蟋蟀庵便り

山野草、旅、昆虫、日常のつれづれなどに関するミニエッセイ。

原野を歩く―脱・日常を探して(その2)

2010年01月10日 | 季節の便り・旅篇


 野性豊かな国である。広大な国土を有する余裕でもあろうか、娘の家から20分ほどRaguna Beachへの道路を下ると、広漠とした砂漠(土漠)地帯Laguna Coast Wilderness Parkが、一切人の手が加えられない野生の保護区として広がっている。夜走ると、まるで深山を抜けるような闇の空間である。潅木とサボテンだけが生える起伏の多い原野に、幾つものTrail(トレッキング・コース)が作られ、短くは1時間、長いところでは終日掛けて海まで出るコースもあり、入り口のボックスには地図まで用意されている。野鳥達ばかりでなく、ガラガラヘビや原始の姿を残すトカゲ、マウンテン・ライオンまで生息するという、まさしく野生保護区である。

 ザイオン国立公園への4泊5日のロング・ドライブまで、高齢の私達の為におよそ1週間の慣らし期間を娘が配慮してくれた。
 2日目、12時間の爆睡から覚めた。マサ君が作ってくれたサンドイッチでブランチを済ませ、34度の炎天下、娘と二人で汗を滴らせながら玄関先のテラスのタイル磨きをした。アメリカ西海岸も異常気象が続き、私達が着く前日までは雨で寒かったという。後日、乾燥しきった山野が、毎年のテレビ報道でお馴染みの山火事で燃え盛った。寒暖繰り返しながら、いずれにしろ此処は砂漠地帯である。東には遠くモハーベ砂漠が広がり、乾燥した大気が皮膚をかさつかせ、絶えず水やジュースを飲んで水分の補給を施さなければならない。しかし、高温多湿に弱い家内にとっては嬉しい別天地。よほど気候が身体に合っていたのだろう、一番心配していたのに、49日の滞在中終始元気だったのは家内だけだった。
 マサ君の野球チームの試合を見に行ったり、日本食スーパーの中にある「山頭火」でラーメンを食べたり、歩いて25分のグロッサリー(食料品店)に空のザックを担いで買出しに行って、サブウエイでサンドイッチを買ったり、スタバでコーヒー・ブレイクしたり、郵便局まで切手買いに行ったり、お馴染みの寿司屋「鯉」でタカさんの握る寿司や生牡蠣を堪能したり、Raguna Beachの海沿いのオープン・カフェ「ハイデルベルグ」でランチを食べ、パーム・ツリーが紺碧の青空に映えるビーチを散策したり、公園の野性の野うさぎと戯れながら、太平洋を真っ赤に染めて沈む夕日を見送ったり……これがアメリカでの日常だった。
 
 Laguna Coast Wilderness Parkには、Orange county唯一の自然の湖がある。湖と言うより池というのが似つかわしいような小さな湖水だが、車の音も届かない静寂の空間である。21日、娘と二人で2時間のTrailに出た。道路脇に車を置いてWood’s Endという入り口から潅木の間に開かれた山道を暫く登ると尾根に出る。遠くにハイウエイを見晴るかす尾根筋に案内板と注意書きがあり、「犬やバイク、自転車は禁止」とある。道端に散見される動物の糞は、確かに犬のものではない。季節的にガラガラヘビは無理かもしれないが、何か野生との出会いを期待しながら尾根を歩き、Barbara’s Lakeを目指した。日差しはまだ強く、真夏のトレッキングはかなり厳しそうだ。ゴミムシ風の甲虫が一匹、道を歩いていた。
 決して景観や草花を愛でるコースではないが、春には一面黄色い花に覆われ、それなりの季節感を味わえるという。以前、娘から送ってきたガラガラヘビや恐竜の面影を残す爬虫類の写真を思い出しながら、山道を下った。湖まで往復2時間、数日後に迎えるZion National parkの絶壁の岩峰Angels Landing登攀の足慣らしだった。
 湖面を数羽の水鳥が滑っていく。湖畔の潅木の枝に、既に巣立った鳥の巣が二つ……この日巡り合った、数少ない野性の一端だった。
            (2010年1月:写真:原野のサボテンとハイウエイ)

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2 コメント

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Unknown (わさび)
2010-01-15 16:27:50
34度の炎天下のトレイル、
ご隠居さんは、パワーがあるなあ~!
それに49日間異国で全く元気だったととろさんにもバンザ~イ!!です\(^_^)/
そういう私も、風邪引きで香港へ
向うに居る時は風邪治ってしまって、日本へ帰ったらまたぶり返しました(^^;) 
やっぱり、暖かいのはいいですね~♪
ロスって、そんなに暖かいとは知りませんでした。

ガラガラヘビらライオンに遭遇しないで、嬉しいような・・・物足らないような・・・どちらでしたか(^_-)☆
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母は強し! (蟋蟀庵ご隠居)
2010-01-15 17:35:10
わさびさん
 滞在中ずっと食事の支度に励んでいたととろサンは、持ち込んだリレンザやタミフル(保健が効かずに、高かったァ!!!)をよそに、元気元気の49日でした。仕事で疲れて帰ってくる娘達が一番喜んだのは「わぁ、ご飯が出来てる!」でした。「娘夫婦との生活を楽しむ」という今回の旅の目的。生き生きと台所に立つ毎日でした。幾つになっても、母は母ですね!
 ご隠居は、歩く、登る、潜る、呑んだくれる、くたびれる、食べて寝る……ハハハ、だらしないこと!
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