おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

神様のくれた赤ん坊

2022-05-14 08:48:46 | 映画
「神様のくれた赤ん坊」 1979年 日本


監督 前田陽一
出演 桃井かおり 渡瀬恒彦 鈴木伊織 河原崎長一郎
   吉幾三 嵐寛寿郎 吉行和子 樹木希林
   泉谷しげる 曽我廼家明蝶 楠トシエ 小島三児
   正司歌江 森本レオ 小林トシ江 小松政夫

ストーリー
同棲中の森崎小夜子(桃井かおり)と三浦晋作(渡瀬恒彦)のところに、見知らぬ女(樹木希林)が六歳ぐらいの子供を連れて現われ、晋作の子供だと言って押しつけていった。
女の話では隣りに住んでいた明美という女が坊やを残して駆け落ちし、置手紙に晋作をはじめ五人の男の往所氏名が書いてあった。
窮した晋作は新一(鈴木伊織)を連れて父親捜しの旅に出、小夜子もふるさとを探すと言って付いてきた。
最初に名前のあった尾道の田島啓一郎(曽我廼家明蝶)は市長選挙に立候補中だったが、事情を話すと田島は十年前にパイプカットしていて、晋作は恐喝で逮捕されてしまう。
結局、秘書(河原崎長一郎)が田島の名をかたっていたことがわかり、養育費として三十万円を貰うが、血液型から父親ではなかった。
別府では第二の男である福田(吉幾三)がおりしも結婚式のまっ最中で養育費として100万円だけを渡された。
母親の生家に立寄った小夜子は母の千代(楠トシエ)が長崎丸山の大野楼にいて唐津に移ったことを聞く。
第三の男は元ライオンズの選手で、今はバーテンをしている桑野(小島三児)だが逃げ回るばかりだ。
その夜、意地とやせ我慢で関係のなかった二人は、久びさに燃えた。
仲直りした二人は唐津に向かい、そこで、小夜子は子供の頃の風景に、しばし、思い出に耽る。
最後の一人は、若松の川筋者、高田五郎。
五郎の家に行くと、親爺の幾松(嵐寛寿郎)が出てきて「五郎は死んだ」と伝えた。
そして未亡人のまさ(吉行和子)が、新一を引き取ると申し出た。
亡くなった五郎は発展家で、よそで作った子供は新一で四人目だそうだ。
ところが、晋作と小夜子は長い旅をともにした新一に情が移り、別れるのが辛く、まさに新一を託して高田家を出たものの、再び引き取りに戻るのだった。


寸評
押し付けられた子供の父親を捜すロードムービーだが、同時に小夜子の母親のルーツを辿っていくことが重なっているので物語に変化が生じている。
小夜子の話がなければ単なるお涙頂戴の話に過ぎなかったであろう。
晋作は芸能事務所でエキストラのバイトをしながらプロの漫画家を目指しているのだが、自分勝手でだらしなく無責任で頼りない男である。
一方の小夜子はまだセリフを貰えていない駆け出しの女優だが、私生活では度胸があり口も上手くて臨機応変な対応を見せるのは女優業のせいだろう。
晋作と小夜子のデコボココンビのやり取りが小気味よい。

新一の父親捜しはコメディ調である。
最初のパートである曽我廼家明蝶の所では恐喝容疑で警察に連れていかれるのだが、どうしてあれが恐喝になるのか疑問である。
前田陽一には政治家の権力乱用を茶化す気持ちがあったのかもしれない。
秘書の河原崎長一郎が曽我廼家明蝶の地盤を引き継いで国政に出た時にはと語っていることなどもそうだ。
二番目の吉幾三は5万円で話をつけようとするが、それを不満に思った二人は結婚式場に乗り込んでくる。
そこで桃井かおりが嫌がらせの挨拶を始めると父親が100万円と書いたメモを渡す。
とたんに桃井かおりがユーモアを交えた話に切り替え態度を一変させるのは、まるで喜劇である。
三番目の小島三児に至っては球団譲渡された西鉄ライオンズのファンによるドタバタが描かれる。
最後のパートで吉行和子が新一を引き取ると言い出すが、その前に亡き夫にグチる場面がこれまた喜劇的だ。

父親捜しと違って、小夜子が母親の痕跡を追っていくシーンはノスタルジーをそそりながら切なく描かれている。
この対比が極上のアンサンブルとなっている。
尾道では正司歌江の美容院で働いていたようで、母親がすでに亡くなっていること、ここでの暮らしは小夜子もはっきりと覚えていて初恋の人がいたことなどが明かされる。
小夜子は母親の生家の天草に立ち寄るが、そこで夫と死別した母親が長崎の色街へ行き女郎をしながら生きていたことを知る。
母親は唐津で好きな男ができて小夜子を産んだようだ。
そこからの母親は小夜子を大事に育てていて、付き合いを始めた渡瀬恒彦の所へも押しかけている。
小夜子には唐津の思い出はおぼろげなものだ。
僕は母親の姿がダブった。
僕が三歳の時に離婚した母は必死で僕を育てたようだ。
そのことは分かっていても、僕は母親には反抗的だった。
僕は小夜子ほどの記憶はなく、生まれた家のこと父親のことはまったく記憶にない。
小夜子は抱いていた母親の姿と違う実像を知って打ちひしがれる。
寄り添う相手は晋作しかなく、「お兄さん遊ばない」と誘うところが切なくいいシーンとなっている。
最後には晋作と小夜子が新一を迎えに行くのだが、新一にとってどちらが幸せだったのか。