おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

価値ある男

2022-05-09 07:34:05 | 映画
「価値ある男」 1961年 メキシコ


監督 イスマエル・ロドリゲス
出演 三船敏郎
   アニマス・トルハーノ
   コルンバ・ドミンゲス
   フロール・シルベストレ
   アントニオ・アギラル
   ペペ・ロマイ

ストーリー
舞台はメキシコ・オアハカ州の小さな村。
村中から鼻つまみの貧しい農夫のアニマス・トルハーノにも夢がある。
それは年一回のお祭りヨルドーミヤの主催者に選ばれ、金と権力で村中の尊敬を一身に集めるマヨルドーモになることなのだが、当人は働き者の女房に子供の世話と畑を任せっきり、自分は酒と博打の日々を送る。
女房の哀願に耳を貸し、珍しく製酒工場で働くアニマスだったが、工場主の息子が自分の娘に手を付けたのを見て、息子相手に大立ち回りの傷害事件を起こし町の留置場に送られる。
1500ペソの保釈金が払えず服役を続けているうちにドロテアが工場主の息子の子を生んだ。
彼女の恋人カルリンは怒り悲しむが、アニマスが出獄すると聞いて、ドロテアの身を案じ、彼女だけを連れて村を去った。
アニマス一家はけなげに働いて金を貯めていたが、しかしその金も出所したアニマスが持っていってしまう。
たまに金を掴むことがあっても、その金は博打か、娼婦カテリーナに巻き上げられるかであった。
遂に悪魔に魂を売ったと宣言して、怪しげな黒魔術の儀式を始めるアニマスだったが、結果は飼っていた鶏を騙し取られただけで、女房の苦労は絶えない。
息子とドロテアの間にできた子を引き取りたいと酒造工場主がやってきて、多額の慰謝料を置いていった。
一生かかっても拝めない大金で、アニマスはその金でマヨルドーモになろうとする。
司祭は肩書によってアニマスが成長するかどうか変化を見たいと、彼をマヨルドーモに選ぶ。
祭りの日、着飾ったアニマス一家が誇らしく町を歩くのだが・・・。


寸評
三船敏郎の海外作品初主演映画となっているが、世界のミフネとして知られていたとはいえ、なぜこの映画の主演に選ばれたのか興味のあるところである。
日本人の三船がメキシコ人を演じているのだが全く違和感がないのはキャスティングの妙だろう。
1962年の第34回アカデミー賞の外国語映画賞にノミネートされた作品だが、受賞したのはベルイマンの「鏡の中にある如く」で、日本からは木下恵介の「永遠の人」もノミネートされていた。
三船敏郎はスペイン語の台詞を全部覚えて撮影に臨んだが、ネイティブによる吹き替えが使われている。

余り目にすることのない国の映画では、その国の持つ風習や文化が作品そのものを形作っていることが多い。
この作品でもメキシコ・オアハカ州の小さな村の牧歌的な様子が背景としてある。
牧歌的と言えば聞こえがいいが、要は貧しい村で産業と言えるものはなさそうな感じである。
後半で出てくる酒造工場などはこの土地での有力企業と思えるし、雇用を創出している企業としてアニマス一家に関係してくる。
冒頭で幼い子供が死んでしまい、その葬儀の様子が描かれている。
日本の葬儀とは全く違う風習で、先に天国に行った幼子を祝ってやるような雰囲気があり、人々の集まりはまるで宴会の様であり、参加者は踊ったりしている。
僕は冒頭でのその風習に面食らった。

ヨルドーミヤという祭りでは主催者のマヨルドーモは食事や酒の提供はもとより、求める人にはお金も恵んであげねばならないようで、日本人からすれば奇祭の範疇に入る祭りの様に思える。
アニマスはマヨルドーモに憧れているが、その生活ぶりは亭主関白、男尊女卑も甚だしい男だ。
彼に比べれば彼の女房は聖母のような人物である。
彼女は亭主からひどい仕打ちを受けているし、お金を酒と博打につぎ込まれているが、それでもそっと遊ぶためのお金を置いていってやるような女性だ。
アニマスの服役中にはせっせと貯蓄にいそしんでいる賢婦人である。
分からないのは、子供を簡単に置いていってしまうドロテアの行動だ。
父親からどんな仕打ちを受けるか分からないという理由は分かるが、自分の子供を置いていかねばならない心情をもう少し描きこめなかったものか。
またラストで起きる悲劇的な出来事も、それが起きる前段階をもう少し描き込めば劇的事件に出来たように思う。

見終ると非情に宗教的な映画だったような気がした。
アニマスはいい加減な男ではあるが信仰心だけは持っているようで、常に十字を切っているし、おまじないを単純に信じてしまう男でもある。
その為、刑務所で磁石にお祈りするハメになるし、悪魔を呼び出す行為を行い、預言者のお告げを信じて鶏をだまし取られてしまうという単純さ、換言すればアニマスは純真さも持ち合わせていると男とも言える。
その心が最後の行動を取らせたのだろう。
僕が見た数少ないメキシコ映画の一本であり、それに三船敏郎が出ていると言うことで記憶に残る作品である。