台風6号がもたらした雨が上がった日の朝まだき、釣り忍を揺らして一陣の涼風が吹き込んで来た。絵本「のらいぬ」(谷内こうた・絵、蔵冨千鶴子・文, 至光社, 2007 )は、のらいぬと少年の出会いと別れを描く。宏大な青い海原と天空、何処までも拡がる白い砂山を駆けて、辿り着いた灯台の頂上から少年とのらいぬは飛ぶ。しかしながら、のらいぬは地に落ち、
「あついひ、すなやまに みつけた ともだち」
「いつか きっと あえる」
の言葉とともに、小さな影を引いて砂山にたたずむ。
あつい日、のらいぬがすなやまでみつけたはずの少年は蒼穹の涯に飛び去った。跡形もなく消えた少年は、青春の光芒であり、心驕れる無頼であり、白く耀いていた夢である。運命の転変というものを節度ある絵本的手法で物すれば、果たして本書を越える表現があるだろうか。数えきれない程の歳月が流れ、あつい日がまた巡り来た。夏草が光るすなやまの遥か向こうから、翔べという声が今年も届く。