おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

大菩薩峠 第二部

2019-10-10 08:00:53 | 映画
「大菩薩峠 第二部」 1958年 日本


監督 内田吐夢
出演 片岡千恵蔵 中村錦之助 長谷川裕見子
   月形龍之介 浦里はるみ 丘さとみ
   山形勲 岸井明 木暮実千代
   市川小太夫 里見浩太郎 加賀邦男
   星美智子 東千代之介 片岡栄二郎
   左卜全 上田吉二郎 

ストーリー
紀州竜神の池に近く、お豊(長谷川裕見子)の助けで失明の身を癒す机竜之助(片岡千恵蔵)は、再びお豊の亭主金蔵(片岡栄二郎)を斬り、伊勢古市に身をかくした。
お豊は旅篭備前屋に住み込み、竜之助の治療費をかせごうとするが、折しも宿泊した悪旗本神尾主膳(山形勲)に体を奪われ、自殺した。
その遺書をあずかった芸人娘お玉(星美智子)が、竜之助をたずねて出発しようとした朝、愛犬ムクがくわえているのは主膳の印篭だったので犯人と間違えられて追われる身となった。
彼女を助けたのは猿のような曲芸師米友(加賀邦男)であった。
お玉をのがした米友は捕まり、崖から突き落とされるという刑罰を受ける。
米友を助けたの は窃盗の真犯人・七兵衛(月形龍之介)で、医者(左卜全)の治療で米友は回復した。
お玉からお豊の死を知らされた竜之助は虚無僧姿で江戸へ出発、途中神尾主膳の愛妾お絹(浦里はるみ)にひろわれ、二人は駕篭で清水港へさしかかる。
お玉は女軽業師お角(沢村貞子)の一座に加わり、お君と名をかえるが、そこで再び米友と再会、一方兵馬(中村錦之助)たちも竜之助を追って東海道を上る。
竜之助は山間で、お絹を狙うがんりき(河野秋武)の手を切り落としたが、谷底に転落してしまう。
それを救ったのが、一子蔵太郎をかかえた若い後家の薬売りお徳(木暮実千代)。
山間に身をよこたえ、温いお徳のもてなしで、竜之助にも人間らしい心がよみがえるが、その時この山村を訪れたのが悪旗本の主膳で、郷士の婚礼に無理難題をもちかけ、路金をせしめようとする。
竜之助は槍をとって主膳の家来を殺すが、彼のかくれた魔性が再び頭をもち上げた。
「人を斬りたい……」そうつぶやく彼を、主膳は何と思ったか家来に加え、一路甲府へと向う。
主膳はこの度お役御免となり、後任駒井能登守(東千代之介)が甲府へ到着する予定だ。
主膳の心の中には、どういう計画が熟しているのだろうか。


寸評
どろどろとした人間関係が続くが、業を背負った机竜之介に加えて、素行の悪い旗本の神尾主膳が加わり、話はダイジェスト的に展開していく。
中里介山の原作がそうなのかもしれないし、長編小説を映画化するとこうなってしまうのか知れないが、つまみ食い的にエピソードが描かれフェードアウトで終わっていく。

先ずは殺した妻のお浜とうり二つの女お豊が描かれる。
彼女は竜之介に献身的で、竜之介の目の治療のために旅篭で住み込みの中居として金を稼いでいる。
それを神尾主膳に見染められ病気にもかかわらず酌婦として座敷に引っ張り出され手籠めにされてしまう。
それを悲しみ、竜之介への遺書と金、形見のかんざしをお玉に預けて自殺してしまう。
非業を背負ったような女だが、竜之介はそんなお豊に情けを示さない。
お豊の死を聞いても悲しまず、形見のかんざしもお玉にあげてしまい、神仏を顧みない竜之介の姿が描かれる。

お玉は追われる身となって旅の一座の一員となり、刑死するはずだった米友と再開するなど、一度登場した人物は消えては復活するなどして物語にやたらと登場する。
お玉は神尾主膳にも絡まれるのだが、神尾主膳も女がらみで度々登場する。
がけ下に落ちた竜之介は男児をかかえた若い後家のお徳に救われるのだが、考えてみると男女の間にある業も描きたいのか竜之介はやたらと女性に助けられる。
自分の子供と重ね合わせてお徳の子供を可愛がるが、戯れる姿は父と子の設定だが印象は孫と遊ぶ姿に見えてしまう。
千恵蔵御大の年齢を考えればやむを得ないところだな。
登場人物が多いのもこのシリーズの特徴だ(たぶん原作がそうなのだろう)。

竜之介はお徳の願いを聞き入れて無実の青年を助けようとするが、その時お徳の子供を人質に取られてしまう。
子供を助けるために槍を捨てるが、竜之介の非情性ならば子供の命など犠牲にしたのではないか。
一子郁太郎に対する愛情が湧き始めていたことの象徴だとも思うが、お徳との関係はいくら人間性を取り戻した竜之介の姿を描いていたとしても浮いたものだ。
ここから再び理由もなく人を斬る冥府魔道に落ちていくという展開に僕は少々違和感が生じた。
整理してみるとこの話は、机竜之介を兄の敵と追う宇津木兵馬がいつ対決するのかと、素行の悪い神尾主膳がどのように女をたぶらかすのかに別れているような気がする。
二つを微妙に結び付けるのが女たちという図式が見て取れる。
単純なチャンバラ映画とも言えるのだが、内田吐夢の演出はそうは思わせない無常の世界を描き出している。

圧巻はラストシーンである。
神尾主膳の行列に加わり籠に揺られる竜之介のアップから、突如その籠が四方に開くと真っ青な煙の中である。
その中で苦悩するかのごとく舞う竜之介の姿で第二部は終わる。
次作への期待を抱かせる印象的なラストシーンとなっていた。