「勝手にふるえてろ」 2017年 日本
監督 大九明子
出演 松岡茉優 渡辺大知 石橋杏奈 北村匠海
趣里 前野朋哉 池田鉄洋 柳俊太郎
梶原ひかり 古舘寛治 片桐はいり
ストーリー
生まれてこのかた24年間彼氏も男性経験もないOLの江頭良香。
良香には中学生の頃から思いを寄せ続けている“イチ”という男性がいた。
良香は“視野見”という焦点を合わすのではなく、視野の隅っこで見るという方法でしかイチを見れずにいたのだが、体育祭でイチに服の裾を捕まれ「俺を見て」と言われ、それ以来、卒業して会わなくなってからも良香の頭の中はイチでいっぱいだった。
ある日、良香は会社の飲み会に参加し、会社の同僚から付き合って欲しいむねを伝えられる。
名前を覚えることが苦手な良香はその同僚が書類の1+1を間違えていた記憶から“ニ”と呼ぶ。
ニへの返事は保留のまま、イチへの思いが忘れられない良香は同級生になりすましたfacebookアカウントを利用してイチに会うべく同窓会を企画し、上京した組で飲み直すという約束をすることに成功し、同級生が住むタワーマンションで行われることになった飲み会に参加した良香だが、軽いノリについていけず終始浮いてしまっていて、なかなかイチと話す機会を見出せずにいた。
ふたりきりというチャンスが巡ってきて、良香は中学生の体育祭の思い出を告げると、イチも覚えていた。
和気あいあいと会話は続いたが、イチは笑いながら「ごめん。名前なんだっけ?」と返答する。
憧れの人に名前すら覚えてもらっていなかったことに深く傷ついた良香は、泣き笑いの表情を浮かべ飲み会をあとにしたのだが、そんな時、良香の頭の中にはニのことが浮かんだ。
自分のことを思ってくれるニに心が安定し、良香は幸せを感じ始めた。
しかし二は良香が男性経験がないことを友人から聞き出していたこと、友人が漏らしたことに憤慨した良香は表情を無くし、ずっとイチという思いを寄せ続けている男性がいること、イチのことが好きなこと、だからニとは付き合えないことを告げ、冷たくニを振った。
寸評
何よりも素晴らしいのが松岡茉優の演技で、二の渡辺大知や月島来留美の石橋杏奈も登場するのだが、作品の構成からもヨシカの松岡茉優の一人芝居と言ってよく、それを圧倒的な存在感で演じ切っている。
思ったことを口に出したり行動に移す勇気がないゆえ、なにごとも脳内で完結させてきたヨシカは、脳をフルに活用してきた成果か頭の回転が異常に速い。
次から次へと浮かぶ妄想、情緒不安定な心と目まぐるしく動く脳内を反映させたかのように、本作は猛スピードで話が進んでいく。
そのためストーリー展開のテンポが良く、117分飽きることなくヨシカに釘付けになってしまう。
青春時代に憧れた人を想い続けているのはヨシカだけではない。
寄せる思いは妄想を呼び相手をますます美化していく。
憧れた人と結ばれない方が多いのが世の常なのだが、無いものねだりは人生における空洞として残る。
10年の恋愛を続けているヨシカの気持ちは万人が理解することができる感情だと思う。
中学時代はちょっと変かなと思わせるが、社会人となった今は結構可愛い。
それなのに浮いた存在で男と上手く付き合えないのは、友人のマンションで皆が楽しんでいるのに洗い物をしだすという付き合い下手のためなのだろう。
その性格の屈折は愛好するのが地球から絶滅した動物たちということに現れている。
絶滅した動物をネット検索することが唯一の趣味だという姿、ネット通販でアンモナイトの化石を購入するといった行為を通じて面白く描き、ヨシカという人物を的確に表現している。
彼女は会社では同僚の月島来留美以外には本音を明かさないように見えるが、いつも町で出会う人たちに語り掛けている。
恋い焦がれていたイチと感激シーンを見せたかと思うと、それが見事にひっくり返り、そういえばあの町の人たちとも・・・となる劇的展開が面白い。
彼女の孤独感が妄想を生んでいたのだとわかり、彼女の歌声と歌い上げる内容が切なさを感じさせる。
ピュアな青春恋愛映画とも言えるが、その描き方は新鮮味があって上手いと感じさせる。
アパートの隣人(片桐はいり)、釣りのおじさん(古館寛治)、最寄駅の駅員(前野朋哉)、金髪の店員(趣里)などのキャラクターたちが非常に良い仕事をしていて、物語的にも重要な意味を持ち、映画に色彩とリズムと奥深さを与えている。
彼らの存在によって、ヨシカの心情は観客の心に突き刺さることになる。
絶滅した動物に興味があるというヨシカの変わった趣味が、ここにきて僕たちの胸に突き刺さてくる。
我々は顔は知っているが名前の知らない人、時々出会ってはいるが話をしたこともない人を大勢かかえている。
都会の雑踏の中で孤独を感じる時もあり、世の中の理不尽を体験することこともある。
生きづらい思いをしながら“絶滅”しないために試行錯誤してきた者への応援歌として、「勝手にふるえてろ」は自分の屈折した心に悩む者の苦労を分かち合いながら、それを肯定してくれている。
用意されているラストとはいえ「勝手にふるえてろ」というタイトルにつながるホッとして心温まるエンディングも決まっていた。
