一本のつぼみを残して満開のアマリリス
水無月ついたちは、倅夫婦の二人目の女の子、私たちにとって最後の孫ちゃんの誕生日である。小学校2年生8歳になる。お誕生祝は自分ちではなく、どうしても岩国のばあちゃんちでやりたいということで、倅夫婦も根負けして急遽里帰りして来た。彼女の本心は、爺ちゃんの手を引っ張って大型文具店に行き、あれこれ欲しい小物を「誕生祝として買って欲しかった」のである。もちろん婆ちゃんには、自分の好みの食べ物をいっぱい作ってもらいたい。お祝いのバースデーケーキは、お母さんが婆ちゃんと相談しながら作ってくれる。なんとまあ周到な計算に基づいた、誕生日のタイムスケジュールが出来上がっていたようだ。
ところが間の悪いことに、ジジ・ババはたまたまこの日は「ちょっとお出かけ」が予定されていた。爺ちゃんと一緒の買い物は、次に里帰りしたときにいっぱいいっぱい買ってあげるね、ということで折り合いをつけた。婆ちゃん手作りの料理も次回に回された。母さんの手作りの美味しいケーキは予定通り出来上がった。お出かけから戻った私たちも交えて「ハッピーバースデー」を大きな声で歌って、ケーキを美味しく頂いた。
こんなに慌ただしい日になるとは思っていなかったし、早くからの予約でもあったので、後ろ髪を引かれながらも時間通り出かけた。
その行先は、『心を結ぶ音の架け橋』と題した山口県警察音楽隊&赤川優子ソプラノ歌手のコラボレーションであった。国際ソロプチミスト岩国認証45周年記念演奏会で、会の運営に携わるお方から「必ず行ってくれる人にお渡しするのよ」と念を押された曰くつきのコンサートだった。
久しぶりに肌で感じる大ホールでの生演奏、ソプラノ歌手の胸のすくような高音域の美声に酔った。
孫ちゃんのおねだりには応えてやれなかったが、ジジとババの大いなる息抜きになった。
出かける前、戻った後のババ殿の忙しさは半端ではなかったが、まとわりつくように甘える孫ちゃんの声には、忙しさを忘れさせる魔力が隠されている。