おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

ヒメアノ~ル

2020-02-13 09:10:10 | 映画
「ヒメアノ~ル」 2015年 日本


監督 吉田恵輔
出演 森田剛 濱田岳 佐津川愛美
   ムロツヨシ 駒木根隆介
   山田真歩 信江勇 栄信

ストーリー
清掃会社のパートタイマーとして働く岡田進(濱田岳)は、何も起こらない日々に焦りを感じていた。
同僚の安藤勇次(ムロツヨシ)は自分の恋を岡田に手助けさせるため、阿部ユカ(佐津川愛美)の働くカフェへ岡田を連れていったところ、そこで岡田は高校の同級生だった森田正一(森田剛)と再会する。
気の進まぬまま安藤の恋路を助ける岡田だったが、ユカとの会話で、森田がユカのストーカーをしているらしいこと、そしてユカが岡田に一目惚れしていたことを知る。
安藤に隠れてユカとつきあうようになった岡田。
それを知った森田は同級生の和草浩介(駒木根隆介)に岡田殺しの協力を依頼する。
しかしこれまで森田に金を無心され横領を繰り返してきた和草はそれを裏切り、婚約者の久美子(山田真歩)と協力して森田を亡き者にしようとした。
必死で和草と久美子を返り討ちにした森田は、彼らの死体に火を放ち、自分のアパートともども焼いた。
家を失った森田は街をさまよい、本能にしたがって凶行を重ねていく。
森田はユカや岡田の居場所を聞き出すため、ユカのアパートの隣人や安藤を攻撃した。
一命を取り留めた安藤の見舞いに訪れた岡田は、安藤の「こんなことになっちゃったけど俺たち親友だよね」という言葉で、自身の高校時代を思い出す。
高校時代の友達だった森田はひどいいじめを受けていたこと、そして岡田はそれを救うどころか助長したこと。
森田は岡田のアパートを調べて忍びこみ、帰ってきたユカに襲いかかった。


寸評
ムロツヨシが演じる安藤のキャラクターが面白すぎて、最初はこの映画はラブコメディなのだと思って見ていた。
忘れていたが、40分ほどたってやっとタイトルとキャスティング・タイトルが出て、僕はちょっと変わった映画に変質していくんだろうなと思ったのだが、そこからの変化は想像以上で俄然輝きだす。
見ているうちに、これは弱者に対するイジメを描いた作品なのだと分かってくる。
そのように見ると、可笑しな関係と思えた安藤と岡田の関係もイジメに似たものであることが感じ取れる。
軟弱な岡田は先輩の安藤に逆らうことが出来ない。
暴力を振るわれているわけではないが、岡田は安藤によって支配されている。
拒否する態度を見せても、結局は安藤の言うなりになってしまう。
濱田岳はこういう意志の弱い軟弱な男を演じさせると上手い。
岡田は安藤とユカとの仲立ちをしているが、ユカから告白され「二人が黙っていればバレない」とユカに押し切られるようにして付き合い始める。
岡田にとっては初めての女性だが、ユカは過去に10人程度の男と経験したことがあり、初体験は14歳の時だということを聞き岡田はショックを受けるが、そんなことは気にしていないと精一杯の冷静を装う。
岡田は怒り出すとか、落ち込むとかの態度がとれない男なのだ。
自分の意見を押し通すことが出来ない気弱な男なのだが、岡田がユカに告白したとんでもない過去によって、僕はやはりこの映画はイジメを描いた作品なのだと確信するに至った。

森田は和草を脅迫して金を召し上げているが、その森田もパチンコで稼いだ金を巻き上げられている。
森田はある時は加害者であり、ある時は被害者である。
学生時代に森田は和草と共に河島からイジメを受けていたことが判明し、紆余曲折した挙句に森田は和草とその恋人である久美子を殺す。
それを契機にしたように森田は連続殺人を犯していく。
荒れ狂っている自分のことを携帯電話で噂した見ず知らずの女をつけていき、自宅に戻ったところを殺す。
帰ってきた家族も殺す。
その時、森田が家の中でやっていることが不気味で、完全に狂っていることを感じさせる。
そして、調べに来た警官も殺すが、ここまでの殺人の凶器は包丁で、メッタ刺しにするものである。
凶器は警官から奪った拳銃に代わり、ストーカーを注意した男を殺す。
自動車を奪うために乗っていた男を殺す。
もう殺すのが趣味みたいになっている殺人鬼と化していく。

僕がこの映画を面白いなあと感じるのは、この間の描き方である。
森田を描くときはサイコ・スリラーのような緊迫した描き方をしているのに、岡田とユカを描くときは思わずクスリと笑みを漏らしてしまう喜劇映画のような描き方で、その対比がとても魅力的だ。
森田は電柱に激突し、記憶が変になってしまったのか、過去を思い出すような言葉を発する。
人は孤立すると追い込まれるし、誰かと、社会と関わっていかないと生きていけない動物なのだと思わさせる。
悲しくなるし、森田に少し同情してしまうラストシーンだ。