おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

風花

2022-05-01 07:38:11 | 映画
「風花」 2001年 日本


監督 相米慎二
出演 小泉今日子 浅野忠信 麻生久美子 香山美子
   高橋長英 鶴見辰吾 柄本明 尾美としのり
   小日向文世 木之元亮 寺田農 椎名桔平

ストーリー
文部省高級官僚の澤木廉司(れんじ)は満開の桜の木の下で目を覚ますが、二日酔いの中、隣の女が誰かも思い出せない。
彼は泥酔してコンビニで万引きをした事が週刊誌ネタになって、自宅謹慎を命じられていた。
酔っ払った勢いで、北海道に帰郷するという女に同行すると約束してしまっていた。
父親から故郷の佐賀には戻ってくるなと言われ、また付き合っていた女性・美樹からも別れを告げられ、行くあてのない廉司は、結局約束通り女に同行することにして、酒に酔ったまま空港で女と再開する。
こうして二人は車を借りて北海道を一緒に旅することになった。
女はレモン(本名は富田ゆり子)というピンサロ嬢で、幼い一人娘の香織を北海道の母親のもとに残して5年間ぶりに会いに行くところだった。
レモンは結婚していたが、香織が生まれて間もない頃に、独立して事業を興そうとしていた夫が多額の借金を残して交通事故で死んでしまったため、返済のために東京に出てきたのであった。
レモンは、寺の住職を務める僧侶と再婚した母親のもとを訪ねるが、母親夫婦に反対されて娘に会うことは叶わなかった。
一方、廉司の方は東京の上司からの電話で一方的に解雇を言い渡されてしまう。
夕食にジンギスカン料理を食べていた店で、廉司が北海道の悪口を言うのに腹を立てた客が暴行に及び、廉司は額に怪我をする。
人気のない診療所に忍び込んで、レモンが手当をする。
行くあてのなくなった二人はピンク色のレンタカーで雪山の方へと向かう。
まだ雪深い山奥に一見の山荘を見つけて、泊めてもらうことにした。
食堂で知り合った男から、レモンは女性経験の少ない男に手ほどきをしてやってくれと頼まれる。
レモンは拒絶しようとするが、廉司は自ら部屋を出ていきソファーで夜を過ごす。
未明に部屋に戻るがレモンがいないことに気づいた廉司は、レモンがかつてピンサロで語っていたように、睡眠薬を飲んで雪の中での自殺を図ろうとしていると気づき、山荘の外の雪山へとレモンを探しに行く。
暗闇の中で、廉司は間一髪、睡眠薬で意識朦朧とするレモンを見つけて介抱し、麓の農場の廃屋まで担いでいく。
夜が明けて、一命をとりとめたレモンは廃屋の中で廉司と抱擁する。
レモンは母親夫婦から勧められたように、北海道に戻って香織と共に暮すことを決め、香織のいる寺にまで車で戻る。
ようやく5年ぶりの再開を果たす母娘の姿を廉司は車のサイドミラーから眺めていた。


寸評
相米慎二監督の遺作になった作品である。
満開の桜の中を朝靄がゆっくりと流れ、カメラは桜の木の袂で横になっている男とその膝枕に横たわる女のショットから映画が始まり、手書きのやさしいロゴのタイトルが浮かび上がる。
ファンタジックでありながら、二人の関係に興味を引く快調な出だしに引き込まれる。
廉司は文部省に勤める公務員だが、母親の死をきっかけに人が変わってしまったようである。
母親との関係がどうだったのかは示されていないが、しらふの時と酔いつぶれた時で人格がまったく変わってしまう。
母親の死が影響しているのか性交渉も出来なくなっているようだ。
酔うと意識がなくなり、缶ビールを持って金を払わず店を出たために万引き扱いされ、公務員であったことから週刊誌ネタとなってしまう。
その為に目下謹慎中である。
ゆり子はピンサロ嬢だが、店員は若い子たちが多くなりゆり子の居場所はなくなりつつある。
そんな二人がゆり子の故郷である北海道へ向かう。
北海道へ入ったシーンで画面にフレームインしてくるピンクの車が印象的だ。
現在進行形の中に二人の過去の出来事が挿入され、特にゆり子の過去が明らかになってくる。
寒々とした北海道の景色のなかで真っ赤なコートを羽織るゆり子と、過去のゆり子のギャップがいい。
ゆり子にはかつて夫がいて幸せな生活だったが夫が交通事故で死に、夫の借金返済の為に子供を母に預けて東京へ出てきたらしいことが判明する。
旅の途中で廉司は解雇を言い渡される。
二人はどこかヤケッパチな生き方をしているように見えるが、ふとした時に見せる優しさがひしと伝わってくる時がある。
たとえばゆり子が父の墓にタバコとライターを供えるシーンなどだ。
ゆり子はタバコを次々ふかし、廉司はアル中の如く酒を飲むのだが、その行為は二人の現在の心情を映し出していた。
相米慎二と言えば長回しを思い浮かべるが、本作ではそれは見られない。
ゆり子は父の死を口ずさみながら降り積もった雪の中をさまよう。
線香花火をつけて浮かび上がる彼女のショットがものすごく幻想的である。
死の舞を踊るゆり子の姿が悲壮感よりもファンタジックさを感じさせる。
ラストシーンは秀逸だ。
少女を見つけたゆり子がかけよると、少女の手の中に蛙がいる。
「ママ」といってゆり子にしがみつく少女。
一人車で去ろうとする廉司だが、いったんバックして、また前に進んでバックミラーでみるショットでエンディングを迎え、蛙のアニメの背景でエンドクレジットになる。
相米慎二の遺作として納得できる作品である。