おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

たそがれ清兵衛

2019-10-16 08:33:47 | 映画
「たそがれ清兵衛」 2002年 日本


監督 山田洋次
出演 真田広之 宮沢りえ 小林稔侍
   大杉漣 吹越満 伊藤未希
   橋口恵莉奈 尾美としのり
   田中泯 岸恵子 波哲郎

ストーリー
井口清兵衛は幕末の庄内、海坂藩の平侍。
妻を病気で亡くし、二人の娘とボケの進む老母の3人を養っている。
生活は苦しく、下城の太鼓が鳴ると付き合いは断ってすぐ帰宅し、家事と内職に励む毎日。
そんな清兵衛を同僚たちは陰で“たそがれ清兵衛”と呼んでいた。
そんなある日、清兵衛は数少ない親友・飯沼倫之丞から、清兵衛とも幼なじみの妹・朋江が、嫁いだばかりで離縁したことを聞かされる。
夫の酒乱が過ぎ見かねた倫之丞が離縁させたのだというのだ。
酒乱の夫・甲田に離縁された朋江の危難を救ったことから、剣の腕が立つことを知られた彼は、藩命により上意討ちの手に選ばれてしまう。
秘めていた想いを朋江に打ち明け、一刀流の剣客・余吾の屋敷を訪れた清兵衛は、壮絶な戦いの末に余吾を倒し、その後、朋江と再婚した清兵衛だが、幸せも束の間、彼は戊辰戦争で命を落とすのだった。


寸評
物語は清兵衛(真田広之)の末娘である晩年の以登(岸恵子)の語りですすめられる。そして最後に次のように語る。
「たそがれ清兵衛は不運な男だった」とおっしゃるのをよく聞きましたが、私はそんなふうには思いません。父は出世などを望むような人ではなく、自分のことを不運だなどとは思っていなかったはずです。私たち娘を愛し、美しい朋江さんに愛され、充足した思いで短い人生を過ごしたにちがいありません。そんな父のことを、私は誇りに思っております。

このことは、みすぼらしい身なりを藩主に注意されたことを詰問に来た本家の叔父である井口藤左衛門(丹波哲郎)に対して清兵衛自身の口からも「叔父さんが思っているほど惨めで、不幸せではない」と同様の言葉が発せられている。
つまるところ、貧乏、出世、身なりなどの物質的欲望の充足が人の幸せにつながるのではなく、当人の意識及び精神的な充実感が本当の幸せなのだと訴える。
また子供たちも「お前たち、お母さんがいなくて寂しいか?」との清兵衛の問いかけに、「お父さんがいるから寂しくない」と答えている。
 その母親は清兵衛よりは身分が上の出で、死ぬまで一生懸命働いて出世することを夢見ていた人で、どうも清兵衛はそのことを不満に思っていたようだ。
そして、親友の妹で幼馴染の朋江(やはり身分は上らしい)をひそかに想っていたことも語り明かす。
朋江(宮沢りえ)も清兵衛と同じ価値観を有していたようで、二人は一緒になり幸せな生活を得たという。
朋江は子供たちを女手でひとつで育てて一生を終え、それを感謝した晩年の以登が朋江の墓参りを行い冒頭のナレーションで終わる。

そこでふと思うのだが、代償としての幸せとは何だったのか?
映画の中では、貧しそうな清兵衛一家と、そのことは気に留めていないようなそぶりが描かれている。
そしてどうやら清兵衛は人より秀でた剣術の技を持っているらしいのだが、別段それを見せびらかすわけでもない。
そのようにして世間と隔絶したような生活に勝る幸せとは何だったのか?
それが私には伝わらなくって、なんだか見終わっておなか一杯食べ損なったような気分になった。

山田洋次監督作品としては、以前撮った「家族」などのほうが文字通り家族愛が描かれていたのではないかと思う。
貧乏人なので月代(さかやき)が伸び放題になっているなど、主人公の薄汚さなどが今までの時代劇にない雰囲気を醸し出している。
さすがに山田作品だけに丁寧に撮られていて、子供たちと遊ぶシーンの宮沢りえなどもなかなか良かった。
死闘を終えて無事帰ってきた清兵衛を迎え「心配していた」と告げる、どちらかと言えば淡々とした演技が魅力的だった。
彼女は主演女優としての大芝居をやる時よりも、さりげないシーンに存在感を見せる人だと思うのだが・・・。

時代劇映画があまり撮られなくなっていたが、この作品のヒットによりその後時代劇作品が以前よりは制作されるようになった功績は大きい(特に藤沢作品の多さが際立っている)。