「北村透谷 わが冬の歌」 1977年 日本
監督 山口清一郎
出演 みなみらんぼう 田中真理 鈴木恵 石橋蓮司
河原崎次郎 西塚肇 大谷朗 簗正明
堀内正美 松田修 なぎらけんいち 久米明
藤真利子 沖雅也
ストーリー
欠勤中の透谷(みなみらんぼう)にかわって、妻・美那(田中真理)は明治女学校を訪れた。
校門で美那は透谷の教え子、斉藤冬子(鳥居恵子)と出会うが、冬子の美しさが妙に心に残るのであった。
美那は事務官(殿山泰司)から、透谷が既に退職届を出しているのを知らされ、悪い予感に家路を急いだ。
透谷は咽喉に刃物を突きたて自殺を図っていたが、駆けつけた美那に発見され、事は未遂に終わった。
透谷の自殺未遂を伝え聞いた友人たちが北村家を訪れる。
星野天知(簗正昭)が、透谷と斉藤冬子が恋愛関係にあり、それが自殺の原因ではないかという。
樋口一葉(藤真利子)が訪れ末座に加わり、一方、新聞紙上で透谷と激しい文学論争を続けていた山路愛山(堀内正美)は、自分が透谷を自殺に追いやったのではないかと悩んでいた。
また、大矢蒼海(石橋蓮司)は政治から去った透谷を裏切者として、今でもこだわっていることなどを話す。
そこへ、かつて美那の婚約者であった平野友輔(河原崎次郎)と透谷が合流する。
静寂が続く中で、透谷が語り始めた。
透谷が参加していた民権運動が圧殺されていたころ、政府の討代隊に追われた透谷は、遊廓に逃げこみ、一人の女郎(田中真理、二役)に助けられ、はじめての性の体験で、ざくろの刺青がある“蝶”という名の、その女を抱き、彼女と結ばれたいと思った透谷は女がとめるのも聞かずに刺青を刻み込んだ。
その後、蝶は強盗に絞殺されてしまった。
刺青を見せてくれるように一葉に言われ透谷が着衣をめくり上げると、腕、胸、背に浮かぶざくろの刺青。
それを見て美那の弟の公歴(沖雅也)が富井松子(萩尾みどり)と透谷の関係を問いつめる。
宴は終わり、傍若無人に周囲を傷つけてみたものの、透谷は空しかった。
その日から透谷は、死への道をまっしぐらに疾走する。
寸評
田中真理はすでに映画デビューを果たしておりテレビ出演もしていたが、日活がロマンポルノへと路線を転向した1971年に蔵原惟二監督の「セックス・ライダー 濡れたハイウェイ」で主役を務めるようになった。
ロマンポルノ出演2作目が山口清一郎監督の「ラブ・ハンター 恋の狩人」で、これが猥褻図画として警視庁に摘発され、その後出演作がたて続けに摘発されたことから「警視庁のアイドル」と呼ばれるようになり、「日活ロマンポルノ裁判」の過程で、田中真里は「エロスの女闘士」として反体制の象徴のような存在となった。
確かに同じく初期のスターであった白川和子、片桐夕子、小川節子たちとは少し違った雰囲気を持っていた。
山口清一郎は「恋の狩人シリーズ」と田中真理にこだわり続けて日活と対立し解雇され、田中真理は日活を退社したので、いわば二人は同志であったのだろう。
日活を離れた二人がタッグを組んだのがこの「北村透谷 わが冬の歌」である。
僕は北村透谷をまったく知らないので、伝記映画としてなら当初から興味を削いでいる。
文士仲間として島崎藤村や樋口一葉、山路愛山など知った名前が登場した時だけは興味を持った。
僕にはそれ以外はよく分からない議論が続いているだけの作品に思え、自ら自由恋愛主義者と称している透谷の女性遍歴もよく分からないうちに終わっていたように思えた。
透谷は友人の平野友輔と婚約が成立していた美那を奪った形になっているが、どのような経緯で二人は結婚することになったのだろう。
教え子の斉藤冬子との関係もよく分からなかったし、富井松子との関係もよく分からない。
ロマンポルノなら濃厚な関係が描かれただろうと思う。
日清戦争前夜の時代で、彼らは自由民権運動にかかわっているが、僕は当時の政治状況も知らないし、それが今の世の中に反映するようにも描かれてもいないので、運動をやっている壮士たちのエピソードもどこか中途半端に映る。
透谷が自分をとりまいていた絆が幻にすぎなかったことを悟り、暴走していくところからは見応えがある。
透谷は一緒に死んでくれと美那に迫るが、美那は幼い子供を抱きしめ「この子がいるから嫌です」とキッパリ答え、透谷をすでに見放していることを感じさせる。
透谷は民権運動の梁山泊と呼んでいた川口村に行くが、そこで無残に殺された女郎・蝶の幻想を見る。
彷徨う草むらの向こうに数名の黒子が見え、一人は十字架から吊るされているがそれは透谷自身であろう。
透谷は仲間たちに向かって「俺は生きるぞ」と叫んでいるが、それは逆に死へ向かう叫びだったのだろう。
文学で出世しようとは思っていないと透谷は言っているが、30歳を前にして自殺したのは文学に挫折したからではないかと僕は思った。
透谷は梁山泊と称していた川口村に向かっていくが、山口清一郎にとっての梁山泊はロマンポルノで自由な映画を撮っている日活だったのではないか。
また北村透谷に山口清一郎自身を投影していたのではないかと思う。
透谷自身は脚色されているのだろうが、登場人物になじみがなく革命計画や強盗計画などの事件のことも知らないので、伝記としてみると、描かれた人物が北村透谷であったことが僕には荷が重すぎた。
