おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

台風クラブ

2019-10-05 13:23:51 | 映画
「台風クラブ」 1985年 日本


監督 相米慎二
出演 三上祐一 紅林茂 松永敏行
   工藤夕貴 大西結花 会沢朋子
   天童龍子 渕崎ゆり子 寺田農
   佐藤允 尾美としのり 鶴見辰吾
   三浦友和

ストーリー
東京近郊のある地方都市の市立中学校のプールに夜、泰子(会沢朋子)、由美(天童龍子)、みどり(渕崎ゆり子)、理恵(工藤夕貴)、美智子(大西結花)の5人の女の子が泳ぎに来た。
彼女たちは、先に来ていた明(松永敏行)に気付き、からかった挙句に溺死寸前まで追い込んでしまう。
そして、偶然出会った同級生の三上(三上祐一)と健(紅林茂)に助けを求める。
担任の梅宮(三浦友和)も慌てて駆けつけ、生徒たちのいたずらを諭す。
授業中、梅宮の恋人・順子(小林かおり)の母親、勝江(石井富子)と叔父の英夫(佐藤充)が教室に入って来て、勝江は梅宮が順子に大金を貢がせたと大声で話す。
そんな様子に授業は続けられなくなり、教室中に動揺が生まれる。
その夜、大学生で帰省中の兄、敬士(鶴見辰吾)と哲学っぽい問答をした三上は、夜のランニングに健を誘いに行き、明を交えた三人はクラスの女の子の話に興じ始める。
明が目撃した泰子と由美の変な関係、健の好きな美智子のこと、そして三上を好きな理恵のこと。
刻一刻と台風が近付いて来る土曜日の放課後、激しい風雨の中、学校を去る梅宮のあとに校内に残った生徒たちのドラマが始まった・・・。
台風が頭上を通過する時刻、学校に残った生徒たちは、カセットから流れる音楽に合わせて踊り始め、一時の憩いを味わい、そして三上を残して全員眠ってしまう。
日曜日、三上は言葉を残して窓から飛び下り、驚いてグラウンドに走りよる健たち5人。
台風が過ぎ去った月曜日の朝、学校に向かって、理恵とプールで泳ぐという明が駆けて行く。
台風が過ぎた今、彼らはまた普通の中学生に戻ったのだ。


寸評
オープニングのシーンがすごくいい。
暗闇の中でプールのコースロープに挟まれた水面が浮かび上がり、明が静かに泳いでいる。
何人かが暗闇に中をうごめいたかと思うと、ライトに浮かび上がった5人の女子中学生が水着姿でBARBEE BOYSの「暗闇でDANCE」という曲に乗って踊り騒ぐ。
始まってたった1分程しか経っていないにも関わらず、彼女たちの躍動感が映画に刻み付けられている。
あっという間に映画の世界に引き込まれてしまうシーンで、僕はこういうオープニングは好きだなあ。

再見して分かったことなのだが、三上君の死はこの物語で最大の出来事のはずなのに、印象に残っていたのは彼らが踊って騒いでいるシーンだったということである。
冒頭プのシーンに始まり、彼らが踊って騒ぐシーンが何度か出てくる。
そのどれもが無軌道だがエネルギーが充満している彼等を感じさせるものとなっている。
教室でのシーン、体育館の舞台でショータイムのように踊り狂うシーン、圧巻は雨上がりの校庭に出て踊りだすシーンで、騒いでいるうちに嵐が再びやって来て女の子たちが素っ裸になって踊るシーンだ。
遠景でとらえたそのシーンは瞼に焼き付く。

三上は、東大に通う兄に対して「個は死を超越できるのだろうか?死は個の種に対する勝利って聞いたけど」と質問を投げかけている。
そして最後に、「オレわかったんだ。なぜ、リエが変になったか。なぜ、みんながこうなってしまったか。オレはわかった…。つまり、死は生に先行するんだ。死は生きることの前提なんだ。オレたちには、厳粛に生きるための厳粛なしが与えられていない。だからオレが死んで見せてやる。いいか、よくみてろよ!これが死だ!」と言って窓から飛び降りる。
そしてその前に酔っぱらった梅宮先生から電話口で、「いいか、よく聞け若造。お前も15年経ったら今の俺になるんだ!」と言われている。
人間の死亡率は100%で、死なない人間はいない。
死はいつかやって来ることが分かっているので、対極にある生をどう生きるか。
三上は感じていた閉塞感に絶望したのだろう。
閉塞感こそが理恵が変になった原因だったのだと思う。
理恵は東京で出会った大学生と話した時に、「わたし、嫌なんです。閉じ込められるの。閉じ込められたまま年とって、それで土地の女になっちゃうなんて…耐えられないです」と言っている。
それは、「あ?あ、台風来ないかなぁ」という部分とも対応している。

台風一過、清々しい一日が始まっているが学校は休みである。
昨夜の学校での出来事を知らない理恵と明は学校のプールへ泳ぎに行く。
三上の死など関係ないように彼等の普通の生活が始まろうとしている。
見方によっては恐ろしくなるようなラストシーンだ。