おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

タクシードライバー

2019-10-15 08:33:14 | 映画
「タクシードライバー」 1976年 アメリカ


監督 マーティン・スコセッシ
出演 ロバート・デ・ニーロ
   シビル・シェパード
   ピーター・ボイル
   ジョディ・フォスター
   アルバート・ブルックス
   ハーヴェイ・カイテル
   ジョー・スピネル
   マーティン・スコセッシ
   ダイアン・アボット
   ヴィック・アルゴ
   レオナルド・ハリス

ストーリー
トラビス・ビックル(ロバート・デ・ニーロ)はニューヨークのタクシーの運転手である。
ある日、トラビスは大統領候補パランタインの選挙事務所に勤める美しい選挙運動員ベッツィ(シビル・シェパード)に目をつけ、数日後に選挙運動に参加したいとベッツィに申し込み、デートに誘うことに成功した。
だが、デートの日、トラビスはこともあろうに、ベッツィをポルノ映画に連れて行き、彼女を怒らせてしまった。
毎日、街をタクシーで流すトラビスは、「この世の中は堕落し、汚れきっている。自分がクリーンにしてやる」という思いにとりつかれ、それはいつしか確信に近いものにまでなった。
そんなある日、麻薬患者、ポン引き、娼婦たちがたむろするイースト・ビレッジで、ポン引きのスポート(ハーヴェイ・カイテル)に追われた13歳の売春婦アイリス(ジョディ・フォスター)が、トラビスの車に逃げ込んできた。
トラビスはスポートに連れ去られるアイリスをいつまでも見送っていた。
やがて、トラビスは闇のルートで、マグナム、ウェッソン、ワルサーなどの強力な拳銃を買った。
ある夜、トラビスは食料品店を襲った黒人の強盗を射殺した。
トラビスはアイリスと再会し、泥沼から足を洗うように説得する彼は、運命的な使命を信じるようになった。
大統領候補パランタインの大集会にサングラスをかけモヒカン刈りにしたトラビスが現われ、拳銃を抜こうとしたところでシークレット・サービスに発見され、トラビスは人ごみを利用して逃げた。
トラビスはスポートの売春アパートを襲撃し、スポートをはじめ、用心棒、アイリスの客を射殺したが、トラビス自身も銃撃を受けて瀕死の状態になった。


寸評
トラビスはベトナム戦争の帰還兵であるが、どんな戦場であれ帰還兵の精神は異常をきたしており、経験したストレスに悩まされる姿を報じられたり、描かれたりして来ている。
トラビスもそんな後遺症を内在した男である。
危険を気にもかけず、どんな客でも乗車拒否せず、どんなところへでも乗り入れるタクシードライバーとなる。
目を付けた女性には強引に近づく。
やっとデートの約束を取り付け映画館に行ったのだが、その映画はポルノ映画で女性に愛想をつかされる。
眠れない自分が入り浸っていたとは言え、初デートにポルノ映画に誘う神経は異常だ。
あばずれ女ならその後を誘う手段にもなるのだろうが、相手は大統領選を手伝うレディであること思うと、その行動の異常さが分かろうと言うものだが、どうやらその異常性をトラビスは気付いていないようなのだ。
再度気を引こうと花束などを送るが無視され、その事に切れるのだから身勝手もいいとこだ。

トラビスは偶然大統領候補を乗客にした時にも街をクリーンにすることを語るので、彼のその思いは変質的なまでに昇華していたのだろう。
その狂気性をデ・ニーロの不気味な表情と、ダウンタウンの夜の明かりが浮かび上がらせる。
そこから醸し出される雰囲気が作品全体を覆いつくしていく凄みがこの映画にはある。
トラビスの狂気ぶりと変質者ぶりがエスカレートしていき、ガンマニアのように銃器を購入し、取り扱いのアクションを鍛えていくのだが、こうなってはもはやトラビスは”オタク”の世界に入り込んでしまっている。
トラビスの狂気性は幼稚性を兼ね備えていることで、政治思想などとは関係なく大統領予備選候補のパランタインを暗殺しようと行動に出る。
暗殺動機は自分を振ったパランタインの運動員ベッツィに対する腹いせであることが幼稚性を表している。
頭をモヒカン刈りにして、その気分に浸って笑みを浮かべるトラビス=デ・ニーロの姿が気味悪い。
すさんだ世の中になると、このような気味の悪い人間が自然発生的に生まれてきてしまうかのようである。
存外、テロリストなどはこのような単純分子なのかもしれないなと感じてしまう。

暗殺に失敗したトラビスは、今度は方向を変えてアイリスを食い物にしている男たちをターゲットにする。
パレンタイン暗殺と違って、汚れた街を自分がクリーンにしてやるという本来の思いに立ち返ったものだろう。
矛盾に満ち堕落した世の中で、なんとか自分だけは正義でありたいと願う男の行動ではある。
犯行は狂人が起こした無差別殺人のようにも見えるものである。
駆けつけた警官の目にはきっとそのように映ったはずだ。
トラビス自身も標的者から銃弾を浴びていて、警官に見せる態度はもはや狂人だ。
しかしここである種の奇跡が起きて、彼はヒーロー扱いされることとなり、ベッツィとの仲も修復されそうな雰囲気になるが、トラビスは冷静な態度をとる。
かれは正常に戻ったかのような描かれ方なのだが、バックミラーに移った夜の明かりの中に見せる一瞬の表情は、まだまだ彼の中に狂気が潜んでいるjことを思わせた。
一人のタクシードライバーの物語であると同時に、帰還兵の精神に潜んでしまっている狂気の物語でもあり、大都会の闇の一面を描いた作品として、マーティン・スコセッシを映画史にとどめる力作となっている。