蟋蟀庵便り

山野草、旅、昆虫、日常のつれづれなどに関するミニエッセイ。

燃え尽きた夏…(その2)

2008年07月14日 | 季節の便り・旅篇

 泊港午前9時。……高速船「クイーン座間味」に乗り込む頃、既に苛烈な夏の日差しは、頭頂を叩きつけるような勢いで降り注いでいた。西方40キロの海上・慶良間諸島・座間味島に向かって、双胴の高速船は50分で突っ走る。紺碧の海に入道雲が沸き立ち、沖縄は豪快な真夏の様相を呈し始めていた。
 港を出て外洋に走り込むと、珍しく大きなうねりが船を揺すり、時折頭が真っ白になる。叩きつける波しぶきが船窓を覆い尽くす。今日は偶然、座間味から那覇へのサバニ・レースの日だった。座間味の友人から「8時に古座間味ビーチから一斉にスタートしました。途中で擦れ違うと思います」というメールが届いた。このうねりの中で、漕ぎ手を乗り換えさせながら、4時間あまりかけて漕ぎ続けるのは大変な難行だろう。やがて左手遠くの島伝いに、沢山のサバニが長くばらけながら帆を掲げて過ぎていった。

 エメラルド・グリーンとコバルト・ブルーの美しいグラデーション、座間味の島を取り巻く海は限りなく美しい。真っ青な空と湧き上がる入道雲、その下にちりばめられた島々。世界でも有数の美しい珊瑚礁に囲まれた島々である。港で友人夫妻と、3泊世話になる民宿「パティオ・ハウス・リーフ」の息子さんの一明さんが出迎えてくれた。4年ぶりに会った友人のご主人は小気味良いほどに黒く日焼けし、歯だけが真っ白に輝いている。(実は彼は、島で唯一のデンタル・クリニックの先生である。)ダイバーでもある一明さんは、ちょっと小太りになっていた。懐かしさに、思わず顔がほころんでしまう。
 2台の車に分乗し、海岸沿いに5分ほど離れた阿真に向かう。「マリリンに逢いたい」という映画が、かつてこの島で撮影された。シロがマリリンに逢いたさに、隣の阿嘉島から3キロの海峡を泳いで渡るという、実話に基づいた犬の純愛物語である。そのマリリンの像が、道端で迎えてくれる。一明さんも子供の頃、エキストラで撮影に参加したという。(実はこのシロ、純愛には程遠く、阿嘉島にも座間味島にも、更に那覇にさえ子種を残しているというから楽しい。大らかな沖縄らしい裏話である。)

 民宿に荷を置き、友人のお宅で手作りのお昼をごちそうになって、さあ、いよいよ待望の座間味・初ダイブを迎えた。民宿から程近い阿真の港から、小船で沖に向かう。既に20年近くダイビングを重ね、何度も座間味で潜っているという私よりご年配のご夫婦と、娘夫婦に私、それにインストラクターの一明さんと助手の淳君7人である。一明さんの操船で5分も走れば、もうそこがダイビング・スポット。慶良間諸島には、選択に困るほど沢山のダイビング・スポットがある。メキシコ、カボ・サン・ルーカスのランズ・エンド以来7ヶ月振りに潜る初心者の私を気遣って、比較的容易なスポットを選んでくれた。小さな無人島の島影の「アダン下」というポイントが、私の日本初ダイブの舞台となった。
 5ミリのウエット・スーツを着込み、装具を点検してエア・タンクを背負い、6キロのウエイトを腰に巻き、ブーツにフィンを履き、マスク、シュノーケル、レギュレーターを手で押さえながら、船べりから憧れのバックロール・エントリーで海にはいった。水温28度、冬のカリフォルニア・カタリナ島の16度、メキシコの24度に比べて、なんて温かい海なんだろう。それでも、透明度20メートルの澄み切った水は、焼けた肌に心地よかった。「3人で座間味で潜ろうね!」という、昨冬の娘との約束がこうして果たされたのだった。
 久しぶりの耳抜きにも、やがて慣れた。淳君がバディーとして、ぴったり脇についていてくれる。アドバンス・スキューバ・ダイバーの資格を持つ娘も、インストラクターとしてカリフォルニアで高校生に教えているマサ君も、私を見守ってくれている。レギュレーターでゆっくりと呼吸しながら、徐々に深度を稼いでいく。見上げる海面は日差しを浴びてキラキラと輝き、その中を呼気の泡がゆらゆらと立ち上っていく。

 ……夢にまで見た座間味の海でのダイビングが、今始まろうとしていた。
           (2008年7月:写真:ダイビング・ボート、海へ)

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1 コメント

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次の夢は? (わさび)
2008-07-26 00:08:04
>「3人で座間味で潜ろうね!」という、昨冬の娘との約束がこうして果たされたのだった。
みごと、夢がかなっておめでとうございます!
さて、次の夢はのダイビングスポットは、どこかな?
エジプトの紅海?
それとも、グレートバリアリーフかな?
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