「瞳の奥の秘密」 2009年 スペイン / アルゼンチン
監督 フアン・ホセ・カンパネラ
出演 リカルド・ダリン
ソレダ・ビジャミル
パブロ・ラゴ
ハビエル・ゴディーノ
カルラ・ケベド
ギレルモ・フランセーヤ
ストーリー
刑事裁判所を定年退職したベンハミン・エスポシトは、仕事も家族もない孤独な時間と向き合っていた。
残りの人生で、25年前の殺人事件を題材に小説を書こうと決意し、久しぶりに当時の職場を訪ねる。
出迎えたのは、彼の元上司イレーネ・ヘイスティングス。
変わらずに美しく聡明な彼女は、今や検事に昇格し、2人の子供の母親となっていた。
彼が題材にした事件は1974年にブエノスアイレスで発生したもの。
幸せな新婚生活を送っていた銀行員リカルド・モラレスの妻で23歳の女性教師が、自宅で暴行を受けて殺害された事件で、現場に到着したベンハミンは、その無残な遺体に衝撃を受けたのだ。
やがて、捜査線上に1人の男が容疑者として浮上。
ベンハミンは部下で友人のパブロ・サンドバルと共に、その男の居場所を捜索したのだが、判事の指示を無視して強引な捜査を行ったことで、事件は未解決のまま葬られることとなってしまった。
そして1年後。ベンハミンは駅で偶然、モラレスと再会。
彼は毎日、曜日ごとに駅を変えて容疑者が現れるのを待っていた。
彼の深い愛情に心を揺さぶられたベンハミンは“彼の瞳を見るべきだ。あれこそ真の愛だ”と、イレーネに捜査の再開を嘆願。
ベンハミンとパブロはようやく容疑者逮捕の糸口を掴み、事件の真相に辿り着くが…。
25年後、タイプライターを前に自分の人生を振り返るベンハミンに、イレーネの存在が鮮やかに甦る・・・。
寸評
高卒のたたき上げベンハミン、アル中で妻にも見放されそうなパブロ、大卒のエリートの女性上司イレーネ、亡き妻を愛し続ける銀行員リカルド。
それぞれのキャラクターが巧みに描き分けられて物語を盛り上げていく。
現在と多く描かれる過去を交差させながらサスペンスとしても盛り上がりを見せる。
その構成の上手さに感心させられ、どこの国にもスゴイ監督っているものだと再認識させられる。
ベンハミンとイレーネが初めて顔を合わせた時のベンハミンの気持ちは、彼がイレーネに語る「小説の書き出しは決まっているんだが、物語とは関係ないんだ」に表されていて、細部にわたる配慮がなされていた。
そして彼女のことが気になる自分の態度と重ね合わせて真犯人を推測するくだりも衝撃的である。
イレーネを秘かに愛しているベンハミンの頭の中は常に彼女のことでいっぱいでいつも彼女を見つめていたのだが、それをスナップ写真を使ってそれとなく表現し、真犯人のゴメスとうまく対比させている。
そして犯人と同様にキャリアの違いから彼女は高嶺の花で、自分には手が出せない人とのコンプレックスを秘めているので愛している気持ちを口に出せない。
イレーネはベンハミンの気持ちを感じているようだが、お互いに一歩踏み出せない。
ベンハミンが話があると部屋に来た時には、それは愛の告白だと思ったはずでその描写もいい。
愛しているから一歩踏み出せないベンハミンの気持ちが僕にはわかる。
後年になって、イレーネは自分を連れ去らなかった意気地のなさを指摘するが、真の愛は切ない一面を持つ。
サスペンス性も持っているが、犯人探しが目的でないので、そのことをやたら盛り上げる展開にしなかったことで、むしろこの作品を奥深いものにしている。
それは夫モラレスの妻への愛と、犯人への憎しみの深さだったと思う。
駅で犯人を見つけ出そうとする執念とそしてラストの衝撃。
そしてそのラストに至る直前に、今までに描かれたシーンや言葉がこれでもかとたたみかけてくる。
その歯切れの良さに思わず画面に引きよせられて息を止めている自分に気づかされる。
上手い! 思わずうなってしまった。
僕はこの映画を見て日本の無期懲役はよくないのではないかと思った。
僕は死刑存続論者なのではあるが、なくすなら無期をなくして終身刑を制定すべきだと思う。
結果的に犯人のゴメスは終身刑を受けるが、その時再開したベンハミンに「彼に何か話すように言ってくれ」と懇願するシーンは強烈だったなあ。
またダメ男のパブロも特異なキャラクターで、終盤で見せるベンハミンに対する友情も泣かせた。
現役時代に使っていたタイプライターのAが打てないことは、現在のイレーネがベンハミンにそのタイプライターをあげる場面で述べられていたが、過去のシーンでもAが打てない場面が描かれる。
その長い伏線があるので、「怖い」というスペイン語にAを足して「愛してる」に書き換えるくだりが生きてきた。
分かってはいても最後にベンハミンがイレーネのもとに駆けつけるシーンは感動させられる。
傑作だ!
