おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

太陽がいっぱい

2019-10-13 14:00:19 | 映画
「太陽がいっぱい」 1960年 フランス / イタリア


監督 ルネ・クレマン
出演 アラン・ドロン
   マリー・ラフォレ
   モーリス・ロネ
   エルノ・クリサ
   ビル・カーンズ
   フランク・ラティモア
   アヴェ・ニンチ

ストーリー
トム・リプレイは、フィリップと酔っぱらって近くの漁村モンジベロからナポリに遊びにきた。
トムは貧乏なアメリカ青年だ。
中学時代の友人・金持のドラ息子フィリップを、五千ドルの約束で父親から頼まれて連れ戻しにきたのだ。
フィリップにはパリ生れのマルジェという美しい婚約者がいた。
ナポリから帰ると、フィリップが約束の手紙を出さなかったからアメリカから契約をやめる手紙が来ていた。
友人のパーティーに向うヨットの上で、トムはますます彼からさげすまれた。
フィリップとマルジュはトムが邪魔になっていた。
彼は決意し、まず小細工をして、マルジュとフィリップに大喧嘩をさせた。
彼女が船から下りたあと、フィリップを刺し殺し、死体はロープで縛り、海へ捨てた。
陸へ上ると、彼はフィリップになりすました。
ホテルに泊り、身分証明書を偽造し、サインを真似、声まで真似、金も衣類も使った。
ヨットを売り払う交渉も、親元からの送金を引き出す仕事もうまくいった。
ホテルにフィリップの叔母が現れたが、姿をくらますことができ、別の下宿に移った。
そこに、フィリップの友人が訪ねてきて、何かを察したようだった。
トムは平生から憎んでいたその男を殺し、死体を捨てたが、それは発見され、刑事が調べにきた。
死体確認に集った時、トムはマルジェにフィリップはモンシベロに戻ったと告げた。
トムはモンジベロの家にその夜いくと、フィリップが書いたと思わせる遺書を書き、全部ひき出した預金をマルジェに残して自殺したことにした。
彼は元のトムに戻り、傷心のマルジェをいたわり愛を告げ、結婚することになったのだが・・・。


寸評
少し前の世代はもとより、僕たちの世代になっても美男スターと言えばアラン・ドロンだったのだが、アラン・ドロンは単なるカワイ子チャンのアイドルスターではなかった。
美形でありながら精悍な部分も持ち合わせ、合わせて演技派としての雰囲気も持ち合わせていた稀有な俳優だったと思う。
この作品でも24歳の彼は遺憾なくその持てる魅力を出して作品の成功に寄与している。

先ずはフィリップとトムの放蕩ぶりが描かれるが、二人は友人というよりは上下関係にあることが分かってくる。
フィリップはトムを便利使いしていて、トムはそのことを不満に思っているが表には出さない。
二人の関係が徐々に壊れていく描き方も中々のものである。
トムは隙を見てフィリップの靴を履きジャケットを着てみるが、それをフィリップに見つかる。
そこからはトムがフィリップに抱いていく殺意が徐々に膨らんでいくのだが、そのあたりの二人の心理描写が巧みで、観客である僕たちは彼の心の奥底を読み取るようになっていく。
ヨット上で起こる出来事でサスペンスとしての盛り上がりを見せる。
マルジュが下船し、二人きりになったところでトムがフィリップを殺害すると海は荒れ始める。
死体の後始末をするトムの様子と、波しぶきと共に大きく揺れるヨットの映像が興奮を掻き立てる。
一連の映像処理はクレマンの力量発揮したシーンとなっていた。

その後はいかにしてトムがフィリップに成りきるかに興味が移る。
パスポートを偽造し、サインを真似るために練習を繰り返す。
声まで真似するようになるが、その間にピンチがないわけではない。
それらのピンチをあの手この手で切り抜けていくが、それも心理的に迫ってくるような描き方だ。
最大のピンチは第二の殺人を犯さざるを得ない状況に追い込まれてしまったことなのだが、すでにフィリップに成り切っている彼は「フィリップがやったことなのだ」と、さらに状況証拠作りを行っていく。
サスペンス映画としては一番それらしく仕上がっているシークエンスだ。
やがて刑事が現れ、興味はトムが逃げ切れるか、すなわち欺き通すことが出来るかが焦点となる。
状況の変化に無理がなく、徐々に徐々にと映画の世界に引き込まれていく演出は巧みだ。

トムとフィリップは自分が持っていないものを相手が持っているという妬みをお互いに抱いているのだが、そのホモセクシャル的な関係が物語の底辺を支えていた。
二人の間に割って入るマルジュの性格設定もスパイスを効かせていたと思う。
目のアップが随所に出てきて、当人達が今何を考えているのかと推察させる。
パターンとしては、完璧と思われたことがほころびを見せ破局へ向かうのが通常だ。
そう思って見ているが、もしかして成功するのではと思えてくるほどトムの筋書きは上手くできている。
さげすまれていた彼が「太陽がいっぱいで今が最高だ」という気分になったところで映画は終わるのだが、ラストシーンで呼び出されたトムが見せる笑顔がその後を想像させ素晴らしい。
二ノ・ロータのテーマ音楽はそんなに流れないのに耳に残る名曲だ。