蟋蟀庵便り

山野草、旅、昆虫、日常のつれづれなどに関するミニエッセイ。

夏燃える……競演?狂騒?~饗宴!

2019年07月17日 | 季節の便り・虫篇


 月1回の読書会「はしばみ会」で、「伊勢物語」を詠み始めてもう2年になる。125段のうち、今月で63段を読み終え、ようやく半ばを超えることになった。このペースだと、あと2年で読了するだろう。
 私が参加してから、この20年で「古事記」、「おくの細道」、「枕草子」、「中国故事成語」、「伊勢物語」と、全て原語を音読し、講師は招聘せずに、仲間同士で解説し合って全文読むことを必須にしてきた。間で、時にはカミさん解説で歌舞伎のビデオを観たり、名作映画のビデオを鑑賞したりもする。7割勉強、3割お喋り、8月と12月はお休みという女性ばかりの和やかな会に、リタイア後に会員のカミさんにくっついて行って、緑1点として参加させてもらっている。「古事記」の時は、神話の故郷・宮崎県高原町を訪ねて、2泊3日のドライブ旅行をしたこともある。ガリ版刷りの資料作りから始まって、もう40年の歴史を持つ会である。
 私が担当してきたものは、「おくの細道」と「中国故事成語」、そして今回の「伊勢物語」である。平均 年齢70歳を超える仲間たちだから、文庫本では目がツラい。だから、昭和63年刊の角川文庫を原典に、「原文、脚注、補注、現代語訳」を、虫眼鏡片手にPCでフォント12Pの資料に打ち替える。A4で8ページ~10-ページを作成するのに、一日を費やす。原本は、もうバラバラ寸前である。目にはツラいが、これが私のボケ防止にもなっているのだろう。

 歩いて5分、車で2分の近場、太宰府天満宮大駐車場の前にJA直営の「ゆめ畑」という小さな道の駅がある。さすがに野菜の鮮度は、何処のスーパーにも負けない。それぞれ生産者の名前が書かれたさまざまな野菜が朝から次々に運び込まれる。採れる時は何処の畑もほぼ一緒だし、同じ野菜が大量に並ぶから、時に選ぶのに難儀する。
 長く通っていると、例えばこの野菜は誰々さんのがいい、地鶏のかしわお握りは誰々さんのが美味しい等という評判が囁かれるようになる。
 昨日、玄関の泡盛の古酒が入っていた壺屋焼きの壺に差す花を探しに寄った。底の深い大きな壺だから、お花屋さんに並ぶ普通の切り花では、短かすぎて格好がつかない。「ゆめ畑」には丈の高い花や木ものを置いてあるから、花が好きで玄関の演出に気を配るカミさんは、定期的に「ゆめ畑」に通うことになる。
 「えッ?」……一角にラッキョウが山積みになっていた。こんな時期にラッキョウ?Y農園の奥様が、我が家の為に丹精込めて育てて下さったひと畝分を漬け込んだのは、最盛期の5月だった。もう美味しく漬かったものを、毎日カリカリ食べているのに、この時期に?と驚きながら、1年分には少し足りないかな?と思っていたから、1キロ買い込んで早速その日のうちに処理して漬け込んだ。

 庭の落ち葉掃きの夕暮、八朔の下に見慣れた穴を見付けた。辺りを探すと、紫陽花の葉裏に1匹のクマゼミの幼虫がしがみついていた。こんな早い時間に、慌てものの1匹だった。
 夕食後、気になっていたガスレンジ回りと、フード換気扇の掃除を始めた。取り外し、油汚れを綺麗に拭きあげて終わったのは9時過ぎだった。昼間31.2度の暑さの夜である。汗まみれになって、カメラ片手に庭に下り立った。
 4時間を費やして、見事なクマゼミが誕生していた。翅脈にはもう体液が行きわたり、透明な淡い緑の翅がすっきりと伸びた初々しい誕生である。朝には褐色に染まった逞しい姿になって飛び立ち、日が高くなる頃には、「ワーシ、ワシ、ワシ、ワシ♪」と、命を繋ぐ伴侶に届けとばかりに声高く鳴き始める。アブラゼミの「ジリ、ジリ、ジリ、ジリ♪」との競演である。最盛期には、姦しいというほどの狂騒になる。
 転寝を妨げられても、我が庭で生まれた命と思えば、私にとっては何よりもの宴……
饗宴なのである。
 黄昏時には狂騒は鎮まり、代わって遠く石穴の杜で「カナ、カナ、カナ♪」ヒグラシが夜を手繰り寄せる。
 蝉に明け、セミに蝉に暮れる日々が始まった。夏が燃える。
                  (2019年7月:クマゼミの誕生)

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2 コメント

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道の駅、良いですよね! (wacky)
2019-07-17 14:05:29
まあ、道の駅が歩いて5分だなんて、なんて羨ましい!!道の駅、大好きです。

と、御隠居様のブログの主旨から、すぐ離れた所に反応してしまう私。申し訳ございません。

「クマゼミ」耳にも目にもかかったことがない気がするのですが・・・
子供の頃に、(たぶん、6歳ぐらい)アブラゼミの羽化みたのは今でも思い出になってます。
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クマゼミの北上 (蟋蟀庵ご隠居)
2019-07-17 21:55:46
wackyさん

 クマゼミは元々関東にはいない蝉ですが、近年は九州で育てられた街路樹が関東に運ばれて植え込まれることにより、土について一緒に運ばれた幼虫が誕生し、次第に関東に進出し始めました。
 おそらく、温暖化も北上を促しているのでしょう。

 いずれ遠からず、そちらでも聞かれるようになることでしょう。豪快な鳴き声を楽しみにお待ちください。
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