おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

タンポポ

2019-10-26 11:01:44 | 映画
「タンポポ」 1985年 日本


監督 伊丹十三
出演 山崎努 宮本信子 役所広司
   渡辺謙 安岡力也 桜金造
   池内万平 加藤嘉 大滝秀治
   洞口依子 津川雅彦 村井邦彦
   松本明子 高橋長英 橋爪功
   藤田敏八 中村伸郎 上田耕一 
   大友柳太朗 岡田茉莉子

ストーリー
雨の降る夜、タンクローリーの運転手、ゴローとガンは、ふらりとさびれたラーメン屋に入った。
店内には、ピスケンという図体の大きい男とその子分達がいてゴローと乱闘になる。
ケガをしたゴローは、店の女主人タンポポに介抱された。
彼女は夫亡き後、ターボーというひとり息子を抱えて店を切盛りしている。
ゴローとガンのラーメンの味が今一つの言葉に、タンポポは二人の弟子にしてくれと頼み込む。
タンポポは他の店のスープの味を盗んだりするが、なかなかうまくいかない。
ゴローはそんな彼女を、食通の乞食集団と一緒にいるセンセイという人物に会わせた。
それを近くのホテルの窓から、白服の男が情婦と共に見ている。
“来々軒”はゴローの提案で、“タンポポ”と名を替えることになった。
ある日、ゴロー、タンポポ、ガン、センセイの四人は、そば屋で餅を喉につまらせた老人を救けた。
老人は富豪で、彼らは御礼にとスッポン料理と老人の運転手、ショーヘイが作ったラーメンをごちそうになる。
ラーメンの味は抜群で、ショーヘイも“タンポポ”を町一番の店にする協力者となった。
ある日、ゴローはピスケンに声をかけられ、一対一で勝負した後、ピスケンも彼らの仲間に加わり、店の内装を担当することになった。
ゴローとタンポポは互いに魅かれあうものを感じていた。
一方、白服の男が何者かに撃たれる。
血だらけになって倒れた彼のもとに情婦が駆けつけるが、男は息をひきとった。
やがて、タンポポの努力が実り、ゴロー達が彼女の作ったラーメンを「この味だ」という日が来た・・・。


寸評
食べ物、あるいは食べることを題材とした映画は少なからず撮られているのだが、その中でも「タンポポ」は間違いなく上位にランクされると思うし、思わずラーメンが食べたくなり、食欲を起こされる作品だ。
オープニングと同時に白服で決めたヤクザの幹部らしい男が映画館に入ってくる。
一番前の席に座るが、子分と思われる男たちがテーブルと共に、シャンパン、フランスパンなどを持ってきて彼の前に並べる。
観覧中のマナーを客の一人に恫喝し、そちらも映画館なのねと観客に話しかける。
映画のための映画であり、これは食べ物の映画なのだと冒頭で示していた思う。
次のシーンはタンポポの小学生の息子であるターボーがイジメにあっていて、それをゴローが助けるシーン。
人は誰かに助けてもらって生きているのだと言うテーマも象徴していたシーンだ。
本線として、未亡人のタンポポ(宮本信子)がやっている流行っていないラーメン店を、流れ者のゴロー(山崎努)らと共に行列ができる美味い店にするという奮闘ぶりが描かれるのだが、食べ物に関するおびただしいと言ってもいいぐらいの話が挿入される。
その脇道が結構楽しめて、上手く本線のシーンと切り替えれていた。
白服の男(役所広司)と情婦(黒田福美)の絡みはエロティックである。
情婦はボウルに入った生きた車海老を腹に乗せられるなど、白服の男の食道楽に付き合っているのだが、卵黄を口移しでやり取りするシーンなどはヌードシーンを必要としない艶めかしさがある。
海辺で少女(洞口依子)から牡蠣をもらって食べるシーンもゾクッとさせられた。

ゴローはガン(渡辺謙)と長距離トラックの運転手をしているのだが、どうやらガンはラーメンに関する本を読んでいるようで、その中に登場する男(大友柳太朗)が具現化して登場し、ラーメンの正しい食べ方を講釈する。
本当かどうか分からないけれど、通はそうして食べるのかと思わせるし、チャーシューに向かって「あとでね」と語りかける場面などにはクスリと笑みをこぼしてしまう。
思わず微笑んでしまうシーンが多いし、皮肉を込めたユーモアも散りばめられている。
ゴローとタンポポがトレーニングしている時に会社員らしい一行とすれ違う。
カメラは二人からその一行に切り替わり、話が本線からわき道にそれていく。
高級レストランらしい店に入った専務(野口元夫)を初めとする一行はメニューがよくわからない。
一人が注文すると皆が知ったかぶりしてそれと同じものを注文する。
カバン持ちの下っ端(加藤賢崇)が専門的な注文をして、重役たちが真っ赤な顔になるのだが、そのメイクが実にオーバーで権威者を笑い飛ばしていた。
聞くのがはばかられるときに、周りの人を見て同じようにする経験は僕にもある。
スイートポテトの糸を容器に入れた水で切るのも分からなくて、僕は指先を洗うものかと思っていた。
マナーを知っていた人の行為を見て、同席していた人が次々とスイートポテトを食べ始めたことを思い出した。

マナー教室の話、母親から健康志向の食事を強要されている子供の話、詐欺師の話、家族の食事を作って死ぬ主婦の話、ホームレスの面々のグルメぶりなど、まるでオムニバス映画を見ているようだった。
伊丹十三は短期間で数多くの作品を撮った監督だが、その中でもいちばん彼らしい作品ではないかと思う。