おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

ファーゴ

2020-02-19 10:40:32 | 映画
「ふ」の映画は結構思いつきました。

「ファーゴ」 1996年 アメリカ


監督 ジョエル・コーエン
出演 フランシス・マクドーマンド
   スティーヴ・ブシェミ
   ウィリアム・H・メイシー
   ピーター・ストーメア
   ハーヴ・プレスネル
   ジョン・キャロル・リンチ
   クリステン・ルドルード
   トニー・デンマン

ストーリー
1987年冬。ミネソタ州の自動車ディーラー、ジェリー・ランガードは多額の借金を負い、大金を必要としていた。
彼は妻ジーンを偽装誘拐して、妻の父親ウェイドから身代金を引き出し、借金返済に回そうとしていた。
ジェリーは整備工場で働く元囚人から2人の男を紹介してもらい、ノース・ダコタ州ファーゴへ向かった。
神経質に喋り通しの男カールと一言も喋らない凶暴そうな大男ゲアは、誘拐の実行を約束する。
ジェリーは義父と彼の財政顧問に駐車場を作るという提案をしており、そのための借金を申し込んでいた。
だが、義父が彼に大金を投資するわけがなく、そこで考えた最後の手段が偽装誘拐計画だった。
ところが、自宅に帰ったジェリーに義父は、新事業の打ち合わせをしようと言う。
慌てたジェリーは2人組に連絡を取ろうとするが、彼らはつかまらない。
とりあえず打ち合わせに行くが、義父たちは無能なジェリーに投資する気はなく、自分たちで事業化して手数料を彼に払うつもりだったことが分かり、ショックを受けたジェリーは、雪に埋もれた駐車場で怒りを爆発させる。
一方、カールとゲアは白昼堂々、誘拐を決行。
しかし、隣町ブレイナードへ逃走中、ゲアはパトロール中の警官と目撃者をあっけなく殺してしまう。
翌朝、ブレイナードの女性警察署長で出産を控えているマージ・ガンダーソンが殺人事件の捜査に乗り出した。
彼女は残された証拠を一つ一つ洗い、ついに犯人が乗っていた車からジェリーにたどり着いた。
彼は予期せぬマージの出現に動揺し、その場は何とかごまかすが、逆に彼女に不信感を抱かせる。
ジェリーの計画は完全に狂い、身代金の受け渡しももつれて、カールは義父を射殺してしまった。
カールは何とか湖畔の隠れ家に逃げ戻るが、短気なゲアもジーンを殴り殺してしまっていた。
カールとゲアは、車をどちらがもらうかでもめ、その結果、ゲアが斧でカールを殺してしまう。


寸評
およそ犯罪映画とは思えない荘厳なカーター・バーウェルのスコアが流れ、雪で煙る中でクレジットが表示されていくオープニングが素晴らしく、それだけで僕は映画の世界に引き込まれた。
冒頭で示されたように仮に事実だとしても人物描写は相当脚色されているように思う。
それでも、実在の人物を思わせるような人々が登場し、そのデフォルメされたキャラクター描写は面白い。
ランガードは資産家の娘と結婚した為に、義父から車のディーラーの営業部長にさせてもらっているが、見るからに仕事ができないタイプの男である。
軽薄っぽい妻のジーンも父親べったりなのだから、ランガードは婿養子状態で義父に頭が上がらない。
義父は娘と孫を気に掛けているが、婿のランガードを小馬鹿にしているような所がある。
そんな中でランガードは偽装誘拐を画策するのだが、描かれる内容は負の連鎖だ。
犯罪における負の連鎖は時々見かける題材だが、ここでの負の連鎖は悲惨と言うよりどこか滑稽である。
登場してくる人物がどこかのほほんとしていて、犯罪映画に付きものの緊迫感を感じさせない。

いきなり犯罪者たちの打ち合わせが行われ、計画の背景と彼等の性格描写が要領よく示される。
余分な描写をせずに観客を納得させるので、見ている人はスムーズに作品に入っていける。
シーンが変わると、平凡な、いやどちらかというと風采の上がらない夫婦が登場するが、妻は妊娠中で女性警察署長のマージ・ガンダーソンだとわかる。
ごく普通の主婦だが、さすがに警察署長だけあって観察力は鋭いが、雰囲気はまるで田舎のオバサンである。
このオバサンが何とも言えない映画の雰囲気を生み出していて、演じたフランシス・マクドーマンドが光っている。
彼女を取り巻く描写が一方でこの映画を支えていると思われる。
かつてのクラスメートとの一件などはありそうな話で、マージがスーパー警官でないことの証明だし、ウソというキーワードでの偽装誘拐との対比でもある。
夫とは仲睦まじく、夫は妻のために朝食を作ってやっているし、妻が夫のために魚釣りの餌であるミミズを買ってきて二人でハンバーガーを食べるシーンなんてごく普通の夫婦を感じさせる。
事件とは関係のないこの夫婦のたわいないやり取りが何回か描かれるが、この夫婦のたわいないやり取りこそがこの作品の主題でもある。
個々のキャラクターのおかしさと、さりげない台詞は効果的で、ドラマの完成度は高く、テーマを感じさせる。
マージは”こんなにいい天気なのに・・・人生はお金だけではないのよ”と犯人のゲアに話しかけるが、ゲアは何も答えない。
事件解決後、マージは寝室で夫ノームに”あと2ヶ月なの”と新しい命の誕生を待ち望む事を伝え、夫ノームは、妻に自分のデザインした切手が発売されると報告するという会話が続く。
今は使う機会が少ない3セント切手だが、郵便料金が値上げされると不足分に使われるはずだと語るのは、明日を信じる小市民の平和と愛に満ちた生活を感じ取らせる見事なまでの人間賛歌であった。

示されたように事実だとすれば、雪に埋めた大金はどうなったのか、祖父と母を殺され父が逮捕された少年はその後どうなったのかが気になった。