監督 山口清一郎
出演 みなみらんぼう 田中真理 鈴木恵 石橋蓮司
河原崎次郎 西塚肇 大谷朗 簗正明
堀内正美 松田修 なぎらけんいち 久米明
藤真利子 沖雅也
ストーリー
欠勤中の透谷(みなみらんぼう)にかわって、妻・美那(田中真理)は明治女学校を訪れた。
校門で美那は透谷の教え子、斉藤冬子(鳥居恵子)と出会うが、冬子の美しさが妙に心に残るのであった。
美那は事務官(殿山泰司)から、透谷が既に退職届を出しているのを知らされ、悪い予感に家路を急いだ。
透谷は咽喉に刃物を突きたて自殺を図っていたが、駆けつけた美那に発見され、事は未遂に終わった。
透谷の自殺未遂を伝え聞いた友人たちが北村家を訪れる。
星野天知(簗正昭)が、透谷と斉藤冬子が恋愛関係にあり、それが自殺の原因ではないかという。
樋口一葉(藤真利子)が訪れ末座に加わり、一方、新聞紙上で透谷と激しい文学論争を続けていた山路愛山(堀内正美)は、自分が透谷を自殺に追いやったのではないかと悩んでいた。
また、大矢蒼海(石橋蓮司)は政治から去った透谷を裏切者として、今でもこだわっていることなどを話す。
そこへ、かつて美那の婚約者であった平野友輔(河原崎次郎)と透谷が合流する。
静寂が続く中で、透谷が語り始めた。
透谷が参加していた民権運動が圧殺されていたころ、政府の討代隊に追われた透谷は、遊廓に逃げこみ、一人の女郎(田中真理、二役)に助けられ、はじめての性の体験で、ざくろの刺青がある“蝶”という名の、その女を抱き、彼女と結ばれたいと思った透谷は女がとめるのも聞かずに刺青を刻み込んだ。
その後、蝶は強盗に絞殺されてしまった。
刺青を見せてくれるように一葉に言われ透谷が着衣をめくり上げると、腕、胸、背に浮かぶざくろの刺青。
それを見て美那の弟の公歴(沖雅也)が富井松子(萩尾みどり)と透谷の関係を問いつめる。
宴は終わり、傍若無人に周囲を傷つけてみたものの、透谷は空しかった。
その日から透谷は、死への道をまっしぐらに疾走する。
寸評
田中真理はすでに映画デビューを果たしておりテレビ出演もしていたが、日活がロマンポルノへと路線を転向した1971年に蔵原惟二監督の「セックス・ライダー 濡れたハイウェイ」で主役を務めるようになった。
ロマンポルノ出演2作目が山口清一郎監督の「ラブ・ハンター 恋の狩人」で、これが猥褻図画として警視庁に摘発され、その後出演作がたて続けに摘発されたことから「警視庁のアイドル」と呼ばれるようになり、「日活ロマンポルノ裁判」の過程で、田中真里は「エロスの女闘士」として反体制の象徴のような存在となった。
確かに同じく初期のスターであった白川和子、片桐夕子、小川節子たちとは少し違った雰囲気を持っていた。
山口清一郎は「恋の狩人シリーズ」と田中真理にこだわり続けて日活と対立し解雇され、田中真理は日活を退社したので、いわば二人は同志であったのだろう。
日活を離れた二人がタッグを組んだのがこの「北村透谷 わが冬の歌」である。
僕は北村透谷をまったく知らないので、伝記映画としてなら当初から興味を削いでいる。
文士仲間として島崎藤村や樋口一葉、山路愛山など知った名前が登場した時だけは興味を持った。
僕にはそれ以外はよく分からない議論が続いているだけの作品に思え、自ら自由恋愛主義者と称している透谷の女性遍歴もよく分からないうちに終わっていたように思えた。
透谷は友人の平野友輔と婚約が成立していた美那を奪った形になっているが、どのような経緯で二人は結婚することになったのだろう。
教え子の斉藤冬子との関係もよく分からなかったし、富井松子との関係もよく分からない。
ロマンポルノなら濃厚な関係が描かれただろうと思う。
日清戦争前夜の時代で、彼らは自由民権運動にかかわっているが、僕は当時の政治状況も知らないし、それが今の世の中に反映するようにも描かれてもいないので、運動をやっている壮士たちのエピソードもどこか中途半端に映る。
透谷が自分をとりまいていた絆が幻にすぎなかったことを悟り、暴走していくところからは見応えがある。
透谷は一緒に死んでくれと美那に迫るが、美那は幼い子供を抱きしめ「この子がいるから嫌です」とキッパリ答え、透谷をすでに見放していることを感じさせる。
透谷は民権運動の梁山泊と呼んでいた川口村に行くが、そこで無残に殺された女郎・蝶の幻想を見る。
彷徨う草むらの向こうに数名の黒子が見え、一人は十字架から吊るされているがそれは透谷自身であろう。
透谷は仲間たちに向かって「俺は生きるぞ」と叫んでいるが、それは逆に死へ向かう叫びだったのだろう。
文学で出世しようとは思っていないと透谷は言っているが、30歳を前にして自殺したのは文学に挫折したからではないかと僕は思った。
透谷は梁山泊と称していた川口村に向かっていくが、山口清一郎にとっての梁山泊はロマンポルノで自由な映画を撮っている日活だったのではないか。
また北村透谷に山口清一郎自身を投影していたのではないかと思う。
透谷自身は脚色されているのだろうが、登場人物になじみがなく革命計画や強盗計画などの事件のことも知らないので、伝記としてみると、描かれた人物が北村透谷であったことが僕には荷が重すぎた。