蟋蟀庵便り

山野草、旅、昆虫、日常のつれづれなどに関するミニエッセイ。

雛桔梗

2020年04月16日 | 季節の便り・花篇

 ヒナギキョウ、可愛い花だった。20年来山野草を追っかけてきたが、初めての出会いだった。博物館導入路の道端の草叢の間に数本が風に揺られていた。
 帰って早速「九州の野の花」図鑑「春編」を開いてその名前を知った。(季節別色別で花を探せる、優れものの図鑑である。もう、使い込み過ぎてページがばらけかかっている)帰化植物である。ネットの解説に、「北アメリカ原産。1931年に横浜市で帰化が報告され、その後、関東地方以西で散発的に見いだされている」とある。

 束の間のコロナ離れの癒しの時間を共有しようと、カミさんを誘って「野うさぎの広場」まで歩いた。運動不足で少し脚力が落ちているカミさんをいたわり、いつもよりゆっくりと歩く。
 マイストックの枯れ枝を2本取り、広場への道を歩く。カミさんが、友達から掛かって来た電話に応えながら歩ける速さである。
 無人の空間に、珍しく一人歩く中年のご婦人がいた。道を尋ねられ、距離を置きながら答えるついでに、「行き止まりに小さな広場があります。たまに野うさぎが遊ぶ姿を見たり、駆け上がる猪に出会うこともあります。私の秘密基地で『野うさぎの広場』と名付けました。この山道は『囁きの小径』と言います。」と話したところ、「使わせてもらっていいですか?」と尋ねてくる。短歌を詠みに訪れたという。

 木漏れ日の下には、足の踏み場に困るほどハルリンドウが散り咲いていた。うらうらと注ぐ日差しは温かく、シートを敷いてミルクティーで喉を潤す。キュルキュルと、小鳥を呼ぶ笛を鳴らす。幾本か立ち残っている蕨を摘む……いつも通りの時が流れるうちに、広場の向こうで歌を詠んでいたご婦人は、いつの間にか姿を消していた。いい歌が出来るといいな。

 不幸にして、心地よさは長くは続かない。桜見で散々叩かれたのに、またアキエがバカをやったらしい。「コロナで予定がなくなったから」と、感染拡大中の大分県・宇佐神宮に参ったという。ろくにマスクも着けない50人ほどのツアー客と共に。女房ひとりコントロール出来ない男が統べる日本の不幸!
 マスクが配られ始めたらしい。「小さすぎて、不安」という反響が出ていた。そういえば、最近総理だけがやけに小さなマスクをして登場している。鼻の頭と口元がやっと隠れるようなマスク姿に、周囲との違和感を覚えていた。そうか、これが件(くだん)の「アベノマスク」か!

 所得制限なしに、全国民に10万円を配ることが急遽決まりそうだ。公明党からの強い申し出に、総理が押し切られたらしい。その公明党が、「支持団体からの強い要請がある」という。見え見えの選挙対策ではないか。その額12兆円!所得が減ったところに支給するはずだった30万円をやめるというから、この右顧左眄する朝令暮改・支離滅裂の場当たり政策に開いた口がふさがらない。少なくとも、年金生活の我が家には不要の金である。
 安倍よ、お前さんも10万円もらう気かい!必要性と緊急性を、もっと真剣に見ろよ!

 最後に、15日付の西日本新聞「春秋」を転載する。マスコミは、こんな毅然とした国政批判の姿勢を失ってはならない。

 「あなたはルイ16世か」とこき下ろされた。安倍晋三首相が投降した動画である。星野源さんの歌に合わせ、自宅のソファーで愛犬をなで、お茶や読書を楽しんでいる▼新型コロナの感染防止に、率先垂範で外出自粛を訴えた。「いいね」の一方で、厳しい声も。「家でくつろいでいたら食べていけない」「休業で仕事を失った」「店がつぶれそう」「早く感染確認の検査を受けさせて」…苦境にあえぎ、支援を求める人々から、首相の「無神経ぶり」への反発が次々と▼優雅にも見える動画がフランス革命時の国王夫妻を連想させたか。王妃マリーアントワネットは「パンがなければお菓子を食べればいいのに」と言ったとされる。貧困と食糧難に苦しむ国民を尻目に、ベルサイユ宮殿で優雅に過ごした王妃と、花見自粛のさなかに桜を愛でながら会食を楽しんでいた首相夫人は、どこか重なる▼ルイ16世は無能ではなく、政治には積極的だった。だが、対応が後手に回ったり、中途半端だったりし、財政を悪化させるばかり。革命が勃発した日、「何もなし」と日記に書いて寝てしまった。当事者としての感覚はかなりずれていたようだ。▼在宅動画といい、466億円をかけた全世帯への布製マスク2枚配布といい、こちらもピントは、ずれ気味か▼星野さんの人気に乗っかった演出より、自宅でくつろぐことすらできない国民に寄り添う指導者の姿が見たい。

 そんな姿は、多分永遠に見られないだろう。雛桔梗に癒された後だけに、醜いっ政治の世界に腹立たしさだけが一段と加速した。
 そして今日、緊急事態宣言は全国に発せられる事態になった。遅きに失した。
                               (2020年4月:写真:路傍の雛桔梗)