おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

誰も知らない

2019-10-21 08:30:19 | 映画
「誰も知らない」 2004年 日本


監督 是枝裕和
出演 柳楽優弥 北浦愛 木村飛影
   清水萌々子 韓英恵 YOU
   串田和美 平泉成 加瀬亮
   木村祐一 遠藤憲一 寺島進

ストーリー
とある2DKのアパートに、スーツケースを抱えた母親のけい子と息子の明が引越ししてくる。
アパートの大家には「主人が長期出張中の母子2人である」旨挨拶するが、実はけい子には明以外の子供が3人おり、スーツケースの中には次男の茂、次女のゆきが入っていた。
長女の京子も人目をはばかり、こっそり家にたどり着く。
子供4人の母子家庭との事実を告白すれば家を追い出されかねないと、嘘を付くのはけい子なりの苦肉の策であり、彼女は大家にも周辺住民にも事が明らかにならないよう、明以外は外出を禁ずるなど、子供たちに厳しく注意する。
子供たちはそれぞれ父親が違い、出生届は出されておらず、大家には小学校6年生と紹介した明も学校に通ったことさえない。
転入当初は、日中けい子が百貨店で働く間に明が弟妹の世話をする日々が続くが、新たに恋人ができたけい子は家に不在がちになり、やがて生活費を現金書留で送るだけとなり、けい子は帰宅しなくなる。
母が姿を消して数か月。渡された生活費も底をつき、料金滞納から電気・ガス・水道も止められ、子供たちだけの生活に限界が近づき始める。
そんな中、4人は遊びに行った公園で不登校の中学生・紗希と知り合い、打ち解ける。
兄弟の凄惨な暮らしを目の当たりにした紗希は協力を申し出て現金を明に手渡そうとする。
しかし、それが援助交際で手に入れた金と知る明は現金を受け取れない。


寸評
父親が全部違う4人の子供を次々に生んで、学校にも通わせないで、ついには置き去りにしてどっかに行ってしまった母親の話なのだが、主人公はその母親ではなく子供達。
母親のドラマは全く描かれていないので、このとんでもない母親を直接的に糾弾するような作品ではない。
ひどい母親なのだが憎みきれないキャラクターで、この母親をYOUが自身の持っているキャラを最大限活かして好演している。
虐待といえば虐待と言えるようなことをやらかしているのだが、そこには家庭内暴力は存在していなくて、むしろこの一家はすごく仲の良い家族のように見える。
そのアンバランスさから生じる異様な世界が繰り広げられるのだが、その間に劇的な事件が次々起きるような構成ではなく、むしろ淡々と子供たちの生活をドキュメンタリー風に写し取っていくので間延び感がある。
母親は彼らを置いて出て行く、そしてしばらくすると戻ってくるが、またいなくなる。
お金だけは定期的に送金してくるが十分でないこともあるので、子供たちは困る事になることを淡々と描く。
それなのに最後にはその間延び感からくる彼らの強さがジワジワと見ている僕の心に染み込んできていたことに気付く。

物語は一家の引越しから始まるが、その引越しの異様さで映画に引き込まれる。
引越し荷物の2つのスーツケースから茂とゆきがでてくるのだが、ゆきの入っているスーツケースはルイ・ビトンなのでまんざら貧乏でもなそうなことがわかる。
母親は子供たちに、「大声で話さない」、「外に出ない、ベランだもダメ」、「明はお母さんが遅い時は皆の面倒を見る」などと約束事を伝えるのだが、子供たちに全くの無関心ではなく、勉強を見てやるし、いっしょになって遊ぶこともするし、子供たちの髪もすいてやる優しさも持っているようなのだ。
しかし、子供たちが学校に行きたいといっても「そんなの行かなくても立派な人はいる」と言って行かせない。
しかし子供たちは母親が好きで、京子にとってはマニュキュアは母の温もりだったのだと思う。

子供たちは自分たちで生活のやりくりをし、閉じ込められた生活の中に喜びを見出していく。
子供たちの日常生活だけで、最後まで引っ張っていってしまう描写力が素晴らしい。
明が悪ガキと知り合ったり、いじめられっ子の女子中学生と仲良くなったりと小さな出来事を描きながらも、カメラは手持ちも含めて彼らの生活だけを描き続ける。
その単調な描き方の中で、ささやかな幸せさえ破綻していくのが切なくなって迫ってくる。
ラストでは明がいじめられっ子の女子中学生とともに、「飛行機を見に行こう」という約束を果たすために、ゆきの入ったスーツケースを羽田に運んでいく。
最初はビトンのスーツケースに入れようとしたが入らない。
「ゆきは大きくなっていたんだね」とつぶやく言葉が胸を突く。
夜の空港を背景に作業するふたりの姿、夜明けの帰り道、重なるテーマ曲。
この一連のシーンは美しくて、悲しくて、切なくて、思わずグッときてしまう。
子供たちのたくましい生命力は、悲惨な運命の中でも小さな幸せを見つけて生かせていくのだと言っているようなラストシーンだが、しかしこんなことで得られるたくましさなど僕は与えたくない。