監督 フアン・ホセ・カンパネラ
出演 リカルド・ダリン
ソレダ・ビジャミル
パブロ・ラゴ
ハビエル・ゴディーノ
カルラ・ケベド
ギレルモ・フランセーヤ
ストーリー
刑事裁判所を定年退職したベンハミン・エスポシトは、仕事も家族もない孤独な時間と向き合っていた。
残りの人生で、25年前の殺人事件を題材に小説を書こうと決意し、久しぶりに当時の職場を訪ねる。
出迎えたのは、彼の元上司イレーネ・ヘイスティングス。
変わらずに美しく聡明な彼女は、今や検事に昇格し、2人の子供の母親となっていた。
彼が題材にした事件は1974年にブエノスアイレスで発生したもの。
幸せな新婚生活を送っていた銀行員リカルド・モラレスの妻で23歳の女性教師が、自宅で暴行を受けて殺害された事件で、現場に到着したベンハミンは、その無残な遺体に衝撃を受けたのだ。
やがて、捜査線上に1人の男が容疑者として浮上。
ベンハミンは部下で友人のパブロ・サンドバルと共に、その男の居場所を捜索したのだが、判事の指示を無視して強引な捜査を行ったことで、事件は未解決のまま葬られることとなってしまった。
そして1年後。ベンハミンは駅で偶然、モラレスと再会。
彼は毎日、曜日ごとに駅を変えて容疑者が現れるのを待っていた。
彼の深い愛情に心を揺さぶられたベンハミンは“彼の瞳を見るべきだ。あれこそ真の愛だ”と、イレーネに捜査の再開を嘆願。
ベンハミンとパブロはようやく容疑者逮捕の糸口を掴み、事件の真相に辿り着くが…。
25年後、タイプライターを前に自分の人生を振り返るベンハミンに、イレーネの存在が鮮やかに甦る・・・。
寸評
高卒のたたき上げベンハミン、アル中で妻にも見放されそうなパブロ、大卒のエリートの女性上司イレーネ、亡き妻を愛し続ける銀行員リカルド。
それぞれのキャラクターが巧みに描き分けられて物語を盛り上げていく。
現在と多く描かれる過去を交差させながらサスペンスとしても盛り上がりを見せる。
その構成の上手さに感心させられ、どこの国にもスゴイ監督っているものだと再認識させられる。
ベンハミンとイレーネが初めて顔を合わせた時のベンハミンの気持ちは、彼がイレーネに語る「小説の書き出しは決まっているんだが、物語とは関係ないんだ」に表されていて、細部にわたる配慮がなされていた。
そして彼女のことが気になる自分の態度と重ね合わせて真犯人を推測するくだりも衝撃的である。
イレーネを秘かに愛しているベンハミンの頭の中は常に彼女のことでいっぱいでいつも彼女を見つめていたのだが、それをスナップ写真を使ってそれとなく表現し、真犯人のゴメスとうまく対比させている。
そして犯人と同様にキャリアの違いから彼女は高嶺の花で、自分には手が出せない人とのコンプレックスを秘めているので愛している気持ちを口に出せない。
イレーネはベンハミンの気持ちを感じているようだが、お互いに一歩踏み出せない。
ベンハミンが話があると部屋に来た時には、それは愛の告白だと思ったはずでその描写もいい。
愛しているから一歩踏み出せないベンハミンの気持ちが僕にはわかる。
後年になって、イレーネは自分を連れ去らなかった意気地のなさを指摘するが、真の愛は切ない一面を持つ。
サスペンス性も持っているが、犯人探しが目的でないので、そのことをやたら盛り上げる展開にしなかったことで、むしろこの作品を奥深いものにしている。
それは夫モラレスの妻への愛と、犯人への憎しみの深さだったと思う。
駅で犯人を見つけ出そうとする執念とそしてラストの衝撃。
そしてそのラストに至る直前に、今までに描かれたシーンや言葉がこれでもかとたたみかけてくる。
その歯切れの良さに思わず画面に引きよせられて息を止めている自分に気づかされる。
上手い! 思わずうなってしまった。
僕はこの映画を見て日本の無期懲役はよくないのではないかと思った。
僕は死刑存続論者なのではあるが、なくすなら無期をなくして終身刑を制定すべきだと思う。
結果的に犯人のゴメスは終身刑を受けるが、その時再開したベンハミンに「彼に何か話すように言ってくれ」と懇願するシーンは強烈だったなあ。
またダメ男のパブロも特異なキャラクターで、終盤で見せるベンハミンに対する友情も泣かせた。
現役時代に使っていたタイプライターのAが打てないことは、現在のイレーネがベンハミンにそのタイプライターをあげる場面で述べられていたが、過去のシーンでもAが打てない場面が描かれる。
その長い伏線があるので、「怖い」というスペイン語にAを足して「愛してる」に書き換えるくだりが生きてきた。
分かってはいても最後にベンハミンがイレーネのもとに駆けつけるシーンは感動させられる。
傑作だ!