花紅柳緑~院長のブログ

京都府京田辺市、谷村医院の院長です。 日常診療を通じて感じたこと、四季折々の健康情報、趣味の活動を御報告いたします。

竹の水揚げ│「竹庭と竹・笹」

2019-09-15 | アート・文化


農学博士の上田弘一郎・吉川勝好両先生共著の『竹庭と竹・笹』は、美しい多くの写真と共に、竹の種類、本質や特性の学術的解析から竹を生かした庭園や公共造園における利用実態、竹を巡る文化・芸術の方面まで、あらゆる知識が詰まった竹のバイブルである。本書の《竹の優れた珍しい特性(基礎知識)》の章に、末尾に全文を掲げた水揚げに関する詳細な論述がある。虚心と詠われた節間空洞に命の水を灌ぐ「節間注水」が、自然科学的な立場から“野にあるように”竹を生ける要諦である。

これまでの大和未生流華展で担当させて頂いた太い竹は、あらかじめ専門家の手によって、本書に記載された「いちばん下の節を残して、上方の節をすべて金棒でうちぬいて上方から水をいれてもよい」の処理済である。これらの経験についてはすでに報告した《竹を生ける│大和未生流の稽古》(2015/9/21)を御参照賜れば幸いである。十月初頭、開催予定の奈良華展後期に流派の一員として出瓶予定であり、再び竹をとの嬉しい御指示を頂戴して身の引き締まる思いである。

「竹の水あげは空洞と節のある竹の特技であるが、このことを知らないひとが意外に多い、応用としては、枝葉つき竹では、いけ花、七夕、室内装飾など。枝葉のついた根つきの竹では、母竹の移植(庭植え)、観賞用に短期の植えつけ(博覧会など)である。浅野二郎博士、真鍋逸平教官や筆者らは、終戦直後に竹の研究をはじめた頃にアイソトープP32による養分のうごきのしらべを行ったとき、この試験液を竹の節間空洞に注入して成果をあげることができた。
 竹は切口から水を吸いあげにくいので、竹のいけ花はできないものとして活用が阻まれている。また造園面でも母竹の移植に節間注水による応用を知らないひとが多く、竹の造園的な活用を阻む一因となっている。竹が切口から水を吸いあげにくい訳は、水を吸いあげる通路となる維管束にある数多くの道管の穴が大きく、切口からは気体は吸うても液体は吸いあげにくいからである。(「竹の生長」の項参照。)ところで節間空洞の水は、その圧力で節の維管束の道管から稈の道管を通り、緑葉の蒸散による吸引力の手助けによって吸いあげられて緑葉にいき、葉の緑を永く生き生きさせることができる。
 つぎに、生花の水上げや母竹の移植などのとき、緑葉を永もちさせるのに節間空洞への注水方法のあらましを述べよう。まず竹のいけ花に当たっては、枝葉つきの若い青竹を切りとり、適宜枝葉を間引いて稈の下方(枝下)2~3の各節間の上方に錐で小さな穴を2つならべてあける(1つは気体の出口、1つは注水口)、ついで1つの穴から注射器で水をたっぷり注入する。あるいはいちばん下の節を残して、上方の節をすべて金棒でうちぬいて上方から水をいれてもよい。のち吸水で減った水を補えば、永く緑葉を保たせることができる。竹が細くて節間に注水の水をあけにくいときには、切りとったら直ちに枝葉を適宜間引いて切口を水に浸すと、いくらか水あげされて緑葉がかなり永もちする。
 母竹を移植するに当たっては、地下茎や根が切られているので、枝葉が間引かれても根からの吸水と葉からの蒸散のバランスがとれにくく枯れやすい。このとき節間注水は効きめがある。とりわけ竹に枝葉を多くつけて植えつけと同時に美しい景観をつくりだすコツは、稈の節間空洞への注水を行なうことである。このとき注意したいのは、母竹を植え付けてから1か月くらいは新しい根が出ないので、そのあいだ減った水量をときどき注水して補うこと。葉がしおれかかってからの注水は効きめがうすいことを特記しておく。」

(9. 竹のみずあげの特技と応用-----いけ花や母竹を庭に移植の時などに活用-----│「竹庭と竹・笹」, p254)

参考資料:上田弘一郎, 吉川勝好:「竹庭と竹・笹」, ワールドグリーン出版, 1989