おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

羊たちの沈黙

2020-02-05 11:00:35 | 映画
「羊たちの沈黙」 1990年 アメリカ


監督 ジョナサン・デミ
出演 ジョディ・フォスター
   アンソニー・ホプキンス
   スコット・グレン
   テッド・レヴィン
   アンソニー・ヒールド
   ケイシー・レモンズ
   ダイアン・ベイカー

ストーリー
FBIアカデミーの訓練生クラリスは、若い女性の皮を剥いで死体を川に流す連続殺人犯のバッファロー・ビルの捜査に手詰まりを感じたFBI上司ジャックの密命を帯び、州立の精神病院を訪れる。
それは、患者を9人も殺してそこに隔離される食人嗜好の天才精神科医ハンニバル・レクター博士に、バッファロー・ビルの心理を読み解いてもらうためだった。
初めはレクターの明晰さに同居する薄気味悪さにたじろいだクラリスも、自分への相手の興味を利用し、自分の過去を語るのとひきかえに、事件捜査の手掛かりを博士から少しずつではあったが導き出すことに成功するようになる。
そんな時、捜査態勢が急転直下、変貌する。
上院議員の愛娘キャサリンが、バッファロー・ビルと思われる者に誘拐されたのだ。
また、精神病院院長のチルトン博士も、クラリスがレクター博士と接触する理由に気づき、自分の出世欲のために、レクター博士を牢内から出し、彼の陣頭指揮の下に、大々的に捜査を始めることに協力する。
やがてレクターは捜査官に最後の手がかりを語った後、隙を見て精神病院職員を襲い、まんまと脱獄に成功、姿をくらましてしまう・・・。


寸評
アンソニー・ホプキンスとジョディ・フォスターの独断場だ。
この様な作品を生み出すアメリカ映画の懐の深さを感じる。
サイコ・サスペンスとして出色の出来で、私が見た中ではテレンス・ヤングの「コレクター」とこの作品が双璧だ。

物語は猟奇連続殺人の手がかりを得るために、FBIの訓練生クラリスが同じく人肉を食ったという猟奇連続殺人の犯人でありながら天才的心理学者のハンニバル・レクター博士に接見するところから始まる。
バッファロー・ビルと称される犯人の殺人は、女性を殺してその皮を剥ぐという凄惨なもので、すでに5人の犠牲者が出ている。
6人目の女性が連れ去られる場面は描かれるので、犯人の姿は早くから観客に知らされる。
そして彼のアジトの様子も描かれ、そこは異常な性格が想像できるような薄気味悪い雰囲気で、飼育された蛾が飛び交う様子が不気味さを示す。
本来なら、この異常な犯人をどのようにして追い詰めるのかに注目が行くのだが、犯人追及のスリルと猟奇殺人の不気味さはそこにはいかない。
それを凌駕するものがこの作品には存在しているからだ。
それはハンニバル・レクター博士の存在で、彼を演じたアンソニー・ホプキンスの怪演が光る。
ジョディ・フォスターとのやり取りが、禅問答の様でありながらも異様な緊張感をもたらすのだ。
そしてレクター博士の天才性と凶暴性が徐々に描かれていくにしたがって、体全体に力が入っていくのを感じる。
レクターはクラリスに一目ぼれしたのかもしれない。
彼女に無礼を働いた隣の囚人を言葉でもって自殺に追い込んでしまう。
それほど心理学に長じた男だということが分かる。
やがて彼は脱獄するが、そのシーンは見ているこちらも息をひそめてしまう緊迫したものになっている。

レクター博士がクラリスに心を通わせる心理描写も、抑揚のきいた演出で映画に深みを持たせていたと思う。
書類を渡すときにわずかに触れる指の感覚などはゾクッとさせるものがある。
クラリスが自分の過去を話す場面などは、大した話でもないはずなのだがやけに緊張感がある。
「羊たちの沈黙」というタイトルの意味も明かされるが、サスペンスというより心理劇の様相を呈したシーンになっていて、それが体全体を覆う緊張感を引き出していたのだろう。
ジョディ・フォスターとアンソニー・パーキンスの一騎打ちなのだが、それにしてもこのハンニバル・レクターというキャラクターは映画史に残る強烈なキャラクターである。
ラストシーンでレクターがFBIの捜査官に合格したクラリスに電話をかけ、最後の言葉として「友人と食事に・・・」を残して電話を切る。
彼の復讐を恐れて逃げているチルトン博士の後を追っていくのだが、彼の犯行手口からくるこの会話が小粋で、ここでクレジットタイトルが出るエンディングも素晴らしい。
静かに、静かに、彼の後をついていく姿を小さくなるまで固定アングルで追い続けるものだが、最後までレクターの不気味さを表すものとなっていた。
ジョディ・フォスター、この人、「タクシードライバー」の子役時からすごい!