監督 大九明子
出演 松岡茉優 渡辺大知 石橋杏奈 北村匠海
趣里 前野朋哉 池田鉄洋 柳俊太郎
梶原ひかり 古舘寛治 片桐はいり
ストーリー
生まれてこのかた24年間彼氏も男性経験もないOLの江頭良香。
良香には中学生の頃から思いを寄せ続けている“イチ”という男性がいた。
良香は“視野見”という焦点を合わすのではなく、視野の隅っこで見るという方法でしかイチを見れずにいたのだが、体育祭でイチに服の裾を捕まれ「俺を見て」と言われ、それ以来、卒業して会わなくなってからも良香の頭の中はイチでいっぱいだった。
ある日、良香は会社の飲み会に参加し、会社の同僚から付き合って欲しいむねを伝えられる。
名前を覚えることが苦手な良香はその同僚が書類の1+1を間違えていた記憶から“ニ”と呼ぶ。
ニへの返事は保留のまま、イチへの思いが忘れられない良香は同級生になりすましたfacebookアカウントを利用してイチに会うべく同窓会を企画し、上京した組で飲み直すという約束をすることに成功し、同級生が住むタワーマンションで行われることになった飲み会に参加した良香だが、軽いノリについていけず終始浮いてしまっていて、なかなかイチと話す機会を見出せずにいた。
ふたりきりというチャンスが巡ってきて、良香は中学生の体育祭の思い出を告げると、イチも覚えていた。
和気あいあいと会話は続いたが、イチは笑いながら「ごめん。名前なんだっけ?」と返答する。
憧れの人に名前すら覚えてもらっていなかったことに深く傷ついた良香は、泣き笑いの表情を浮かべ飲み会をあとにしたのだが、そんな時、良香の頭の中にはニのことが浮かんだ。
自分のことを思ってくれるニに心が安定し、良香は幸せを感じ始めた。
しかし二は良香が男性経験がないことを友人から聞き出していたこと、友人が漏らしたことに憤慨した良香は表情を無くし、ずっとイチという思いを寄せ続けている男性がいること、イチのことが好きなこと、だからニとは付き合えないことを告げ、冷たくニを振った。
寸評
何よりも素晴らしいのが松岡茉優の演技で、二の渡辺大知や月島来留美の石橋杏奈も登場するのだが、作品の構成からもヨシカの松岡茉優の一人芝居と言ってよく、それを圧倒的な存在感で演じ切っている。
思ったことを口に出したり行動に移す勇気がないゆえ、なにごとも脳内で完結させてきたヨシカは、脳をフルに活用してきた成果か頭の回転が異常に速い。
次から次へと浮かぶ妄想、情緒不安定な心と目まぐるしく動く脳内を反映させたかのように、本作は猛スピードで話が進んでいく。
そのためストーリー展開のテンポが良く、117分飽きることなくヨシカに釘付けになってしまう。
青春時代に憧れた人を想い続けているのはヨシカだけではない。
寄せる思いは妄想を呼び相手をますます美化していく。
憧れた人と結ばれない方が多いのが世の常なのだが、無いものねだりは人生における空洞として残る。
10年の恋愛を続けているヨシカの気持ちは万人が理解することができる感情だと思う。
中学時代はちょっと変かなと思わせるが、社会人となった今は結構可愛い。
それなのに浮いた存在で男と上手く付き合えないのは、友人のマンションで皆が楽しんでいるのに洗い物をしだすという付き合い下手のためなのだろう。
その性格の屈折は愛好するのが地球から絶滅した動物たちということに現れている。
絶滅した動物をネット検索することが唯一の趣味だという姿、ネット通販でアンモナイトの化石を購入するといった行為を通じて面白く描き、ヨシカという人物を的確に表現している。
彼女は会社では同僚の月島来留美以外には本音を明かさないように見えるが、いつも町で出会う人たちに語り掛けている。
恋い焦がれていたイチと感激シーンを見せたかと思うと、それが見事にひっくり返り、そういえばあの町の人たちとも・・・となる劇的展開が面白い。
彼女の孤独感が妄想を生んでいたのだとわかり、彼女の歌声と歌い上げる内容が切なさを感じさせる。
ピュアな青春恋愛映画とも言えるが、その描き方は新鮮味があって上手いと感じさせる。
アパートの隣人(片桐はいり)、釣りのおじさん(古館寛治)、最寄駅の駅員(前野朋哉)、金髪の店員(趣里)などのキャラクターたちが非常に良い仕事をしていて、物語的にも重要な意味を持ち、映画に色彩とリズムと奥深さを与えている。
彼らの存在によって、ヨシカの心情は観客の心に突き刺さることになる。
絶滅した動物に興味があるというヨシカの変わった趣味が、ここにきて僕たちの胸に突き刺さてくる。
我々は顔は知っているが名前の知らない人、時々出会ってはいるが話をしたこともない人を大勢かかえている。
都会の雑踏の中で孤独を感じる時もあり、世の中の理不尽を体験することこともある。
生きづらい思いをしながら“絶滅”しないために試行錯誤してきた者への応援歌として、「勝手にふるえてろ」は自分の屈折した心に悩む者の苦労を分かち合いながら、それを肯定してくれている。
用意されているラストとはいえ「勝手にふるえてろ」というタイトルにつながるホッとして心温まるエンディングも決まっていた。