おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

風の電話

2022-05-06 08:03:48 | 映画
「風の電話」 2020年 日本


監督 諏訪敦彦
出演 モトーラ世理奈 西島秀俊 西田敏行
   三浦友和 渡辺真起子 山本未來
   占部房子 池津祥子 石橋けい

ストーリー
東日本大震災を機に、広島県に住む叔母・広子(渡辺真起子)の家に身を寄せている高校生のハル(モトーラ世理奈)。
彼女は家族と一緒に岩手県大槌町に住んでいたが、津波が家族を奪っていった。
ある日、ハルが学校から帰ると、部屋で広子が倒れていた。
病院に運ばれ、静かに眠る広子の胸に抱きついたハルは、病院を出て行き、誰もいない土地で、亡き家族への思いを泣き叫ぶ。
泣き疲れてその場に倒れていると、軽トラックを運転する公平(三浦友和)が通りかかる。
公平は母と暮らす家にハルを連れて行き、広島で起きた様々な出来事について聞かせる。
ハルは駅まで公平に送ってもらうと、意を決して自宅とは反対方向の電車に飛び乗る。
着いた先でヒッチハイクをし、優しい姉弟に乗せてもらったハルは、妊娠中の姉・友香(山本未来)に、元気に動くお腹を触らせてもらう。
夜の街で不良に絡まれ、危ないに目に遭いそうになると、福島県から来ていた森尾(西島秀俊)に助けられる。
森尾は、被災地にボランティアで来たクルド人の男性を探して旅をしていた。
森尾はかつて原子力発電所で働いていて、ハル同様、家族を津波で失った。
森尾の実家に行くと、今田(西田敏行)と姉(池津祥子)が二人を出迎える。
ハルは、森尾の車で大槌町に着く。
地図を見なくてもわかる自宅は、まだそこにあった。
大槌町には、電話線はつながっていないけれど、亡くなった人に想いを届けることができる“風の電話”という電話ボックスがあるらしい。
ハルは導かれるように、旅の執着地に向かう……。


寸評
ハルは9歳で東日本大震災にあい家族をすべて亡くし、今は17歳の高校生だ。
8年の年月を経ても、両親を亡くしたショックから立ち直れないでいる。
広島にいる叔母の世話になっているが表情は暗い。
広島の海辺に行くと津波が襲ってきて家族をさらっていった記憶が蘇り昏倒してしまう。
助けてくれたのは公平という男で、自宅に連れ帰り食事などを与えてくれる。
ハルにかかわる人たちが何人も出てくるが、それぞれが災難にあった過去を背負っている。
人々が出会った災難は災害であったり人災であったりする。
公平の母親は少々ボケが来ているが原爆の記憶が消えていない。
公平の妹は自殺していて、公平の家は広島水害の土砂崩れに襲われたが、何とか家は無事だったようだ。
辛い過去を背負いながら必死で生きている公平に励まされて、ハルは生まれ故郷の岩手県の大槌町を目指す。

原発事故を起こした福島の発電所で働いていた森尾の車に乗せてもらい、森尾は茨城県にいるらしい震災時に世話になったボランティアを訪ねる。
彼は外国からの避難民で今は入国管理事務所で捕らわれている。
家族は悪いことをしていないのに何年も監禁されていることに納得できない。
それでも帰る国がない彼らは我慢しながら必死で生きている。
帰る国がないことは我慢できても、自分たちの文化で生活が出来ないことを嘆く。
日本は難民の受け入れに積極的ではない国だが、震災時にボランティア活動をしてくれるような難民には手厚い保護があってしかるべきだと思う。
原発事故は森尾せいではないが責任を感じているのか自宅を離れて車で生活をしている。
森尾も津波で妻子を亡くしており、自宅はあの日のままで荒れ放題である。
今田の家に立ち寄るが、原発事故で避難した若い人たちは故郷に帰ってこず、戻ってくるのは老人ばかりと言う状況であり、他県に避難した人の子供は福島から来たことでイジメや差別を受ける状況があったと今田は言い,生まれ育った場所で死にたいと語る。

ハルは大槌町にたどり着き跡形もなくなった自宅跡で悲しみにくれる。
幼なじみだった子供の母親と再会し、津波が襲ってきた時につないでいた手を離したら、その幼なじみはいなくなっていたことを母親に詫びるのだが、ハルにとっては深い傷跡となっているのだろう。
激しい慟哭もなく静かに抱き合う姿は痛ましくリアルだ。
ハルが人々との交わる場面ではドキュメンタリーのようなリアルなシーンが多い。
ハルは駅のホームで「風の電話」の話を少年から聞いて、少年に同行する。
ハルは公衆電話ボックスで線がつながっていない受話器を取り上げ両親に語り掛ける。
ボックスの外から、語り掛けるハルの姿をとらえるカメラは固定で、長い長いハルの語りかけが続く。
ハルは最後に今度会うときは自分はおばあちゃんだねと語り掛ける。
ハルが生きていく覚悟を決めたということだが、それでも何だか辛くなってしまうラストだ。
物的にも精神的にも復興が出来ていない現実を知っているからだろう。