花紅柳緑~院長のブログ

京都府京田辺市、谷村医院の院長です。 日常診療を通じて感じたこと、四季折々の健康情報、趣味の活動を御報告いたします。

秋分の養生

2015-09-23 | 二十四節気の養生


秋分(9月23日)は、二十四節気の第16番目の節気である。昼夜の時間の長さが同じになる頃であり、秋分以降は春分とは反対に、昼の時間は短くなり夜が長くなって行く。身体は各々の体質に基づいて、虚(不足)や実(邪実)、寒や熱に偏る陰陽失調に陥りやすい。その偏りを見極めて今一度、身体の中の陰陽バランスをこの時期に目指す必要がある。
 秋の燥邪を感受して生じる温病である熱性疾患を「秋燥」と称するが、秋分前にみられた「温燥」から、秋分以降は「凉燥」に移行してゆく。夏の暑熱が残っている初秋に、燥邪と温熱の邪により引き起こされる「温燥」に対して、これからの「凉燥」は、次第に寒涼の気候に移行してゆく晩秋にかけて、燥邪と寒涼の邪によって発病する。このために「凉燥」は、風寒表証に似た症状に加え、津液の損傷による乾燥症状を伴なって、悪寒、発熱、頭痛、無汗、鼻閉、鼻腔や咽喉の乾燥やかゆみ、口唇の乾燥、咳嗽、稀薄な痰などの症状を呈する。この時期の感冒、急性上気道感染症、急性気管支炎などの気道炎症がこれに相当する。秋の燥邪は肺を障害するために、養生原則は益肺潤燥となり、肺を守り、津液の損失を防がねばならない。陰の不足は相対的な陽の過剰の状態になり、この陰陽失調から内熱を生じ易い。
 飲食で心がけるべきは少辛多酸である。葱や大蒜、生姜、唐辛子などの辛味のものは控えめが望ましく、林檎や葡萄等の酸味の果物は多めで良いが多食は不適である。『黄帝内経素問』蔵気法時論篇には「肺欲収、急食酸以収之、用酸補之、辛瀉之。』(肺が収斂を必要とする時は急いで酸味のものを食せよ。酸味は肺を補い、辛味が肺の邪気を瀉す。)の記載がある。酸味は肝に関連が深く、収斂・固澀(一つ所に集め留めること)の作用を持つ。そして辛味は肺に関連が深く、発散・行気・行血(外に散じる、気血を動かすこと)の働きを持つ。比較すれば酸味のキーワードは「収、澀」、一方の辛味は「散、行」となり、作用の方向性は真逆である。さらに肺と肝の関係は肺克肝(肺が肝の働きを抑えて制御する)である。すなわちこの時期の均衡をはかるためには、「散、行」は過剰にならぬ様に、「収、澀」を主力に置くべきとなる。秋に一押しの臓となる肺が熱暴走しないように留意するとともに、その場合に被害が生じるであろう肝の補強もあらかじめ考えておかねばならないのである。

水の面に 照る月なみを 数ふれば 今宵ぞ秋の もなかなりける     和漢朗詠集 十五夜