも黒幕としてなら存在感がありそうな大滝秀治が、ここでは良い父親振りを見せている。
高倉に自首を進める場面などは立派な紳士を思わせる。
娘と対立するような所があるが、結局は娘可愛さで高倉の逃亡を手助けする。
セスナで逃亡するなどスケールはどんどんヒートアップし、ついには新宿の街を多数の馬が疾走すると言うとんでもないシーンまであり、中野良子が馬に乗って高倉を救い出す。
そして高倉が偽名を使って敵地に乗り込んでいくが、そこがとんでもない事をやっている場所というのも現実離れしたもので、リアル感はまったくない。
高倉をワナにはめてまでして抹殺しなければならない緊迫感が出せていなかったように思う。
僕が唯一興味を持ったのは、検事正の池部良と矢村警部の原田芳雄の関係であった。
検事は警察官より上席という意識があるから、刑事たちの検事に対する反撥はあったはずだ。
会議で決まったことが原田たちに伝えられるが、それは検察組織、警察組織を護る為だけのもので、現場の刑事たちの憤りがあっても良かったように思う。
部下の一人は重要参考人であるはずの中野良子を捜査当局でなく謹慎中の原田の所へ連れていく。
中野良子はそこで高倉から渡された錠剤を調べてくれるように頼むのだが、その錠剤の分析結果が判明する場面はないので、西村晃や岡田英二がとんでもないことをやっているという緊迫感も生み出せていない。
緊迫感を生み出す場面でやけに明るい軽快なメロディが流れ出すので、見ているこちらは拍子抜けしてしまう。
逃亡劇としては面白いと思うが、ラブロマンスとサスペンスに関しては工夫が足りなかったように思う。
もっと面白い作品に出来たはずだし、「新幹線大爆破」という一級のサスペンス映画を生み出した監督だけに少し淋しい気がする。