おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

風とライオン

2022-05-04 07:42:30 | 映画
「風とライオン」 1975年 アメリカ


監督 ジョン・ミリアス
出演 ショーン・コネリー
   キャンディス・バーゲン
   ブライアン・キース
   ジョン・ヒューストン
   ジェフリー・ルイス
   スティーヴ・カナリー

ストーリー
1904年10月15日、モロッコのタンジール。
その日イーデン・ペデカリス夫人は、新任の副領事と昼食をとっていたところを、一団の馬賊に襲われ、12歳の長男ウィリアムと9歳の娘ジェニファーと共に誘拐された。
一味の首領はライズリといい、王者の風格が感じられる男だった。
一方、ここはアメリカ合衆国の首都ワシントン。
「アメリカ婦人、リフ族の首長ライズリに誘拐さる」のニュースは、国防長官ジョン・ヘイを通じ、第26代大統領セオドア・ルーズベルトに報告された。
当時、モロッコにはフランス、イギリス、オーストリア、ドイツ、そしてロシアなど列強国が腰を据えていた。
ルーズベルトはこの事件を次期選挙に利用しようとして、大西洋艦隊をモロッコに派遣し、合衆国はペデカリス夫人を生きたまま返してもらうか、ライズリを殺すしかない』とルーズベルトは宣言した。
その頃、ペデカリス夫人と2人の子供たちはライズリの一行とともに、砂漠と海が見える台地を進んでいた。
一方、合衆国のタンジールの領事ガマーリはモロッコ大守の甥にあたるサルタンに会うことにした。
ランズリがイーデンとその子供たちを誘拐したのは、ヨーロッパ諸国のいいなりになりモロッコの民衆を苦しめているサルタンを窮地に陥れるためだった。
ライズリの思惑どおり、サルタンの説得に失敗したアメリカは、海軍の艦隊をモロッコに出動させた。
ジェローム大尉の指揮下、海兵隊のライフル2個中隊が上陸、タンジールの町を行進し、サルタンの宮殿に向かった・・・・。


寸評
モロッコがヨーロッパの列強に蹂躙されようとしている所へアメリカが割って入ろうとしている。
アメリカの介入はルーズベルトが次期大統領選に利用しようとしているからでもある。
1904年の話であるが、戦争を仕掛けることで大統領が支持率のアップを狙うのは今も続いているように思う。
ライズリは民族解放の為に戦っているイスラム教徒だが武士道精神を持った男である。
ジョン・ミリアスは黒澤明を尊敬していたようで、この作品でも黒澤作品へのオマージュが見受けられる。
ライズリが馬に乗って剣を肩口で縦に構えて疾走し相手に斬りかかるシーンがあるが、これなどは「隠し砦の三悪人」で三船敏郎の真壁六郎太が行ったのと同じだ。
ライズリは最後の激戦でも相手の指揮官と剣による一騎打ちをして、組伏せた指揮官のとどめを刺す寸前でニコリと笑って去っていく。
日本の時代劇に出てきそうな立ち廻りである。
「血とコーラン」で戦い、自分は神のしもべだと信じているライズリが困った女だと言うキャンディス・バーゲンのペデカリス夫人とのかみ合わないやり取りがほのぼのとして微笑ましい。
女子供は殺さないというライズリの言葉通り、彼はペデカリス夫人や子供たちには親切である。
しかしプライドの高さはあるので、自分のことを笑ったペデカリス夫人をひっぱたくことはある。
威厳を持ったライズリに傾倒していく長男のウィリアムが言いアクセントになっている。

ライズリと交互に描かれるのがセオドア・ルーズベルトである。
セオドア・ルーズベルト大統領は独占禁止法、パナマ運河建設、そして日露戦争の仲介などを行いポーツマス講和条約に直接介入してノーベル平和賞を受賞している。
アメリカの歴代大統領の中でも評価が高い大統領である。
この作品でもパナマ運河のことが度々語られている。
日露戦争はこの映画と同じ1904年に始まっているから、この頃のアメリカは内政から外交に舵を切っていた時代だったのかもしれない。
ルーズベルトは「アメリカ国民の命を守る」と声高々と叫び、ペデカリス夫人も「大統領は約束を守る男だ」とこれまた叫んでいる。
なんだか民主党のプロパガンダ映画のようにも感じてしまうところはある。

ルーズベルトはライズリを認めていたようだし、ライズリもルーズベルトを尊敬していたようなのだが、彼らがお互いのどこを評価し合っていたのかよく分からなかった。
ライズリがルーズベルトに送った書簡は感動を呼ぶ文章となっている。
「あなたは風のごとく、私はライオンのごとし。あなたは嵐をまきおこし、砂塵は私の眼を刺し、大地はかわききっている。私はライオンのごとくおのれの場所にとどまるしかないが、あなたは風のごとくおのれの場所にとどまることを知らない」
二人の間に通じ合っているものを上手く描けていたなら、この文章はもっと感動的なものになっただろう。
ライズリが相手を一刀両断で首をはねるシーンや馬が一列に並んだ馬賊部隊の突撃シーンは迫力がある。
最後のまっ赤な夕陽が印象的だ。