おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

菊次郎の夏

2022-05-22 08:10:51 | 映画
「菊次郎の夏」 1999年 日本


監督 北野武
出演 ビートたけし 関口雄介 岸本加世子 吉行和子
   細川ふみえ 大家由祐子 麿赤兒 グレート義太夫
   井手らっきょ THE CONVOY

ストーリー
幼い頃に父親を亡くし、今はおばあちゃんとふたりで浅草に暮らしている小学校3年生の正男にとって、夏休みはそんなに楽しいものではなかった。
学校の友達はみんな家族で旅行に出かけてしまうし、サッカークラブもお休み、おばあちゃんも仕事で昼間は家にいないのだ。
そんな時、彼は遠くの町にいるお母さんに会いに行く決心をする。
絵日記と宿題と僅かな小遣いをリュックに詰めて、家を飛び出した正男。
そんな彼の気持ちを知った近所のおばさんが、遊び人の菊次郎を同行させることにした。
ところが、根っからの遊び人の菊次郎は競輪場に寄り道したり、タクシーを盗んだり、トラックの運ちゃんとトラブルを起こしたり、ホテルの人たちに迷惑をかけたりと、行き当たりばったりの旅を展開。
それでも、ふたりは漸く正男の母親の住む家を見つけだすのだった。
しかし、正男の母親は既にそこで違う家庭を築いていた。
菊次郎は幸せそうな母親一家を見て落ち込む正男を精一杯慰めるのであった。
さて、東京へ帰ることになった菊次郎と正男。
ふたりはその道々、知り合ったバイカーたちや作家志望の青年とキャンプをして、楽しい時間を過ごすことにした。
大人であることを忘れてはしゃぎ回る菊次郎だが、そんな彼にもひとつ気になることがあった。
それは、近くの老人ホームに入院している母親のことだった。
ホームをこっそり訪ねた菊次郎だったが、彼は老いた母親に声をかけられなかった・・・。


寸評
母親を訪ねるロードムービーだがいたるところにギャグが散りばめられた喜劇でもある。
ビートたけしと岸本加世子の夫婦が正男少年と出会った時に交わす会話によって映画の全てが語られていて大いなる伏線となっている。
ふとしたきっかけで菊次郎は正男少年の母親を訪ねる旅に同行することになる。
ところが菊次郎はいい加減な男で行く先々で問題を起こすことになるのだが、その様子がまるでコントを見ているような内容で噴き出してしまう。
ペーソスを期待する観客には到底受け入れられない内容で、北野武流のギャグを受け入れられるかどうかがこの映画を評価するかの分かれ目となるであろう。
競輪場での正男とのやり取りを手始めに、ホテルでの騒動、トラック運転手とのもめ事、仲良くなった若いカップルとのやり取りなどで軽妙なコントが繰り広げられる。
正男はカップルから天使の羽を生やしたリュックを貰うが、天使は正男にとっての希望であることがやがて判明することになる。
その後も知り合った自由人と畑のトウモロコシを盗んで売ったり、バイクに乗った二人組と騒動を起こしたりと相変わらずのギャグ連発旅である。
菊次郎はバイクの二人組からお守りの天使の鈴を無理やり取り上げて正男に与える。
天使は二度目の登場である。
ついに正男はメモしてきた母親がいる住所にたどり着くが、冒頭での伏線が生きてくる展開でしんみりさせる。
帰途についた途中で夏祭りに立ち寄った二人は的屋や金魚すくいで遊ぶが、菊次郎の無茶ぶりに怒ったヤクザたちが菊次郎を痛い目にあわす。
心配させまいと「階段から落ちた」と嘘をつく菊次郎に正男は薬局で救急グッズを買ってきて彼の手当てをするのだが、ここで菊次郎は初めて正男に「ありがとう」と言う。
この頃になると菊次郎と正男は疑似親子の関係となっている。
砂浜を手をつないで歩くようになっており、そうすることで菊次郎が歩いた後に足跡がつくという気が付かないようなな細やかな演出が見て取れる。

自由人の兄ちゃんと再会した二人は数日の間キャンプをすることになり、そこにオートバイの二人組が合流して正男の遊び相手として楽しいひと時を過ごすことになるのだが、ここでの遊びはハチャメチャで井手らっきょのハゲのおじちゃんの全裸をいとわぬ姿には思わず吹き出してしまう。
正男に触発された菊次郎は母親のいる老人ホームに行くが、やはりここでも冒頭の伏線が効いてくる。
二人は東京に戻ってくるが、そこで正男は初めて「おじちゃんの名前は何・」と聞き、「菊次郎だよ、馬鹿野郎!」と菊次郎は答える。
当初は正男の成長物語だと思っていたものが、ここにきてこれは菊次郎の成長物語だったのだと気付かされる。
菊次郎は子供が大人になったような男だったが、同じ境遇の正男の姿を見て彼も成長したのだ。
正男はおばあちゃんを大事にするように言われて天使の羽のリュックを揺らしながら駆けていく。
ラストシーンはグッと来るものがある。
しかし僕には、このギャグ映画はどうもなあという気持ちがある。