蟋蟀庵便り

山野草、旅、昆虫、日常のつれづれなどに関するミニエッセイ。

早春の幾何学模様

2016年02月07日 | つれづれに

 春が立った。

 乱調気味の今年の冬である。39年ぶりの25センチの積雪、雪解けの屋根から落ちる雪爆弾…八朔を20個ほど叩き落とし、ラカンマキの垣根をずたずたにして、ようやく雪の塊が溶け消えたのは6日後だった。
 木枯らしは依然続く。知人が手作りして届けてくれた恵方巻きを南南西に向かって黙々と食べ、暦の上の「名のみの春」が立った翌日、出入りの植木屋に頼んで八朔を捥いでもらった。
 以前は、身をよじりながら木に登って自分で収穫していたが、無理が嵩じて左肩の腱板を断裂、内視鏡手術で2ヶ月入院と6ヶ月のリハビリに明け暮れる羽目になって以来、出入りの植木屋に頼むことにしている。
 緑の葉に隠れていた夏の頃は、今年は不作、せいぜい数十個かな?と諦めかかっていたが、秋が深まり色付くにつれ数が増し、例年より小ぶりながら、最終的に170個の収穫となった。
 植木屋の説によれば、農家では12月に収穫して、木陰に藁を敷いて上に蓆を被せ、雨風に曝して3月ごろ市場に出すという。そのくらい寝かせた方が甘く美味しくなると言い張る。
 我が家では、使っていない仏間に新聞紙を拡げて転がし、2週間ほどで食べ始める。「それでも充分に美味しいよ!」と言ったら、植木屋は「1週間ごとに食べてみて、一番おいしい時期を見付ける」と我を張る。毎年恒例の言い争いを楽しみながら収穫を終えた。
 見栄えはともかく、味では定評がある我が家の八朔である。

 ネットで引いてみると、こんな記載があった。
 <ハッサクの収穫は12月頃から始まります。通常は2月中旬位には収穫を終えますが、完全に木成りで完熟させたものは3月中旬頃が収穫時期となります。
ハッサクは通常収穫後1カ月から2カ月程貯蔵され、酸味が落ち着いてから出荷されます。「八朔」とは、旧暦の8月1日の事で、昔は毎年その時期から食べられるようになることからこの名が付いたとされていますが、今ではさすがにそんな真夏には食べられません。
 最も美味しく食べられる旬は2月から3月です。また完熟ものは3月から4月中旬位までとなります>

 勝負あった。しかし、わが家は我が家なりに、好みの酸味で味わうことにしよう。

 雪爆弾に落とされた20個、植木屋にお礼として持ち帰ってもらった20個、そして枝先高く採りにくい20個あまりを鳥の為に残して、部屋に転がした数は110個ほどになった。暫く寝かせて、3月まで食べ続けても食べ切れない数である。また例年のように、幾つかを刻み煮詰めてマーマレードに練り上げることにしよう。
 大きさの順に並べて、綺麗な幾何学模様を写真に残した。「本当の春」になったら、また油粕と骨粉の混合肥料をお礼肥えに埋める。

 間近に迫るほど、待ち遠しいのが春である。寒波にも倦んで、雨や雪の多い毎日に山道の散策からも遠ざかる日々に疲れてきた。

 また雪になった。燈篭の上に置いた二つ割のミカンが、みるみる雪に覆われていく。先程まで啄んでいた2羽のメジロは、柊の枝陰に避難して「あゝ、ボクの朝ご飯が……」と、寂しげに啼いている。
 島田の山奥に住む家内の友人から、「オオイヌノフグリが咲きました!」という便りが届いた。
 そうだ、空が晴れたら、天神山散策路に春の便りを探しに行こう。
                      (2016年2月:写真:我が家の八朔)

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