花紅柳緑~院長のブログ

京都府京田辺市、谷村医院の院長です。 日常診療を通じて感じたこと、四季折々の健康情報、趣味の活動を御報告いたします。

竹葉(ちくよう)│ハチク

2019-09-10 | 漢方の世界

八十八 若竹 や婦らん│「四季の花」夏之部・四, 芸艸堂, 明治41年

「竹葉」はイネ科、マダケ属の多年草常緑竹ハチク、学名Phyllostachys nigra (Lodd.) Munro var. henonis (Bean) Stapfの鶏冠状の葉から得られる生薬である。清熱薬に属し、薬性は甘、辛、淡、寒、帰経は心経、胃経、小腸経で、効能は生津除煩、清熱瀉火、利尿(清熱作用を有し、心火を冷まし心神を安定させ、胃熱を冷まして津液を潤し口渇を止める。利尿により熱を尿より排泄する。)である。方剤例では銀翹散、竹葉石膏湯などがある。
 またハチクの竹竿(茎)の表皮を除いた中間層から得る生薬は「竹筎」(ちくじょ)、竹竿を加熱して流出する液汁から得られる生薬は「竹瀝」(ちくれき)で、化痰止咳平喘薬に属する。「竹筎」の薬性は甘、微寒、帰経は肺経、胃経、胆経で、効能は清熱化痰・除煩、清熱止嘔、凉血止血(肺・胃の熱痰を除き、胆熱による煩燥を改善する。胃熱を冷まして嘔吐・吃逆を止める。血熱による各種の出血を止める。)である。「竹瀝」の薬性は甘、寒、帰経は心経、肺経、胃経で、効能は清熱化痰、清熱定驚(袪痰力が強く痰家の聖薬と称され、全身の熱痰を冷まして除く。心竅を閉塞した熱痰を除いて心神を安定させる。)である。「竹筎」を用いた方剤例には温胆湯、竹筎温胆湯、「竹瀝」には竹瀝湯などがある。

  雪竹   柏木如亭
勁節何愁人不知  敲金戛玉只心期
休言雪裏長低首  自有清風喚起時


勁節 何ぞ愁へん 人の知らざるを
敲金(こうきん) 戛玉(かつぎょく)只だ心に期す
言ふを休めよ 雪裏 長く首を低るるを
自づから清風の喚び起こす時有らん
(如亭山人遺藁巻一│揖斐高訳注:東洋文庫「柏木如亭詩集2」, 平凡社, 2017)

清風勁節(せいふうけいせつ)は堅固な竹の節のように節操を貫き清廉潔白であることを意味する。敲金戛玉(こうきんかつぎょく)は金や玉を打ち砕く音で、騒がしい破壊音に思えるがそうではない。詩の意は、時節が到来すれば、積雪に首を垂れた竹が立ち上がり本来の性を示すように、澄み切った清らかな音とともに傲骨の真面目(しんめんもく)を現す、である。如亭の先詩《竹》における芯が中空であることに掛けた「虚心」と本詩《雪竹》での堅牢な節に譬えた「勁節」は表裏一体の徳であり、人生行路で何を堅守して何を放下すべきかと我等に迫る。視覚的な美しさは勿論の事、古来、内外の文人墨客に此君が愛された所以である。