木の芽(山椒の葉)
いつのころからか甘え癖がついてしまった。
新聞に投稿したらその翌朝から、早朝電話が鳴るのを待つ。ひたすら待つ。
7時半、7時45分、8時・・・電話が鳴らない。ア~ア今日も掲載されなかったのか~
長い間新聞投稿から遠ざかっていた。ネタはいくつかあっても本気で書く気持ちにさせられないほど、他にやらなければならないことに追われていた。
そんな多忙からやっと解放され、久しぶりに気が載った作品として投稿したつもり。
なのに待っても待っても載らないと、己の未熟さを忘れていつしか選者のセンスを疑ってみたくなる。今日も7時50分になっても電話が鳴らない。
下(階下)へ降りて自分で新聞を開く。オッ!あるじゃん名前が!!
久々の投稿はまるで新人気分でおどおどする。新しく赴任してきた選者と初めて気持ちが通じ合った瞬間。やっと分ってくれたのか・・・とひと安心、というか有頂天。
いつも早朝電話を頂くあのお方にこちらから掲載のお知らせをしようか。待てよ、自分の掲載を自分の口から言いふらすのも気が引けるな~ どうしよう・・・
そこへタイミング良くあのお方から電話が入る。「もしもし・・・ ・・・」後はお決まり。褒められたり褒められたり、皮肉られたりまぜっかえされたり、そして最後はまた褒められる。
そんな一喜一憂する250字の世界。次の通り。
『隠し味』
みそ汁に浮かぶ青い小さな葉っぱ、この季節ならではの味わいが朝から元気をくれる。
そんな木の芽どきになると、我が家流の岩国寿司が何度となく食卓を飾る。
私の母から受け継いだ伝統の味は十分クリアしていると思うのに、さらにひと工夫。
風味豊かな木の芽を寿司の表面に散りばめ、旬の味に仕立て上げる。
この味は隣近所にも喜んでもらっている。
時には寿司がタケノコに化ける。タケノコが木の芽あえに姿を変える。
何十年変わらず作り続けるかみさん。
「うまいね」だけでいいのだろうか、と時々・・・・・・。
2012.5.15 毎日新聞 はがき随筆 掲載